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婚約解消
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ハミルが近づいてきていることに、当然二人は気が付かない。
「ちょっと……。ダリル様っ。こんなところで……」
「いいじゃないか……。少しくらい」
ダリルが、ミリスの肩を、優しく抱き寄せた。
そして……。熱を持った視線で、見つめ合う。
「……いいかい? ミリス」
「聞かないでください……。そんなこと」
「君が愛しているのは……一体誰だろう」
「それは――」
「お楽しみのようだね」
「「!?」」
突然の声に、二人は飛び上がって驚いた。
そして、声の主を目にしたところ……。さらにもう一度、驚くことに。
「ハ、ハハハ、ハミ、ハミル様!!!?」
動揺するミリスに、笑顔のハミルが、優しく問いかける。
「ミリス、そちらの方は?」
「……し、知りません。私は何も!」
「それはないだろうミリス!」
「うるさいわね! こ、この男が、いきなり家に侵入してきて、唇を奪おうとしてきたんです! 信じてください! ハミル様!!!」
「なんだって!? よくそんなことが言えたな!!!」
「こらこら。喧嘩はやめてくれよ。とりあえず、ミリスと二人きりにしてもらってもいいかな?」
「うっ……。わかりました」
真っ青になったダリルが、そそくさと去って行った。
そして、さっきまで、ダリルが座っていた椅子に、ハミルがゆっくりと腰かける。
「……ミリス。これは一体、どういうことだろう。説明してもらえるかな?」
「ですから! あの男が急に――」
「彼は、オーセイア家の令息らしいね。ちょうど、リーブレット家とも、頻繁にやりとりをしているよ。うちの下請けの会社を営んでいるんだ」
「……」
「彼は、きっと、真実を話すことになるだろう。でないと、経営が傾いてしまうからね。その時、君の証言と食い違っていたら……。困るのは、君だと思うけれど」
「……だって、ハミル様が、全然構ってくれないから!!!」
勢いよく立ち上がったミリスは、ハミルに指を差し、怒鳴り始めた。
「仕事仕事で、どこにも連れて行ってくれない! 遊んでくれない! 家にも来てくれない! 愛が足りないの!」
「おいおい……。僕のせいにするのかい? 弱ったな」
「ダリル様は、毎日でも来てくださるわ! 私のことを、第一に考えてくださるの!!!」
あまりのわがままっぷりに、ハミルは頭を抱えた。
「じゃあ……。ダリルと婚約を結び直せばいいさ。僕とは、これで終わりだね」
「え? あっ、いや、それは――」
「すまなかったね。愛が足りなくて……」
「違います! 婚約はそのままで、あの」
「僕と婚約したまま、ダリルとの関係は続けたい……。そういうことかい?」
「……縁を、切りますわ。あんな男。元々、向こうから言い寄って来たんですもの!」
随分と、矛盾する証言だなぁと、ハミルは呆れていた。
同時に、これ以上、このわがまま令嬢と会話しても、仕方がないことも、悟っている。
「今日で、お別れだ。君が……。素敵な相手を見つけられるように、祈っているよ」
「待ってください! 嫌です! 婚約解消はいやぁ!!!」
「離してくれ……」
「絶対離すもんですか!」
「……」
ハミルは、護衛の者を呼んで、ミリスを無理矢理引き剥がさせた。
こんなところで、時間を使っていられないのだ。
婚約の解消は……。それなりに、手続きに、時間を要する。
「ハミルさまぁ!!! 行かないでぇええ!!!」
大声で叫ぶミリスを無視して、ハミルはエイリャーン家を後にした。
「ちょっと……。ダリル様っ。こんなところで……」
「いいじゃないか……。少しくらい」
ダリルが、ミリスの肩を、優しく抱き寄せた。
そして……。熱を持った視線で、見つめ合う。
「……いいかい? ミリス」
「聞かないでください……。そんなこと」
「君が愛しているのは……一体誰だろう」
「それは――」
「お楽しみのようだね」
「「!?」」
突然の声に、二人は飛び上がって驚いた。
そして、声の主を目にしたところ……。さらにもう一度、驚くことに。
「ハ、ハハハ、ハミ、ハミル様!!!?」
動揺するミリスに、笑顔のハミルが、優しく問いかける。
「ミリス、そちらの方は?」
「……し、知りません。私は何も!」
「それはないだろうミリス!」
「うるさいわね! こ、この男が、いきなり家に侵入してきて、唇を奪おうとしてきたんです! 信じてください! ハミル様!!!」
「なんだって!? よくそんなことが言えたな!!!」
「こらこら。喧嘩はやめてくれよ。とりあえず、ミリスと二人きりにしてもらってもいいかな?」
「うっ……。わかりました」
真っ青になったダリルが、そそくさと去って行った。
そして、さっきまで、ダリルが座っていた椅子に、ハミルがゆっくりと腰かける。
「……ミリス。これは一体、どういうことだろう。説明してもらえるかな?」
「ですから! あの男が急に――」
「彼は、オーセイア家の令息らしいね。ちょうど、リーブレット家とも、頻繁にやりとりをしているよ。うちの下請けの会社を営んでいるんだ」
「……」
「彼は、きっと、真実を話すことになるだろう。でないと、経営が傾いてしまうからね。その時、君の証言と食い違っていたら……。困るのは、君だと思うけれど」
「……だって、ハミル様が、全然構ってくれないから!!!」
勢いよく立ち上がったミリスは、ハミルに指を差し、怒鳴り始めた。
「仕事仕事で、どこにも連れて行ってくれない! 遊んでくれない! 家にも来てくれない! 愛が足りないの!」
「おいおい……。僕のせいにするのかい? 弱ったな」
「ダリル様は、毎日でも来てくださるわ! 私のことを、第一に考えてくださるの!!!」
あまりのわがままっぷりに、ハミルは頭を抱えた。
「じゃあ……。ダリルと婚約を結び直せばいいさ。僕とは、これで終わりだね」
「え? あっ、いや、それは――」
「すまなかったね。愛が足りなくて……」
「違います! 婚約はそのままで、あの」
「僕と婚約したまま、ダリルとの関係は続けたい……。そういうことかい?」
「……縁を、切りますわ。あんな男。元々、向こうから言い寄って来たんですもの!」
随分と、矛盾する証言だなぁと、ハミルは呆れていた。
同時に、これ以上、このわがまま令嬢と会話しても、仕方がないことも、悟っている。
「今日で、お別れだ。君が……。素敵な相手を見つけられるように、祈っているよ」
「待ってください! 嫌です! 婚約解消はいやぁ!!!」
「離してくれ……」
「絶対離すもんですか!」
「……」
ハミルは、護衛の者を呼んで、ミリスを無理矢理引き剥がさせた。
こんなところで、時間を使っていられないのだ。
婚約の解消は……。それなりに、手続きに、時間を要する。
「ハミルさまぁ!!! 行かないでぇええ!!!」
大声で叫ぶミリスを無視して、ハミルはエイリャーン家を後にした。
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