伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら

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醜い大人たち

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 アンリカが、想い人との再会を果たし、幸せな時間を過ごしている一方。

 エイリャーン家の当主、ビアールは、頭を抱えていた。

 今朝、自分の娘である、ミリスの浮気がバレ……。
 昼には、婚約が解消されてしまった。

 事業においても、リーブレット家との関りが深かったエイリャーン家だが、その取引は、当然中止となる。
 さらに、リーブレット家と関係の深い家からも、取引の中止を言い渡され……。

「どうすればいいんだ……」

 日が落ちるころには、すでに、両手の指では足りないほどの相手と、縁が切れてしまっていた。
 このままでは、エイリャーン家の経営など、ままになるわけがない。

「あなたのせいよ!」

 フリスラが、ビアールに投げつけたのは、くしゃくしゃに丸められた紙である。
 ……ちなみにそれは、婦人会追放の知らせなのだが。

「一体、何が僕のせいだと言うんだ」
「……ミリスの浮気を、見て見ぬフリしていたことよ!」
「そ、それは、君だって同じじゃないか!」
「わ、私は気が付かなかったもの」

 大嘘だ。
 あんなに堂々と、庭でイチャついているミリスを、見逃すわけがない。
 醜い大人の、責任のなすりつけ合いが、行われていた。

「若いうちは……。多くの恋愛をするのも、経験のうちだろと、そう言ったのは、君だったはずだが?」
「いいえ。そんなことは言ってないわ。浮気は絶対、許されないことよ」

 フリスラが、ミリスの浮気を黙認していたのには、理由があった。

 ……実は、フリスラも、浮気をしているのである。
 運が悪いことに、それをミリスには、気が付かれてしまっていた。
 だから、ミリスに対して、何も言えないのだ。

 ビアールは、何度も、ミリスを注意しようとしていた。
 せっかく、侯爵家の令息と、自分の娘を、婚約させることができたのに、台無しにしたくなかったからだ。

 しかし、フリスラに言いくるめられ、黙認せざるを得なかった……。

 不毛なやり取りを続ける二人。
 ドアが、激しくノックされ、一人のメイドが、姿を現した。

「失礼します! ガールリン家がお見えです!」
「い、今は手が離せん!」
「それから、シスファーロ家も!」
「くぅうう!!!!」

 次から次へと、取引中止を言い渡しに、重役がやってくる!
 もはやビアールは、爆発寸前だった。

 こんな時に、アンリカがいてくれたら……。
 後悔するには、あまりに遅すぎた。

「もう! 無理だ! 僕は寝る!」
「はぁ!?」
「お休み!」

 ビアールは、ベッドに潜り込んでしまった。

「ちょっと! ビア―ル!? 子供みたいなこと、しないでちょうだいよ!!」
「うるさい! もう僕は疲れたんだ!」
「あなた! 手伝いなさい!」
「は、はい!」

 メイドと協力して、ビアールをベッドから引きずりだそうとするフリスラ。

 もしここに、アンリカがいたら、腹を抱えて笑っただろう。 
 どうしようもなく、情けない、みっともない光景であった。
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