王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら

文字の大きさ
1 / 21

強引な追放

しおりを挟む
「ライロット・メンゼム。貴様は今日で、この王都から出て行ってもらう」

 ライロットは、耳を疑った。
 
 どうして自分が……。一体、何をしたというのだろう。
 色々と、考えを巡らせてみるが、全く思い当たる点がなかった。

「レイドル様……。理由をお聞かせください」

 玉座に座り、自分を睨みつけている国王――レイドル・カージリストに、ライロットは尋ねた。
 レイドルは、少しだけ口角を上げ、答える。

「まさか、この場で白を切るとはな……。勇気のある娘と言えよう」

 白を切るも何も、ライロットには、本当に心当たりがなかった。
 辺境の小さな村から、王都に連れて来られ、今年で十年……。
 自分は、平和に、平凡に、生活をしてきたはずである。
 国に咎められるようなことをした覚えは、全く無い。

「よろしい。であれば、証言者を呼ぶことにする」

 レイドルが、横に立っていた執事に耳打ちをした。
 執事はすぐに、王の間を出て行く。

 やがて……。一人の女性を連れて、戻ってきた。

 真っ赤な髪と、碧い目が特徴的な美少女。
 キリマール侯爵家の令嬢、ユレイナだった。
 今年で十七歳になるはずの彼女は……。童顔であり、背も低いせいか、どことなく子供っぽい印象を受ける。

 ユレイナは、レイドルの横に立ち、ライロットを睨みつけた。

「ユレイナ。説明しなさい。……この女が、犯した罪を」
「はい。……ライロット・メンゼム。あなたは、私の婚約者である、ヘイサル王子を、淫らな態度で誘惑し、私から奪い去ろうとした。そうよね?」
「は……?」

 淫らな誘惑……? 私が……?
 ライロットは混乱した。自分がまさか、そんなことをするはずがない。
 
 しかし、ユレイナの表情は、自信に満ち溢れている。ライロットを完全な敵とみなし、堂々とした目で、睨みつけているのだった。

「ライロット。何か、反論はあるか?」
「反論も何も……。覚えがありません。どうして私が、ヘイサル王子を……。誘惑せねばならないのですか?」
「あなたは、街の花屋で働いているでしょう? やけに田舎臭い娘がいるなぁって、ずっと思っていたのよ。店の前を通る度、うんざりしていたわ。……狙っていたのよね。ヘイサル王子が、店に来るタイミングを」
「全く何をおっしゃっているのか……」
「とぼけないでちょうだい!」

 いきなり大きな声を出したユレイナ。
 彼女は、よく癇癪を起こすとのことで、町でも有名だった。
 
 ライロットは……。極めて冷静に、反論をすることにした。

「……確かに、ヘイサル王子は、私の働いている店で、よく花を買ってくださいます。しかし、話す内容と言えば、どのような花が、ユレイナ様に似合うだろう。とか……。そう言った話題が多かったですよ?」
 
 声を少し、抑えめにして、決して相手を刺激しないよう努めたライロット。

 しかし、そのライロットの冷静さと、ゆとりある態度が、逆にユレイナを怒らせてしまった。

「ヘイサル王子は、いつもあなたの話をするのよ! おかしいでしょう!? 私は婚約者なのに! 私の方が美人なのに! どうしてあなたみたいな、平凡で何の取り柄もない、ヘラヘラした村娘に、婚約者を奪われなければいけないの!? もううんざりよ!! 早く国から出て行って!」

 ユレイナは、ついに泣き出してしまった。
 執事が、ユレイナにハンカチを手渡す。

「……そういうわけだ。是非、王都から出て行ってくれ」

 レイドルが、半笑いでそう言った。

「待ってください……。明らかに、ユレイナ様の被害妄想です。こんなことで、追放などしてしまえば、国王の評判にも、きっと悪影響を及ぼすはずですよ?」
「逆らうのか? 私に反抗するものは、死罪すら適応されるが……」
「くっ……」

 どうやら、レイドルは本気らしい。
 自分の息子の婚約者だからと言って、甘すぎやしないだろうか。

 十年間住んできた街だ。愛着もある。
 ……辺境の村から、中ば強制的に、労働者として連れて来られた自分へ、工場に連れて行かれる前に声をかけてくれた、花屋の主人と、その仲間たち。
 そして、毎日花を買いに来てくれる、街の人々。

 彼らと離れることは、考えたくなかった。

 ……しかし、逆らってしまえば、おそらく花屋に、迷惑がかかるだろう。
 それだけは、避けなければいけない。

 ライロットは……。渋々、首を縦に振った。

「……わかりました。出て行きます」
「それでよい」
「……ふんっ」

 さっきまで泣いていたはずのユレイナは、もうとっくに、平気な顔をしていた。
 ……どうやら、嘘泣きだったらしい。

「ねぇねぇ。レイドル様」

 馴れ馴れしい態度で、レイドルに語り掛けるユレイナ。
 そんなユレイナに、ニヤニヤしながら、レイドルは応じる。

「どうした? 可愛い可愛いユレイナよ」
「ライロットは、サンバスタに行くべきだと思いますの」
「それはなぜだ?」
「磯臭い空気が、きっとお似合いですもの。それに、街を出て行くと言っても、彼女の資産では、どうせ大した移動もできません。……また、顔を合わせることになったら、最悪ですわ。それならいっそ、島送りにしてしまった方が良いでしょう?」
「なるほど。それは名案だ。……聞いたか? ライロットよ」
「……はい」

 サンバスタは、ここエージャリオンの領土にあたる島である。
 ライロットは、馴染みがなかったが……。どうせ、戻ってくることが叶わないのであれば、いっそ遠く離れた方がマシだと思っていた。

「今晩確か……。大きな船が出るだろう。それに乗れるように、手配しておいてやる。良いか? 今晩だ。決して乗り遅れるなよ……?」
「わかりました……」
「よろしい。では、さっさと行け」
「……失礼します」

 礼をしてから、ライロットは、王の間を出て行った。

 今から花屋に戻り……。
 起きた出来事を告げなければいけないことが、何より苦痛に感じた。

 きっと、たくさん泣くだろう。
 ……そして、泣かせてしまうだろう。

 だけど、永遠の別れではない。
 すでに、少しだけ流れ始めてしまった涙を拭いて、ライロットは帰路についた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」 政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。 だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。 「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」 追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。 経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。 これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。

【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン
恋愛
セレスティア伯爵家の長女フィーナは、生まれつき強大すぎる魔力を制御できず、常に体から生命力ごと魔力が漏れ出すという原因不明の症状に苦しんでいた。そのせいで慢性的な体調不良に陥り『幽霊令嬢』『出来損ない』と蔑まれ、父、母、そして聖女と謳われる妹イリス、さらには専属侍女からも虐げられる日々を送っていた。 晩餐会で婚約者であるエリオット王国・王太子アッシュから「欠陥品」と罵られ、公衆の面前で婚約を破棄される。アッシュは新たな婚約者に妹イリスを選び、フィーナを魔力の枯渇した不毛の大地『グランフェルド』へ追放することを宣言する。しかし、死地へ送られるフィーナは絶望しなかった。むしろ長年の苦しみから解放されたように晴れやかな気持ちで追放を受け入れる。 グランフェルドへ向かう道中、あれほど彼女を苦しめていた体調不良が嘘のように快復していくことに気づく。追放先で出会った青年ロイエルと共に土地を蘇らせようと奮闘する一方で、王国では異変が次々と起き始め………。

奈落を封印する聖女ですが、可愛い妹が追放されたので、国を見捨てる事にしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ファンケン公爵家の長女クラリスは本来家を継ぐ立場だった。だが奈落の底に住む魔族を封印する奈落の聖女に選ばれてしまった。聖なる役目を果たすため、クラリスは聖女となり、次女のエレノアが後継者となった。それから五年、両親が相次いで亡くなり、エレノアは女性ながら公爵となり莫大な資産を引き継いだ。その財産に目をつけたのが、日頃から素行の悪い王太子アキーレヌだった。愛人のキアナと結託し、罠を仕掛けた。まず国王を動かし、エレノアを王太子の婚約者とした。その上で強引に婚前交渉を迫り、エレノアが王太子を叩くように仕向け、不敬罪でお家断絶・私財没収・国外追放刑とした。それを奈落を封じる神殿で聞いたクラリスは激怒して、国を見捨てエレノアと一緒に隣国に行くことにしたのだった。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...