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酷い仕打ち

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「バンナ様……?」

 突然現れた子爵令嬢に、エメラは目を見開いた。
 そんなエメラに目を向けることも無く、バンナはソーマの元へ近づいていく。
 
 執事がもう一つ椅子を用意して、ソーマの隣に置いた。

 婚約者であるはずのエメラは、そんな二人の対面に座っている。
 どちらが婚約者か、一見わからない状況になった。

「ごきげんよう。ソーマ様。今日も美しいお顔ですわね」

 バンナは、うっとりした表情でソーマを見つめた。
 ソーマもそれに応えるように、キザを気取るような表情を返す。

「何を言っているんだい。君が来てくれたからだよ」
「さっきまでは……。あのちんちくりんと二人きりでしたもんね」

 ちんちくりん。
 そう呼ぶタイミングで、エメラをバカにするような視線を向けたバンナ。

 バンナはエメラとソーマより二つ年上で、背が高い。
 彼女から見ればエメラは確かにちんちくりんかもしれないが……。
 貴族が貴族に対して使う言葉として、適当とは言えなかった。

「……ソーマ様。これは一体なんですか?」
「なんですか? ははっ。不思議な尋ね方をするんだね」
「そうですわよエメラ。私のことをお忘れになって?」
「皮肉を言うのはやめてください」

 エメラは席を立ち、二人を見降ろした。
 しかし二人は、余裕の表情で顔を見合わせ、笑い始めた。

「あぁ面白い。さすが男爵令嬢ですわ。気品が無いったらありゃしない」
「そうだね。君とは大違いだ」
「……浮気、ということでよろしいですか?」
「構わないよ。男爵家の令嬢ごとき、どうなっても人の知ったことじゃないからね」
「ねぇソーマ様。私の家で、ゆっくり紅茶を飲みましょうよ」
「うん。そうしようか」

 二人は立ち上がり、馬車を呼んだ。
 まさかの事態に、さすがのエメラも声を荒げずにはいられない。

「どこに行くつもりですか!」
「うるさいわね……。あなたは森が好きなのでしょう? そこで一人で冷めた紅茶を飲むと良いわ」
「森はソーマ様に連れてこられたのです。……こんなところで紅茶を飲みたいだなんて、おかしいと思いましたが、やはりこう言った罠があったのですね」
「罠だなんてとんでもない。君に伝え忘れていただけだよ」

 エメラは拳を握り締める。
 二人はそんなエメラを気に留めることもなく、馬車に乗りこんだ。

 もはや声をかける気力も無い。
 テーブルと椅子、紅茶などが次々と片付けられていく。

「……申し訳ございませんが、あなたを乗せる馬車はありません」
「……なんですって?」

 執事はそれだけ言って、馬車に乗りこんでしまった。

「なんてこと……。歩いて街に帰れって言うの?」

 あっという間に、エメラは独り、取り残されてされてしまった。
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