婚約者に捨てられた私ですが、王子曰く聖女の力が宿っているみたいです。

冬吹せいら

文字の大きさ
2 / 16

酷い仕打ち

しおりを挟む
「バンナ様……?」

 突然現れた子爵令嬢に、エメラは目を見開いた。
 そんなエメラに目を向けることも無く、バンナはソーマの元へ近づいていく。
 
 執事がもう一つ椅子を用意して、ソーマの隣に置いた。

 婚約者であるはずのエメラは、そんな二人の対面に座っている。
 どちらが婚約者か、一見わからない状況になった。

「ごきげんよう。ソーマ様。今日も美しいお顔ですわね」

 バンナは、うっとりした表情でソーマを見つめた。
 ソーマもそれに応えるように、キザを気取るような表情を返す。

「何を言っているんだい。君が来てくれたからだよ」
「さっきまでは……。あのちんちくりんと二人きりでしたもんね」

 ちんちくりん。
 そう呼ぶタイミングで、エメラをバカにするような視線を向けたバンナ。

 バンナはエメラとソーマより二つ年上で、背が高い。
 彼女から見ればエメラは確かにちんちくりんかもしれないが……。
 貴族が貴族に対して使う言葉として、適当とは言えなかった。

「……ソーマ様。これは一体なんですか?」
「なんですか? ははっ。不思議な尋ね方をするんだね」
「そうですわよエメラ。私のことをお忘れになって?」
「皮肉を言うのはやめてください」

 エメラは席を立ち、二人を見降ろした。
 しかし二人は、余裕の表情で顔を見合わせ、笑い始めた。

「あぁ面白い。さすが男爵令嬢ですわ。気品が無いったらありゃしない」
「そうだね。君とは大違いだ」
「……浮気、ということでよろしいですか?」
「構わないよ。男爵家の令嬢ごとき、どうなっても人の知ったことじゃないからね」
「ねぇソーマ様。私の家で、ゆっくり紅茶を飲みましょうよ」
「うん。そうしようか」

 二人は立ち上がり、馬車を呼んだ。
 まさかの事態に、さすがのエメラも声を荒げずにはいられない。

「どこに行くつもりですか!」
「うるさいわね……。あなたは森が好きなのでしょう? そこで一人で冷めた紅茶を飲むと良いわ」
「森はソーマ様に連れてこられたのです。……こんなところで紅茶を飲みたいだなんて、おかしいと思いましたが、やはりこう言った罠があったのですね」
「罠だなんてとんでもない。君に伝え忘れていただけだよ」

 エメラは拳を握り締める。
 二人はそんなエメラを気に留めることもなく、馬車に乗りこんだ。

 もはや声をかける気力も無い。
 テーブルと椅子、紅茶などが次々と片付けられていく。

「……申し訳ございませんが、あなたを乗せる馬車はありません」
「……なんですって?」

 執事はそれだけ言って、馬車に乗りこんでしまった。

「なんてこと……。歩いて街に帰れって言うの?」

 あっという間に、エメラは独り、取り残されてされてしまった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄されましたが気にしません

翔王(とわ)
恋愛
夜会に参加していたらいきなり婚約者のクリフ王太子殿下から婚約破棄を宣言される。 「メロディ、貴様とは婚約破棄をする!!!義妹のミルカをいつも虐げてるらしいじゃないか、そんな事性悪な貴様とは婚約破棄だ!!」 「ミルカを次の婚約者とする!!」 突然のことで反論できず、失意のまま帰宅する。 帰宅すると父に呼ばれ、「婚約破棄されたお前を置いておけないから修道院に行け」と言われ、何もかもが嫌になったメロディは父と義母の前で転移魔法で逃亡した。 魔法を使えることを知らなかった父達は慌てるが、どこ行ったかも分からずじまいだった。

婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?

恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢 この婚約破棄はどうなる? ザッ思いつき作品 恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。

婚約者は私より親友を選ぶようです。親友の身代わりに精霊王の生贄になった私は幸せになり、国は滅ぶようです。

亜綺羅もも
恋愛
ルビア・エクスレーンには親友のレイ・フォルグスがいた。 彼女は精霊王と呼ばれる者の生贄に選ばれる。 その話を聞いたルビアは、婚約者であるラース・ボルタージュ王子に相談を持ち掛けた。 生贄の事に関してはどうしようもないと答えるラース。 だがそれから一月ほど経った頃のこと。 突然ラースに呼び出されるルビア。 なんとラースは、レイを妃にすることを決断し、ルビアに婚約破棄を言い渡す。 ルビアはレイの身代わりに、精霊王の生贄とされてしまう。 ルビアは精霊王であるイクス・ストウィックのもとへと行き、彼のもとで死ぬことを覚悟する。 だがそんな覚悟に意味はなく、イクスとの幸せな日々が待っていたのであった。 そして精霊たちの怒りを買ったラースたちの運命は……

地味だからいらないと婚約者を捨てた友人。だけど私と付き合いだしてから素敵な男性になると今更返せと言ってきました。ええ、返すつもりはありません

亜綺羅もも
恋愛
エリーゼ・ルンフォルムにはカリーナ・エドレインという友人がいた。 そしてカリーナには、エリック・カーマインという婚約者がいた。 カリーナはエリックが地味で根暗なのが気に入らないらしく、愚痴をこぼす毎日。 そんなある日のこと、カリーナはセシル・ボルボックスという男性を連れて来て、エリックとの婚約を解消してしまう。 落ち込むエリックであったが、エリーゼの優しさに包まれ、そして彼女に好意を抱き素敵な男性に変身していく。 カリーナは変わったエリックを見て、よりを戻してあげるなどと言い出したのだが、エリックの答えはノーだった。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

平民を好きになった婚約者は、私を捨てて破滅するようです

天宮有
恋愛
「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」  婚約者だった公爵令息のジェイクに、子爵令嬢の私セリスは婚約破棄を言い渡されてしまう。  ローナを平民だと見下し傷つけたと嘘の報告をされて、周囲からも避けられるようになっていた。  そんな中、家族と侯爵令息のアインだけは力になってくれて、私はローナより聖女の力が強かった。  聖女ローナの評判は悪く、徐々に私の方が聖女に相応しいと言われるようになって――ジェイクは破滅することとなっていた。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

処理中です...