婚約者に捨てられた私ですが、王子曰く聖女の力が宿っているみたいです。

冬吹せいら

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聖女 VS 化け物

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「キスをしよう」
「……え?」

 キリスとエメラは、ソーマの手放した領地を訪れていた。

 しばらく歩いたところで、いきなりキリスに、そんな提案をされたのだ。
 顔を真っ赤にして驚くエメラに対して、キリスは至って真面目な顔をしている。

「冗談じゃないよ。……これが罠であることは、君もわかっているだろう?」
「……はい」
「きっとソーマは、伯爵家が保有している禁書の封印を解くつもりなんだ」
「き、禁書!?」
「うん。おそらく、悪魔と契約して僕たちを殺す予定なんだろうね」
「……それと、キスをすることが、何か関係があるんですか?」

 エメラが尋ねると、キリスはようやく笑みを浮かべた。

「僕は聖女の覚醒させる力を宿している……。キスはその仕上げだよ」
「なるほど……」

 キリスとキスをすることに、エメラは何のためらいもなかった。
 しかしその理由が、これからここを訪れるであろう悪魔を倒すためというのが、少し残念だったが……。

「もちろん僕は君のことが好きだよ。慌てて婚約を結ぶくらいには」
「それは……。わかっているつもりです」
「良かった。じゃあ、キスを――」

 キリスがそう言いかけた、その時だった。
 二人めがけて、大きな矢が降り注ぎ始めたのだ。
 エメラは慌ててキリスを抱きしめ、その場から脱した。

「ふっふっふ……」

 低い笑い声と共に現れたのは……。
 右手から触手を生やし、左の足はクマのように毛むくじゃらになっている、異形の化け物――。

 しかし、その背の高さと、僅かに残された顔面の面影で、すぐに二人は正体に気が付いた。

「……驚いたよ。まさか自分ではなくて、バンナに禁書を読ませるだなんてね」

 キリスがそう呟くと、バンナの後ろから……。ソーマが姿を現した。

「悪魔は女を好むんです。そんなことも知らないんですか?」
「すまない。勉強不足でね」
「ころっ、ころろろおすううぅうう!!」

 怒り狂った化け物が、大きな鉄球を次から次へと生み出し、二人めがけて投げつけてくる。
 エメラは聖女の力でバリアを張り、なんとかしのいだ。

「さぁ。キスをしよう」
「は、はい!」

 シチュエーションだとか、雰囲気だとかを気にしている場合では無かった。

 キリスに頭を支えられながら……。
 静かに、口づけを交わした。
 
 すると、二人を守っていたバリアが、突然光り出す。
 エメラの背中から、大きな翼が生えた。

「あの化け物が異形となったように、強すぎる魔力は可視化されるんだ」

 翼を撫でながら、キリスは言った。
 エメラは体の奥底から、力が湧いてきていることを感じている。

「さぁエメラ――いや、聖女様。悪を打ち滅ぼしてください」
「――わかりました」

 エメラが目を見開くと、翼が大きく広がった。

「ぎいいいぃいいっ! ころころろろぉおっ!」

 バンナも対抗して、黒い翼を生やす。
 自分の体の数倍大きな剣を生み出し――。
 エメラに向かって突進した。


 眩い光が、弾けるように広がった。

 そして……。

 光が消えるころには、もうバンナの姿はなかった。
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