「君の話はつまらない」と言われて婚約を破棄されましたが、本当につまらないのはあなたの方ですよ。

冬吹せいら

文字の大きさ
3 / 15

媚びる悪役令嬢

しおりを挟む
「あっはっは……!」

 リゼッタが部屋を出て行ってから、アイナは笑いが止まらなくなった。 
 昔から容姿が非常に優れている、大人っぽいリゼッタに対して、嫉妬心を抱いていたアイナ。
 
 しかしながら、自分の武器を活かすことで、とうとうそのリゼッタの婚約者を奪うことができたのだ。
 勝利の余韻を堪能しながら、ひとしきり笑った後……。

「さて、猫の話でもしようか」

 突然、ハメッドがそんなことを言い出した。
 まるで興味の無い話題だが、アイナは目をまんまるにして、いかにも話が聞きたくて仕方がないというフリをする。

「猫!? 私、とっても好きですわ!」
「ははっ。やっぱりアイナは違うなぁ。あの機械みたいなクソ令嬢はね。僕が猫と言うと、すぐに顔を歪めるんだ」
「全くダメな女ですわ。私は絶対そんなことしません。さぁお話を聞かせてくださいませ」

 リゼッタは、何も最初から顔を歪めていたわけではない。

 ハメッドの猫の話は、パターンが一つしかないのだ。
 同じ話を、毎日のように繰り返すばかり。
 それを注意しても、ハメッドは一切修正しようとしない。

「……っていう話なんだよ。可愛いだろう?」
「えぇ。とっても素敵ですわ」

 ハメッドは、猫の話をニ十分ほどで終えて、今度はアイナと手を繋ぎ食堂へと向かった。

「広い食堂だなぁ……」
「そうですわね」
「こんな食堂を作ることができたのも、ご先祖様たちのおかげなんだ」

 この話は、すでにアイナも聞いたことがあった。 
 しかし、まるで初めてのように驚いてみせる。

 要領を得ないハメッドの代わりに、ここへ短くまとめておこう。

 ・リベルトン公爵家の数世代前の当主が、隣国の王族だった。
 ・この国の王と仲良くなり、移り住むことに。
 ・結果、公爵という高い地位を得ることになった。

 なかなか珍しい例だが、数世代前の世界が混沌としていた時代ならば、あり得ないことではなかった。

 しかしそれから時間も経ち、この国の王族でもないのに公爵家という地位を得ている謎の金持ちという立場になっているのが、現在のリベルトン家である。
 隣国では革命が起き、すでに親族と呼ぶべき王族は追放されていた。
 そのせいで、より一層謎の存在として、リベルトン家は冷ややかな目を向けられている。

「……どうだい? 僕らの家のすごさが分かったかな?」
「はい。もちろんですわ」

 アイナは話の半分ほども飲み込めていなかったが、笑顔でそう返した。

「さて、じゃあ食堂に来たわけだし、食事でもしよう。まだ面白い話がたくさんあるんだ」
「……嬉しいですわ」

 アイナの声は明らかに弱々しくなっていた。
 こんなくだらない話が、まだまだ続くのか……。
 
 しかし、リゼッタから婚約者を奪い、地位まで手に入れた以上、我慢しようと思えばできる程度の苦痛だった。

「これは、昨日見た花壇の話なんだけど……」

 アイナは目をキラキラさせて、話に耳を傾けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

母は、優秀な息子に家の中では自分だけを頼ってほしかったのかもしれませんが、世話ができない時のことを全く想像していなかった気がします

珠宮さくら
恋愛
オデット・エティエンヌは、色んな人たちから兄を羨ましがられ、そんな兄に国で一番の美人の婚約者ができて、更に凄い注目を浴びる2人にドン引きしていた。 だが、もっとドン引きしたのは、実の兄のことだった。外ではとても優秀な子息で将来を有望視されているイケメンだが、家の中では母が何から何までしていて、ダメ男になっていたのだ。 オデットは、母が食あたりをした時に代わりをすることになって、その酷さを知ることになったが、信じられないくらいダメさだった。 そんなところを直す気さえあればよかったのだが……。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

双子の片割れと母に酷いことを言われて傷つきましたが、理解してくれる人と婚約できたはずが、利用価値があったから優しくしてくれたようです

珠宮さくら
恋愛
ベルティーユ・バランドは、よく転ぶことで双子の片割れや母にドジな子供だと思われていた。 でも、それが病気のせいだとわかってから、両親が離婚して片割れとの縁も切れたことで、理解してくれる人と婚約して幸せになるはずだったのだが、そうはならなかった。 理解していると思っていたのにそうではなかったのだ。双子の片割れや母より、わかってくれていると思っていたのも、勘違いしていただけのようだ。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

姉に婚約破棄されるのは時間の問題のように言われ、私は大好きな婚約者と幼なじみの応援をしようとしたのですが、覚悟しきれませんでした

珠宮さくら
恋愛
リュシエンヌ・サヴィニーは、伯爵家に生まれ、幼い頃から愛らしい少女だった。男の子の初恋を軒並み奪うような罪作りな一面もあったが、本人にその自覚は全くなかった。 それを目撃してばかりいたのは、リュシエンヌの幼なじみだったが、彼女とは親友だとリュシエンヌは思っていた。 そんな彼女を疎ましく思って嫌っていたのが、リュシエンヌの姉だったが、妹は姉を嫌うことはなかったのだが……。

「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜

万里戸千波
恋愛
公爵令嬢リリエンは卒業パーティーの最中、突然婚約者のジェラルド王子から婚約破棄を申し渡された

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。

しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」 卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。 その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。 損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。 オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。 どうしてこんなことに……。 なんて言うつもりはなくて、国外追放? 計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね! では、皆様ごきげんよう!

処理中です...