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媚びる悪役令嬢
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「あっはっは……!」
リゼッタが部屋を出て行ってから、アイナは笑いが止まらなくなった。
昔から容姿が非常に優れている、大人っぽいリゼッタに対して、嫉妬心を抱いていたアイナ。
しかしながら、自分の武器を活かすことで、とうとうそのリゼッタの婚約者を奪うことができたのだ。
勝利の余韻を堪能しながら、ひとしきり笑った後……。
「さて、猫の話でもしようか」
突然、ハメッドがそんなことを言い出した。
まるで興味の無い話題だが、アイナは目をまんまるにして、いかにも話が聞きたくて仕方がないというフリをする。
「猫!? 私、とっても好きですわ!」
「ははっ。やっぱりアイナは違うなぁ。あの機械みたいなクソ令嬢はね。僕が猫と言うと、すぐに顔を歪めるんだ」
「全くダメな女ですわ。私は絶対そんなことしません。さぁお話を聞かせてくださいませ」
リゼッタは、何も最初から顔を歪めていたわけではない。
ハメッドの猫の話は、パターンが一つしかないのだ。
同じ話を、毎日のように繰り返すばかり。
それを注意しても、ハメッドは一切修正しようとしない。
「……っていう話なんだよ。可愛いだろう?」
「えぇ。とっても素敵ですわ」
ハメッドは、猫の話をニ十分ほどで終えて、今度はアイナと手を繋ぎ食堂へと向かった。
「広い食堂だなぁ……」
「そうですわね」
「こんな食堂を作ることができたのも、ご先祖様たちのおかげなんだ」
この話は、すでにアイナも聞いたことがあった。
しかし、まるで初めてのように驚いてみせる。
要領を得ないハメッドの代わりに、ここへ短くまとめておこう。
・リベルトン公爵家の数世代前の当主が、隣国の王族だった。
・この国の王と仲良くなり、移り住むことに。
・結果、公爵という高い地位を得ることになった。
なかなか珍しい例だが、数世代前の世界が混沌としていた時代ならば、あり得ないことではなかった。
しかしそれから時間も経ち、この国の王族でもないのに公爵家という地位を得ている謎の金持ちという立場になっているのが、現在のリベルトン家である。
隣国では革命が起き、すでに親族と呼ぶべき王族は追放されていた。
そのせいで、より一層謎の存在として、リベルトン家は冷ややかな目を向けられている。
「……どうだい? 僕らの家のすごさが分かったかな?」
「はい。もちろんですわ」
アイナは話の半分ほども飲み込めていなかったが、笑顔でそう返した。
「さて、じゃあ食堂に来たわけだし、食事でもしよう。まだ面白い話がたくさんあるんだ」
「……嬉しいですわ」
アイナの声は明らかに弱々しくなっていた。
こんなくだらない話が、まだまだ続くのか……。
しかし、リゼッタから婚約者を奪い、地位まで手に入れた以上、我慢しようと思えばできる程度の苦痛だった。
「これは、昨日見た花壇の話なんだけど……」
アイナは目をキラキラさせて、話に耳を傾けた。
リゼッタが部屋を出て行ってから、アイナは笑いが止まらなくなった。
昔から容姿が非常に優れている、大人っぽいリゼッタに対して、嫉妬心を抱いていたアイナ。
しかしながら、自分の武器を活かすことで、とうとうそのリゼッタの婚約者を奪うことができたのだ。
勝利の余韻を堪能しながら、ひとしきり笑った後……。
「さて、猫の話でもしようか」
突然、ハメッドがそんなことを言い出した。
まるで興味の無い話題だが、アイナは目をまんまるにして、いかにも話が聞きたくて仕方がないというフリをする。
「猫!? 私、とっても好きですわ!」
「ははっ。やっぱりアイナは違うなぁ。あの機械みたいなクソ令嬢はね。僕が猫と言うと、すぐに顔を歪めるんだ」
「全くダメな女ですわ。私は絶対そんなことしません。さぁお話を聞かせてくださいませ」
リゼッタは、何も最初から顔を歪めていたわけではない。
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同じ話を、毎日のように繰り返すばかり。
それを注意しても、ハメッドは一切修正しようとしない。
「……っていう話なんだよ。可愛いだろう?」
「えぇ。とっても素敵ですわ」
ハメッドは、猫の話をニ十分ほどで終えて、今度はアイナと手を繋ぎ食堂へと向かった。
「広い食堂だなぁ……」
「そうですわね」
「こんな食堂を作ることができたのも、ご先祖様たちのおかげなんだ」
この話は、すでにアイナも聞いたことがあった。
しかし、まるで初めてのように驚いてみせる。
要領を得ないハメッドの代わりに、ここへ短くまとめておこう。
・リベルトン公爵家の数世代前の当主が、隣国の王族だった。
・この国の王と仲良くなり、移り住むことに。
・結果、公爵という高い地位を得ることになった。
なかなか珍しい例だが、数世代前の世界が混沌としていた時代ならば、あり得ないことではなかった。
しかしそれから時間も経ち、この国の王族でもないのに公爵家という地位を得ている謎の金持ちという立場になっているのが、現在のリベルトン家である。
隣国では革命が起き、すでに親族と呼ぶべき王族は追放されていた。
そのせいで、より一層謎の存在として、リベルトン家は冷ややかな目を向けられている。
「……どうだい? 僕らの家のすごさが分かったかな?」
「はい。もちろんですわ」
アイナは話の半分ほども飲み込めていなかったが、笑顔でそう返した。
「さて、じゃあ食堂に来たわけだし、食事でもしよう。まだ面白い話がたくさんあるんだ」
「……嬉しいですわ」
アイナの声は明らかに弱々しくなっていた。
こんなくだらない話が、まだまだ続くのか……。
しかし、リゼッタから婚約者を奪い、地位まで手に入れた以上、我慢しようと思えばできる程度の苦痛だった。
「これは、昨日見た花壇の話なんだけど……」
アイナは目をキラキラさせて、話に耳を傾けた。
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