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クマさんの秘密
しおりを挟む「……あの、醜いって誰がですか?」
「だから私らがだよ」
「え、ジェシカさんとラウレンくんのことですか?」
他に誰がいるんだい、と言ってジェシカさんは困り顔で笑った。
いやいやいやいやいやいや(以下省略)
それおかしいだろ。もしかしてこの世界、美醜がおかしなことになっている!?
話を聞くと、世間一般的にジェシカさんとラウレン君はブスらしい。特にラウレン君はとんでもない醜男として映るらしく、道を歩けば物を投げられ、人によっては泣き叫んだり吐く者もいるらしい。んなアホな。
人から悪意を向けられ、それをぶつけられれば誰だって引きこもりになるだろう。ひどい話に私は泣いた。こんなに美しい姉弟なのに、どこが醜いのか分からない。いや、たとえ醜くたって物を投げていいわけが無い。その辺の教育どうなってんの?
わんわん泣く私(※クマ)を見て、ラウレンくんは近づくと頭を撫でてくれた。なんて優しい子なのぉぉ~!感極まってぎゅっと彼を抱きしめた。こんな細い体で一体どれだけ苦労したんだろう。そう考えると涙が止まらない。しかし、彼がうめいているのに気がついて慌てて彼を離した。いかん、今の私はクマだった。
「ラウレンくん、私は君のことを醜いなんて思わない。絶対にひどいことはしないって約束する。だから友達になろう?」
それにラウレンくんは小さく頷いてくれた。その様子を見ていたジェシカさんは涙ぐんでいる。泣いても美人なジェシカさんが醜女だなんて信じられない。世の中おかしいよ。
結局、私はこれからここで暮らすことになり、二人と一頭の奇妙な生活が始まったのだった。
とは言ってもこの巨体。二人暮らしにぴったりの小さな家に、私のための居住スペースなどあるはずがなく。話し合った結果、私は小屋に住むことになった。二人は申し訳なさそうにしていたけれど、クマなだけに小屋でも十分居心地は良かった。
彼らとの暮らしはシンプルだった。朝起きてまず最初に森の泉で水を汲んで家に持って行くことから始まる。力仕事は私にお任せ、バケツに水を汲むと口に咥えて何度も往復して運んだ。
次に朝食を作ってみんなで食べ、後片付けをラウレンくんに任せている間、ジェシカさんと私は森に入って食材を採りに行った。
森には狼など危険な動物がいるため今まで奥まで進むことができなかったらしい。けれど私と一緒にいると、どの獣も近づいてこないので大変助かると喜ばれた。そりゃ確かにこの巨体じゃねぇ。確かヒグマって六百キロ位あったような。自分で言うのもなんだけどこの姿は迫力満点だ。
「ラウレンくんただいま~!」
「お、お、おかえり、フーミン」
暮らし始めて一月。少しづつだけどラウレンくんとの距離は縮まっていった。
はじめは家から一歩も出ようとしなかった彼だけど、日向ぼっこする私を玄関先で眺めるようになり、裏手にある畑を手伝うようになり。やがて私が小屋にいると、やって来て話をするようにまで進歩した。
そんなある日、ふと右手首に見覚えのないブレスレットが毛に埋もれてついているのに気がついた。おや?と思ってよく見てみると、シルバー素材のシンプルなもので、中央に肉球マークが描かれてあった。
あれ?いつの間に着けたんだろう、全然気がつかなかった。しばらく眺めた後、なんとなしに私は外してみることにした。すると、なんと人の姿に変化したのだった。
「のわっ!!は、裸!?」
しかも素っ裸だった。私は慌ててブレスレットをつけてクマの姿に戻った。あ~びっくりした……でもあれ?
私は一つの疑問にたどり着いた。それを確認すべく、二人には内緒で森の泉のほとりにまでやって来た。左右を確認して人気がないのを確認した私は、そっとブレスレットを外した。そして水面を覗き込んでみると……そこにはかつての私がいた。肩下まである黒髪に焦げ茶の目、のっぺりとした日本人顔の懐かしい人間の私。
雷に打たれた時、死んだんだと思った。だからこの世界にはクマとして転生したんだと思ってた。でも実際は生きていて、異世界転移したんだった。
「私死んでいなかったんだぁ……うう、長いことクマだったから変な感じがする」
水面には泣き笑いする自分の姿が映し出されていた。まさかクマに変身して転移するなんて思わなかったよ。
これからどうしよう……このことを二人に話すかクマのままでいるか。う~ん。
私は散々悩んだあげく、今は黙っていることにした。一番の理由はラウレンくんだ。彼は重度の人間嫌いと聞いている。そのせいで何年も家から出られずにいた。
最近になってようやく心を開いて来てくれていたのに、そこで私が人間として現れたらきっとまた距離ができてしまうだろう。
私は再びブレスレットをつけると、もと来た道を通って小屋に戻った。
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