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クマさんとジェシカさん
しおりを挟む時は経ち、二人と住み始めて一月が過ぎた。季節は秋になりつつある。
私たちの生活は順調そのもので、外に出られなかったラウレンくんも、私の背に乗って森に行くことが出来るまでに克服してきていた。
今日はジェシカさんが町へ出掛けに行く日だ。編み物が得意なジェシカさん。手編みのマフラーや手袋、セーターなどを町まで売りに行くのだ。そしてそのお金で肉や小麦など、普段手に入らないような物を買う。なので今日はラウレンくんを背に乗せて森の恵を採りに行くことにした。
「違うよフーミン、それは毒キノコ。食べられるのはこっちだよ」
「えへへ、また間違えちゃった」
クマだけど、テヘペロしてみた。恥ずか死ねる。でもこれがラウレンくんからするとツボみたいで、毎回 “可愛い♡” と言って頭を撫でてくれるのだ。だから止められなかったりする。
そんな彼は、だいぶ明るくなったと思う。以前は無表情で二言三言話すだけだったのに、今では普通に話してくれるようになった。ちょっとぎこちないけれど、たまに笑顔も見せてくれる。その度に何度心のシャッターを切ったことか。美少年のスチル=プライスレス。
私たちは歩きながらキノコや木の実を拾った。ちなみに私はもぐもぐ食べながら拾った。美味しいのよこれが。
思った以上に採れたキノコや木の実やに、ほくほくしながらそれらを麻袋にどっさり積む。それを紐で私の背中にくくりつけて運んだ。きっとジェシカさんも喜んでくれるだろう。
それから、私たちは泉のほとりにたどり着くと、持って来た釣竿で魚を釣ることにした。とは言っても、私はもっぱら掴み獲りだ。もとは人間だけど、クマの姿でいる時の私はクマの本能が表れるみたいで、魚取りはお手のものだった。
ラウレンくんも順調に魚を釣り上げ、帰る頃にはバケツいっぱいの魚がとれた。
「もうすぐ日が暮れるから、そろそろ帰ろうか」
見上げれば空はオレンジ色に染まっていた。遠くで鳥の群れが鳴いている。獣に襲われる心配はないとはいえ、やっぱり夜の森は怖い。クマになっても怖いものは怖い。
「ねえ、フーミン。フーミンには家族がいるの?」
帰りの道すがら、ラウレンくんに聞かれた。家族、かぁ……。今頃日本の家族はどうしてるのかなぁ。お父さん、お母さん、急に私がいなくなって心配してるだろうなぁ、本当に申し訳ない。
「……遠くにいるよ。遠過ぎて会いに行かれないのが残念だけど」
「そうなんだ……。じゃあさ、フーミンは僕たちの家族になれば良いよ!」
ラウレンくんは名案とばかりに声を大にして言った。私がラウレンくんとジェシカさんと家族に!?クマなのに家族として受け入れてくれるの?
「うぅ~、ありがとう。嬉しい。ラウレンくん大好き!」
うるうるしながら大きな舌でベロンとラウレンくんの顔を舐めた。すると小年はくすぐったそうに笑った。
ちょうど日が暮れた頃、私たちは家の前まで着いた。けれど家の中の明かりがついていないのに気がついた。
どうしたんだろう……。私とラウレンくんはお互いを見やると家のドアを開けた。
「ジェシカさん?ただいま戻りました~」
けれど返事はなく、部屋の中は暗いままだった。もしかしてまだ帰ってきてない!?どうしたんだろう。そう思った時、寝室からジェシカさんが現れた。
「……おかえり二人とも」
あれ?何かがおかしい。私はラウレンくんに明かりをつけるように言うと、ジェシカさんに近づいた。
鼻をひくひくさせながらゆっくりと距離をつめる。背中のあたりがゾワゾワした。
……血だ。ジェシカさんから血の匂いがする。
ラウレンくんが部屋に置かれた燭台に火を灯していく。するとそこにはひどい惨状のジェシカさんがいた。
「な……っ、ジェシカさん一体何があったんですか!?」
彼女の衣服は乱れ、髪はボサボサだし口の端からは血が滲んでいて明らかに暴行を受けた形跡があった。それを見たラウレンくんは、下を向いて歯を食いしばっている。
「大丈夫、いつものことさ」
ジェシカさんはそう言うと、お茶を入れるためキッチンへと向かった。私がその場から動けずにいると、ラウレンくんは自室へと駆け込んでバタンッと荒々しくドアを閉めた。
折角採ってきた木の実が床に落ちて散らばってしまった。でも誰も拾う人はいなかった。張り詰めた空気が辺りに漂う。
「ごめんよ、ビックリしただろう?……あたしね、ここに来る前は娼婦だったんだよ」
いつからか私専用になったボウルにお茶を入れて出してくれたジェシカさん。何でもない風を装っているけれど動揺しているのは明らかだった。
「母親はね、産んだ私が醜いことにショックを受けて私が八つの時に娼館に売ったんだ」
そこでジェシカさんは見習いとして働かされた。客を取るには幼すぎたため、仕事は主に娼婦たちの世話だった。他にも衣装や使用された寝具を洗い、部屋を整える。他の見習いたちはお付きの娼婦に可愛がられ、男から貢がれた菓子などをもらったりしていた。
けれどジェシカ付きの娼婦は彼女の醜さに嫌悪し、悪質な手を使っていじめてきた。わざと壊した宝石や衣装を、娼婦はジェシカがやったと嘘を言って罰を与えたり、楼主の目を盗んで殴る蹴るの暴行を加えた。
いじめは徐々にエスカレートしていった。何年も耐えてきたけれど、これ以上ここにいたら命がないと恐れたジェシカは逃亡を図った。
ところが決行を決めた日の前日、ジェシカ付きの娼婦は水死体として発見された。
「一人の客と惚れた腫れたの仲になったらしくてね、あの世だか来世だかで結ばれようって心中したらしい」
ジェシカさんは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
「それからだよ、私が客を取るようになったのは」
ジェシカさんを散々いじめた娼婦の部屋が空いたのをいい事に、楼主は彼女にその部屋で客を取らせた。十六歳だった。
「こんな醜女に客なんかつくわけないって思うだろう?でも世の中には変わった嗜好の奴らがいてね、わざわざ醜女を買って楽しむのがいるんだよ。そりゃあもうあんたには言えないような変態やろうばっかりさ」
そんな時だった。ある晩、高貴な男性が一晩ジェシカさんを買った。驚いたことに彼も醜かった。かなり歳のいった彼は、なぜかジェシカさんを抱こうとはせず彼女の生い立ちの話を黙って聞くだけだった。
そして、その翌日。ジェシカさんは彼によって身請けされた。
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