30 / 46
第2章
急変
しおりを挟む事態が急変したのは、ロネと出会ってから1ヶ月と半分が経ったくらいのとき。イルと僕は、メニルの監視を続けていたが、特に変わった様子もなく、少し油断していた。が、ある日、イルと一緒に校舎の階段を降りていたら、前にメニルがいたらしく、メニルが勝手に階段から落ちた。僕は、メニルがつまずいてしまったと思って助けに行こうとしたら、彼は涙を浮かべながら
「酷い...!いくら憎んでいるからといって、階段から突き落とすなんて!!」
と、叫んだ。びっくりして助けようとしていた手を引っ込めメニルを見ると、彼の目線の先は僕ではなくイルだということがわかった。周りにいる人たちも、それに気づきイルを見る。当のイルは、急なことに驚いて固まってしまっていた。
「何事だ」
騒ぎを聞きつけ、バトラとその護衛騎士であるグランがやってきた。メニルはバトラに気づくと、すぐさま擦り寄り訴えた。
「バトラ様ぁ...僕、イル様に突き飛ばされて..階段から落ちてしまいました..」
そう言ってバトラに縋り付く。
...一番なりたくなかった状況だ。ここが断罪場になってしまうこともあり得る。
「...それは真か、イル」
少し冷たい表情のバトラはイルに問う。
「殿下...」
イルはまだ状況が処理できていないのか、驚きを隠せていない。急に自分が悪者にされようとしているのだ。ここは自分がなんとかしなければ!
「殿下、発言をお許しいただけないでしょうか」
そう言ったとき、メニルの顔が微かに歪んだのが見えた。やっぱり、自作自演だったのだ。
「...良いだろう」
「僕はイルと共に歩いていましたが、メニルを突き落としたような行動は見受けられませんでした。」
そう意見すると、メニルが焦った様子で反撃してくる。
「そ、そんなの、エウテル様が見ていなかっただけなのでは?!」
明らかに焦っている。自分が階段から落ちたのにも関わらず、彼はさっきとは違い自力で立って僕を指差す。周りの人たちも、あまり僕を信じてくれない。理由は分かりきっている。赤目だからだ。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
「では、なぜあなたを突き落としたはずのイルの両手は、教科書や筆箱で塞がっているのですか?」
「そ、それは...」
必死に言い訳を考えている。反論されるとは思っていなかったのだろう。
周りの人たちが無言で見守る中、イルが口を開いた。
「それよりも、メニル様は階段から落ちたのでしょう?どこか打ちどころがあったら大変です。」
イルがそう言うと、周りの人たちも心配を口にしだした。
「そ、そうですわよ!打ちどころが悪かったら..」
「救護室に行かれては?」
「何かあったら大変だわ」
イルによって流れは変わった。やっぱり、イルの影響力はすごい。メニルも今回はどう足掻いてもイルを悪者にできないと思ったのか、
「ご、ごめんなさい..僕の勘違いだったみたいです!救護室に行ってきます..」
そう言ってそそくさとこの場から離れた。去り際、こちらをギロリと睨んでいた気がしたが、気にしている場合ではない。
「イル!大丈夫?」
「ルテ...大丈夫だよ、急だったからちょっとびっくりしただけ」
口ではそう言っているが、イルの顔は真っ青だ。早くこの場から離れたほうがいいだろう。
「イル、行こう」
「うん...」
「待ってくれ」
この場を離れようとしていた僕たちをバトラが止めた。...イルを見てわからないのか、明らかに気が滅入ってるのに。不敬だと承知しながらも、こっそり冷たい視線を送る。
「...なんの御用でしょうか、殿下」
最近イルとバトラの関係を聞いていなかったから分からなかったが、イルの反応からして仲は進展していないのかもしれない。こんなに冷たい返事は聞いたことがなかった。
「エウテル殿」
え、僕?
「君の兄君を少しばかり貸してくれないだろうか」
...どうやら、バトラはイルと2人きりで話したいみたいだ。正直、意外だと思った。僕のバトラに対するイメージは、まだ小説の中の彼の方が強いから、自分からイルに近づくなんてことはしないと思っていた。バトラを変えたのも、イル自身の功績だろう。イルが今まで頑張ってきたおかげだ。
「...それは、イル自身にお尋ねください。僕はイルの意思に従います」
僕としては、少しでも前向きになれるのなら、バトラと話し合ってほしいと思ってる。しかし、イルが今どう思っているかはわからない。体調も悪いわけだし。
イルがこちらをチラリと見る。まるで、いいのかな、と心配しているみたいだ。もしイルにその気があるなら大丈夫、と言う気持ちで頷く。それが伝わったのか、イルは承諾し、バトラと2人でこの場を離れた。弱っているイルの背中を見えなくなるまで見送る。
「兄が心配か」
急に横から話しかけられた。びっくりして声のした方を向くと、グランだった。相変わらず仏頂面だ。
「彼を世界で一番愛しているから、世界で一番幸せになってほしいんです」
そう答えると、グランは目を見開き意外そうな顔をした。当たり前だ。イルがいなきゃ僕は生きていないんだから。
「たとえバトラ殿下であっても、イルを不幸にするなら容赦しません」
バトラの護衛騎士であるグランにこれを言うのは自殺行為だが、そのくらい覚悟はしている。
「そうか」
グランは珍しく表情を緩めて返事をした。
75
あなたにおすすめの小説
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。
「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。
「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」
戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。
そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。
なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか?
その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。
これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【8話完結】勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~
キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。
あらすじ
勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。
それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。
「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」
「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」
無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。
『辞めます』
エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。
不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。
一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。
これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。
【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】
※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。
※糖度低め/精神的充足度高め
※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。
全8話。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる