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1年目夏

39 私と初めてのキス(1)

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「中川さん、野村さんちょっと聞きたい事があるんだけど。」

猫宮くんのいないお昼休みを見計らって、私は里奈と一緒に中川さんと野村さんを教室から連れ出す。

「え、なにウチらなんかした?」
「こはるんどったの、怖いんだけど!」

何か変な勘違いをされてるけど、休み時間は短い。
なるべく邪魔の入らなそうな教室を見つけて入る。

「あの、こんな事2人に聞くのも変なんだけど。キスってした事ある?」



さっき、猫宮くんが木村くんの委員長の仕事を手伝うために一緒に出て行った時。
颯太も体育館にバスケをしに行ったから、2人でガールズトークに花を咲かせていた。

「それで、どこまでいったの?」
「まだ、1ヶ月ぐらいしか経ってないんだよ?手を繋いで帰るとかぐらい。」

私がそう言うと、里奈はあからさまながっかりした態度を見せる。

「何それつまんない。猫宮くんならもっとがっつり来るかと思ったのに。」
「それは、私も思ったけど……。」

あれ以来抱きつくとかそう言ったスキンシップはない。
手を繋いで帰ったりはするけど、それ以上の事はなかった。

「こはるんはそれでいいの?」
「私は別に……、毎日好きって言ってもらってるし……。」
「はぁ、もうちゅーぐらいしてると思った。」
「それは早いよ!多分…、そういうのってもっと長く付き合ってからじゃないの?」
「そんな事ないでしょ!多分。映画の中ではいつでもしてるよっ!」

お互いに自分の意見に自信が持てないのは、経験がなかったからだった。
そう言う知識は映画や本であるにはあるけど、現実とはまた違う。

「じゃあ、知ってそうな人に意見聞いてみる?」
「誰?聞ける人いる?」

そう聞くと、里奈はある人達に視線を向けた。
私はその視線を追った先には、中川さんと野村さんがいた。




そこで、2人を人気のない教室に誘い出して相談をしている。

「そんな事、どうしてウチらに聞くわけ?」
「だって、経験豊富そうだったから……。」
「うわ、それ偏見じゃん!」
「ごめん!2人は美人だし、色々知ってそうだったから!」

確かにいきなりこんな事聞くのは失礼だったかも、少し反省している。

「まーいいけど、何こはるん猫宮とキスしたいって事?」
「そ、そんなんじゃな、くもないけど……。」
「つーか猫宮まだ手出してなかったんか。」
「そーゆうの慣れてそうなのに。」

もしかして私に魅力を感じないから、してくれないとかかな……。
付き合ったはいいけど、いざ手が出るような魅力はないって。

自分で考えてめちゃめちゃへこむ。

「つーか、ウチもまだ経験ないし。」
「え、そうなの?」
「そうだよ。こー見えて清純派。」

野村さんが経験ないのは意外だった。凄いモテそうなのに。

「そーゆうのは中川のが詳しいよ、こいつ百戦錬磨だから。」
「その言い方やめろし!」

中川さんは、私と里奈をみてこほんと咳払いをして聞く。

「迷える子羊達、私に何を聞きたいんだい?」
「ノリノリじゃん。」
「普通の人は付き合ってからキスするのってどのくらいなの?」
「そんなん、その日の内によ!」
「当日……。」
「あ!でも、その、別に時間かける奴もいるから!」

あからさまなフォローで私はさらにへこむ。
やっぱり1ヶ月も何もないのは私に魅力がないからなんだ。

「大事にされてるって事だよこはるん!」
「そうだよこはるん!大丈夫!」
「てゆうか、したいなら自分からしちゃえば?」
「そんなの恥ずかしくて、できないよ……。」

想像するだけでも恥ずかしくて死にそう。

「だっていつもこはるん受け身じゃん?何かして欲しいなら、自分からも求めないと。」
「……ど、どうしたらいいの?」
「え、嘘!?こはるんできるの!?」

思い返せば最初から全部猫宮くんからだった。
好きって言われたから、好きって返す。私から好きって言った事ないかもしれない。

「そうだね、私は猫宮くんの好きにあぐらをかいて座ってたかも。」

私は中川さんの言葉で覚悟を決めた。
中川さんはにやりと笑って私に作戦を教えてくれた。
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