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1年目夏
70 僕ともっと一緒に居てほしい。
しおりを挟む僕が今猫の姿だったらきっと全身を毛繕いしすぎて毛が抜け落ちていたと思う。それぐらいストレスが溜まっていた。こんな事なら最初から2人で祭りに参加すればよかった。初めての祭りに浮かれていた自分を殴りたい。
「猫宮くん、手、強く握りすぎっ。」
「あっ、ご、ごめん!」
無意識に小春ちゃんの手を握る力が強くなってしまっていた。僕は慌てて力を緩めて謝る。僕がいない間颯太におぶってもらってたとか、2人で花火を見たとか、僕達がやっと見つけた時の2人の空気感とか全てに嫉妬していた。小春ちゃんを見つけてくれた事には感謝しているし、変な男に絡まれてなかった事に安心した。だけど、小春ちゃんを見つけるのは颯太じゃなくて自分がよかった。
「ごめん、私がはぐれちゃったから、一緒に花火見れなかったね。」
「小春ちゃんが謝る事じゃないよ!もちろん一緒に見たかったけど……、小春ちゃんが無事でよかったよ。」
小春ちゃんの歩調に合わせてゆっくり歩く。僕もおんぶしてあげるよって言ったんだけど、小春ちゃんが恥ずかしがってさせてくれなかった。颯太にはさせたのにどうして僕はだめなのか分からなかった。
「颯太と2人で、本当に何もなかった?」
「本当に何もないよ!猫宮くんが不安になる事は何もないよ!」
颯太の気持ちを知っているから僕はしつこいほど何度も何度も聞いてしまう。小春ちゃんが颯太に浮気するなんて思ってもないしありえない事だけど、それでも僕は不安だった。僕の目の届かない所で颯太と2人きりで居るなんて絶対にさせたくなかったのに。
「どうしたら安心してくれる?」
困ったように僕を見上げて問いかけてくる小春ちゃん。それをみて僕は胸が締め付けられる。小春ちゃんを困らせようって思ってないのに、目の前の顔はどうしたらいいか分からないと言った顔をしている。
「じゃあ、キスしてほしいな?」
「えっ、ここで?」
周りの人の目を気にする小春ちゃんを僕は脇道に引っ張り、背中を壁につけて小春ちゃんと密着して見下ろす。小春ちゃんが少し顔を上げればキスできる距離で見つめる。
「ここなら誰も気づかないから、お願い。」
今すぐ小春ちゃんからの愛が欲しかった。毎日好きって言ってもらえてるけど、初めはそれで満足していた。けれど最近はキスもしてほしいし、抱きしめてくれないと寂しくて仕方ない。一度別れを経験しているからこそ、もう二度と離れたくないし離したくない、ずっと愛し合っていたいと思ってしまう。
小春ちゃんは少しだけ考えてから、顔を上に上げて触れるだけのキスをしてくれた。
僕は小春ちゃんの頭を支えて深いキスを返す。抱き合ってキスを交わすこの瞬間がとても幸せだった。寂しさや不安も全て考えずに、ただ小春ちゃんの事だけを考えて、小春ちゃんの全てを食べてしまうようなキスをする。小春ちゃんの息が荒くなってきたのを感じて、わざと音が鳴るようにして唇を離す。
「愛してる。」
覆い被さるように小春ちゃんを抱きしめて首元に顔を埋める。小春ちゃんの匂いが心地よくて安心する。小春ちゃんは僕の背中にを回してくれてあやすようにポンポンと背中を叩く。
「私も好きだよっ、ッ、いた。」
まだ少し荒い小春ちゃんの息遣いを感じながら、首元に強く吸い付く。こんな事でしか小春ちゃんにマーキング出来ないけど、首元に残る赤い内出血をみるととても満足した。
「もっとつけていい?」
「っーーだめっ!」
まだまだし足りない僕を小春ちゃんは真っ赤な顔をして押しのける。浴衣の襟からちらりと見える僕の痕に口元が緩む。僕の機嫌はすっかり治っていて、いつものように笑って小春ちゃんの手を取る。
「機嫌治った?」
「うん、ごめんね。ちょっと颯太に嫉妬しちゃってた。」
「ただの幼馴染だから、嫉妬とかする必要ないのに!」
そう思ってるのは小春ちゃんだけで、颯太はただの幼馴染って思ってないんだけどな。小春ちゃんには黙っておく。教える必要もない事だし、僕の事だけを見て考えてほしいから。
「小春ちゃん僕の肩に手をおいて?」
「え、こう?ーーきゃぁ!ちょっと、猫宮くんっ!!」
よちよちと歩きづらそうにしている小春ちゃんを止まらせて肩に手を置いてもらう。僕は少しだけ屈んで小春ちゃんの太ももの後ろに素早く腕を入れて持ち上げる。小春ちゃんは驚いて体を硬くして僕に抱きつく。
「あんまり暴れると下駄脱げちゃうよ?」
「ねえ、歩けるから!私重いから!降ろして!」
「だーめ。颯太におんぶさせたなら、僕はお姫様抱っこにする。ちゃんと捕まっててね?」
重いって言うけど、僕も鍛えているからこのぐらいなら大丈夫だった。ゆっくり歩いてみる。
「怖い?」
「うん……、降ろしてほしい……。」
「家まですぐだから、我慢して?ほら、ちゃんとくっついてないと落としちゃうかも。」
「きゃっ!や、やめてよ!!」
落とすつもりなんてないけど持ち直すために力を緩めたら、小春ちゃんはびっくりして僕に強く抱きついてきた。小さくあげる悲鳴が可愛くてもっと怖がらせたくなる。
「おとなしく捕まってて?」
「うぅ……、恥ずかしい。」
小春ちゃんは周りの人たちの視線が気になってるみたいだったけど、僕は何も気にならなかった。毎日こうして歩きたいぐらい、小春ちゃんを抱きしめて歩くのは心地よかった。恥ずかしがって顔が見えないように僕の首に埋めてて、笑ってしまう。多分今世界一幸せな顔をしているかもしれない。
ゆっくり歩いていても小春ちゃんの家には近づいていて、また寂しさが込み上げてくる。
「帰りたくないな。」
「仁さんが心配するよ?」
小春ちゃんが神様を名前で呼ぶのにちょっとムッとしてしまう。小春ちゃんと恋人になってしばらく経つけどいまだに名前で呼んでもらった事がない。またあの時みたいに呼んでほしいな。
「小春ちゃん、あの人の事は名前で呼ぶんだね。」
「え、だって……、猫宮くんのお父さんって長いし。」
「僕もそろそろ名前で呼んでほしいな?」
立ち止まって小春ちゃんの反応を見る。小春ちゃんは顔をあげて僕と目が合うと遠慮しがちに僕を呼ぶ。
「玲央くん?」
「どうして呼び捨てじゃないの?」
「だって呼び捨てって、うちの猫もレオだったから……。猫を呼んでるみたいでーー」
「呼んでみて?」
どうしてかキスをする時よりもドキドキしている。顔を赤くして、少し潤んだ瞳で僕を見つめて小さな声で僕の名前を呼んだ。
「れ、玲央?」
「なあに?」
嬉しすぎて小春ちゃんを抱く手に力がこもって落とさないように抱きしめた。やっと呼んでもらえた。
「猫宮くんが呼んでって言ったんじゃん……。」
「だーめ。レオって呼んで?」
「玲央……、恥ずかしいから見ないで。」
「可愛い。」
赤くなった顔を見せないように逸らして、僕の首に回されてる腕に力が込められる。僕は満足してまた歩き出す。そのうち小春ちゃんの家の近くまで来て、ここでいいよと言われて素直にゆっくり降ろしてあげた。
「ありがとう……玲央。」
「どういたしまして。家の前まで着いていっていい?」
「もう大丈夫だよ?ここまで送ってくれてありがとう。」
「ううん、僕が離れるのが寂しいから、家の前まで送りたいだけ。」
1秒でも長く居たくて小春ちゃんの家の前まで送る。名残惜しくて玄関前で小春ちゃんを見つめる。またいつでも会えるけど、今日はなんだかいつもより寂しい気持ちが募った。
「今日はいつもより寂しがり屋さんだね?」
「いつも寂しいって思ってるよ?もっと一緒に居たい。」
「あら、じゃあ今日はお泊まりしていく?」
ばっと顔を上げると小春ちゃんの後ろに、お義母さんがにっこり笑って立っていた。
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