転生したらシンデレラの義理の姉でした！？ ～悪役令嬢まっしぐらです～

二話 ところでこの絶世の美女は？

　私は明日からの予定を引きこもりの読書家と決めて、ふと目の前の少女に目をとめる。
　私が目を覚ましてから、ずっとのぞき込んでくれている少女だ。

　大変な美人で、前世の世界ならアイドル？　女優？　という容姿オーラが出そうなレベルだ。
　目の保養になります。アザッす。


　実は目が覚めてからというもの、とっても落ち着かないでいるのです。現実逃避のために読書読書と言っていますが、そう言わざるを得ない程、私には大きな心配事があるのです。

　それは目の前の少女の名前。

　恐ろしくも有名なその名前を口にすると、目の前が真っ暗、というか私の人生詰んだというか、そういうレベル。

　だから恐ろしくて彼女の名前を呼べずにいるのですが、それも不自然な頃合いだ。

　ちなみに我が家は公爵家で、母は後妻である。前妻を亡くした公爵を射止めたのが我が母。

　母は男爵家の三女だ。考えられない程の出世、玉の輿、シンデ………。

　私はついつい禁断の名前が口から出そうになり、思考を止める。

　危ない、危ない。

　言霊になって、現実化するところだったじゃない。


「ミシェールお姉様？」

　私を心配してか、美少女は再度呼びかけてくる。


　彼女は由緒正しい公爵様の前妻の娘だ。
　私は後妻の連れ子である。

　つまり正真正銘の義姉妹という奴である。

　その証拠に容姿がまるで似ていない。

　彼女は輝く金色の髪をしているが、私はいわゆる赤毛である。前世でいうならイエス・キリストを裏切った赤髪のユダですがね……。


　その上、私の目は吊り上がっている。
　切れ長というレベルではない。
　なんていうか猫？　いやいやチーター？
　どちらにしろ野獣系だ。
　
　アニマル柄のドレスとか似合うんじゃないかしら？
　もちろん本当に着たいわけではなく、自分の顔に対する自虐だ。


　まああれよあれ。意地悪そうな顔の代表選手みたいな顔なのよね。

　でもさ、上には上がいるもんで、二歳年上のオリヴィアお姉様のお顔ときたら……
　それはもう…………いや……皆まで言うまい。自主規制しよう。うん。

　まあ、髪の毛の説明をするとメデューサだよ。あれ……。
　髪の毛一本一本まで意地悪と悪意が染み込んでいて、触れれば食いちぎられそうな獰猛さだ。

　怖い怖い。近寄っちゃいけない。

　その姉と瓜二つなのが、母のバーバラだ。怖いくらい似ている。
　私も合わせて瓜三つということはない。

　瓜なんて二つあれば十分だよ。

　さて……。現実に目を戻すと、やはり美少女が私をのぞき込んでいる。

　ずっと看病してくれていたのかな？
　なんだか胸にジーンと来るわよね。

　だって母と姉は影すら見えない。

　可愛い子、美しい子というのは、もうそれだけで同性の間でのやっかみの対象になる。
　悪い事をしていなくても、悪性の高い同性に目を付けられるのだ。

　これは偏に『うらやましい』という感情から派生している。
　生まれつき可愛くて羨ましい。なんの努力をしていないのに可愛いなんて許せない。

　虐めという概念に関わるとき、男女の性質の違いというのは大きくて、虐め方から虐める理由まで全てが異なる。


　女子のいじめは、得てして非常にコミュニケーション能力に長けた、組織力のある人間によって行われる。

　クラス内で目立ち、発言力があり、陰口や噂を巧妙に操り、誤解を見方につけ、人を操る。

　心理学を学んだ人間や観察力の鋭い人間は、この手口を良く理解しているが、女子で虐めをする人間というのは、こういう相手に対して敏感に察知し、封じ手を使ってくる。

　つまり、やたらに空気が読めるこの手の女子は、相手に自分の手口が看破されていると知るやいなや、電光石火で排除してくる。先制パンチで痛い思いをさせて、黙らせるという奴である。

　手口汚なっ。

　つまりは何が言いたいかというと、現公爵婦人は、公爵を騙しているのだ。

　噂や嘘や誤解を利用して。

　例えば、『末の娘は、あなたを軽蔑している』とか。
　もちろん公爵だって、自分の可愛い娘がそんな事を思うなんて考えないだろう。

　でも、人は曖昧で不確かで不安定な生き物なのだ。

　毎日毎日言い続けると、嘘が本当になっていく。

　事実だと錯覚が起こる。

　こうしてたった一人の人間がついた悪意のある嘘が現実になって行くのだ。

　嘘が嘘と分かることは難しい。
　人は人の心の中は覗けないのだ。
　
　人間というのはその悩みの七割が人間関係だと言われている。

　心の中が見えないから、分からない。
　不安なのだ。

　けれど、見えないことほど知りたがる。
　安心したがるのだ。

　自分が後妻に迎えた人物。
　つまり二回目とはいえ、恋愛に落ちた人物だ。
　そんな人が耳元で四六時中囁いている。

　あんたの娘はあなたが見ていない所で、再婚したあなたの悪口を言っている。
　小さな人間だと言っている。
　使用人の前で、お友達の前で、領民の前で。


　嘘はホントに成り代わる。


　嘘はウィークポイントを突くのが基本だ。
　そもそもが弱い部分という意味。

　先代に比べ今の領主様は……

　という噂が領地に流れていたら、効果覿面だ。

　噂を流す所から関与しているのが攻撃性の高い人間だ。

　その心と脳の多くが他人への恨み辛みで構成されている。


「シンデレラ」


　私は勇気を振り絞って、妹の名を呼んだ。