転生したらシンデレラの義理の姉でした!? ~悪役令嬢まっしぐらです~

日向雪

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【二十四話】いつかの王宮の庭

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 ミシェールはいわゆる無敵の令嬢だった。

 お母様と上のお姉様には、敵わなかったが、上手く躱して良い関係を築いていたし、下の妹と弟は家来みたいに従順だった。





 だから怖いものなんて何もなかった。

 八歳までは母の実家である男爵家で育ったが、お祖父様である男爵は、ミシェールをとても可愛がってくれたし、また、大変甘やかしてくれた。





 チョロいわね。大人って。





 成り上がりの男爵家で、お祖父様は商会の会長として財をなし、爵位は金で買ったと噂されていた。



 実際のところ、交易で財を成したため、それが公益につながり取り立てられたらしい。





 まあ、上手くやったって事よ。

 その血が色濃く出ているのか、兄弟姉妹、従姉妹など、親族は基本上手くやるタイプが多かった。 





 母の上手く遣る才能も頭抜けていて、私が九歳の時、なんと公爵家の正妻の座を射止めたのだ。素晴らしい。





 私は経済的にだけではなく、身分的にも無敵になったのだ。





 そんな私は公爵令嬢になったのを良いことに、スリルのある遊びに夢中になっていた。

 王族の振りをして、こっそり王族しか入れない王宮の庭で、こっそり遊ぶ。





 王宮内でも、庭は結構入れるスポットが存在する。

 子供しか通る事が出来ない小さな道だったり、誰も知らない剥がれた塀。





 そんな中でも、特にお気に入りの場所は、薔薇の温室。

 中は硝子張りになっていて、日差しが水滴を反射して七色になっていたし、薔薇の香りが噎せ返り、高貴な気分にさせてくれるのだ。





 形から入るって大切ね。

 何か、とても清々しい気持ちにしてくれる。





 自分を侮る人がいない。

 理不尽を強いる人もいない。

 私と私の心は自由だ。







 しかし、ある時、そんな温室に先客がいたのだ。

 しかも泣いている。





 私があの子に話しかけたら、高い確率でこの温室に来られなくなってしまう。

 勝手に遊んでいることが、王族にバレてしまうからだ。





 でも、泣き声が聞こえる温室で、ゆっくりと高貴な気分になんか浸れない。





 どうしようかな?

 声を掛けてみようかな?





 声を掛けてみようと思ったのは、持ち前の好奇心と、同じ年頃の子供だったからだ。

 そして相手が一人だったから。





 もしもの時は逃げるが勝ちよ(笑)

 逃げ足の速さなら自信がある。





「ねえ、どうして泣いてるの?」





 私の声に吃驚して、顔を上げた子は、とても綺麗な子供だった。





 使用人の子には見えないわよね?

 でも女の子にしては、髪が短いわ。





 うーん。

 ちょっと判断に迷う感じ。





「悲しいことがあったの?」     





 その子は黙って頷いた。

 死角になっていた右の頬が腫れていたのだ。





「ひどいことするのね」





 私は、その頬にそっとふれる。





「あのね、おとなでもひどいことする人はいるから、その人からは逃げなきゃダメよ。逃げるっていっても、あからさまに逃げちゃダメなの。わかる?」





 子供は首を横に振る。





「相手が分からないように、視界の外に行く感じ。こころない人間なんて、相手にしないの。こころある人間とだけ仲良くするのよ」





 そう言って、私は温室内にある小さな蛇口でハンカチを濡らした。

 清潔な水が溜めてある。





「わたしはね、良い人と悪い人を見抜くのがとても早いの。きゅう覚が働くの。だからあなたにも教えてあげるわ」





 相手が王族だったら、私の態度はかなり横柄なものだったろうと思う。

 けれど相手の子供は少しも怒らす真剣に聞いていた。





 私は腫れた頬にハンカチを当てながら、更に調子に乗ってしゃべり出す。





「まずは、体の小さな子供の頬を腫れるほど叩く人は、悪人。もしくは心配事や上手く行かないことが沢山合って、いらいらして叩く、自制心の効かない人。この人達に好かれようとゴマをする必要はないわ。こっちから願い下げ。スルーよ。そして、自分を大切にしてくれる人。優しい人、困った時の助言が的確で助けてくれる人、そして宝物を捨てるように言わない人が良い人よ?」

「宝物?」

「そう。持って生まれた宝物。私で言うとね。悪知恵が働いて、人の裏が読めて、要領の良い所。気が強い所。そういう物は、自分の人生を助けてくれる宝物なの。だからね。そういう宝物を令嬢に有るまじき物だから捨てなさいとか、恥ずかしいとか、もっと優しくなりなさい。なんて上っ面の良く分からないお説教をしてくる人はダメ。側にいちゃ自分の宝物がなくなってしまうから」

「ふーん」

「形式張った大人はみんな言うのよ。宝物を捨てなさい。捨てなさいって。だからあなたも気を付けるのよ」







 この言葉はお祖父ちゃんから教わったものだ。

 お祖父ちゃんには商才があった。数字に強かった。商売に鼻が利いた。

 商人から男爵にまで昇りつめた最高に格好いい人だ。







「あなたの宝物はね、まず見た目ね。その見た目でかなりのところまでのし上がれる気がするわ。私があなたと同じ容姿を持っていたら、最大限に利用して王妃になっているところよ」

「スゴイ野望だね」

「スゴイでしょ? 宝物を大切にして使いこなすとスゴイ武器になるんだから。私のお母様なんてね、その手で公爵夫人になったのよ」

「君は公爵令嬢なの?」

「そうよ。ついこの間、公爵令嬢になったの。カールトン公爵令嬢。素敵でしょ? 充分王妃が射程圏内よ。三代前まで、一介の商人だったのに」



 私が笑うと子供も笑った。

 笑うと益々可愛いわね。嫁に欲しいレベルよ。





「あなた、良い子ね。擦れてないっていうか、素直っていうか。私と相性ピッタリだと思うわ。話していて気持ちが良いもの」

「そう? 楽しい?」

「うん。そう思わない?」

「……思うかも」





 控え目に肯定した子は、何だが少し頬が染まっていた。

 お祖父ちゃんの言葉を理解出来る子は、頭の良い証拠。

 私の話を、杓子定規で否定しない子は柔軟な子。

 きっとお友達になれるわ。

 そんな予感がする。





「ねえ、こっち来て」





 私はその子を薔薇の影に誘う。

 そして、腫れている頬にそっと口づけした。





「友達になりましょう? 私がこっそり王族専用のお庭で遊んでることは秘密よ。

約束ね」

「うん。約束する」







 薔薇の香りか噎せ返っていた。

 温室は手入れが行き届いていて、日差しが眩しい。





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