38 / 158
【三十七話】薔薇の温室とクリムゾンレッド
しおりを挟む
アッシュベリー王国、王立学園の卒業式は、国の花でもある、薔薇が咲き誇る季節に行われる。
前世では桜の舞い散る季節だったが、そういうのは国によって違うものなのだなと実感する。
日本の国の花は桜で、卒業式に咲くのも、入学式に咲くのも桜だ。
桜は桜吹雪や花筏はないかだになるものだが、薔薇は舞い散るという雰囲気ではないわよね。
ダンスパーティーには、みんなここぞとばかりお洒落をするもので、令嬢のドレスで色鮮やかな花が咲く。
そのドレスの色に合わせて、薔薇の生花を髪に飾る分けだが、これはエスコートをする男性から送られるものだ。
悪役令嬢といえば、真っ赤などぎついドレスか、濃紺色の夜空のような大人の色と相場が決まっている。
女の子の定番色、ピンクとか白とかラベンダーとか淡くてふわふわした色は似合わないらしい。
顔の作りがキツいからかしらね?
私もその例に漏れず、やはり淡いパステルカラーが似合わない。
ええ。
卒業式に新調したドレスは赤ですけど何か?
仕立屋さんは、紫も大変お似合いですよ?
と一押ししていたが、十六の乙女が紫という色に袖を通すのもなかなか勇気のいるものだ。
しかし、これも日本を思えば最上級の色になるのだろうが……。
ある時代まで、紫という色は禁色だった。
庶民は使ってはいけない色。
殿上人の色だ。
ちなみにアッシュベリー王国が翳す色は真珠色。
光沢のある白っぽい色は王族しか身に付けてはいけないというルールだ。
王家のカラーというやつ?
まあ、ぶっちゃけ絹ということなのだろうが。
高価な物の象徴だからかしらね?
手触りも良いし。
海洋国フィラルは瑠璃色。
ラピスラズリにちなんでいる。
海っぽいしね。
だけど、瑠璃色って結構あるわよねー。
薔薇の温室は、小道のような可愛らしい作りになっていて、中央が開けている。
ここがサンルームになっているのだ。
正面に噴水があり、この噴水に光が振り注ぎ、虹を作っている。
もはや、温室というレべルじゃないよね。
そこに金属を流し込んで作る鋳造の椅子が置いてある。
二三人座れる横長の形だ。
促されるようにそこに座ると、第二王子様がこちらを見つめてくる。
ジー。ジーと。
随分長く見つめるわね?
ちょっと視線に耐え切れなくなりそうです。
さて、どうしようかな? と考えていると、王子様の手が首筋に掛かる。
そうしてそっとボタンを外して行くのだ。
今日はハイカラーのブラウスを着ていた。
喉元まできっちりと締まるタイプ。
白いレースになっていて、首筋はまったく見えない。
もちろん意図的にこの服を選んだのだ。
だって、そうでしょ?
レースはいつでも女の子の味方だもの。
汚いものを隠してくれる。
悍ましいものを包んでくれる。
ボタンが、一つ二つと開けられて行くと、私の体が小さく揺れる。
彼の手は何個のボタンを解いてしまうのだろうか?
今すぐに俯いて第二王子様の手を振り解きたい。
ーーでも
こんな所でも私ったら気が強く出来ているのね………。
エメラルド色の瞳を見つめたまま、目を逸らせずにいた。
彼もまた、私の露わになった首筋から瞳を逸らさずにいた。
そこには、見苦しくも赤黒く爛れた絞殺の痕があるのだから。
誰にも見せたくない。
誰も見ないで。
前世では桜の舞い散る季節だったが、そういうのは国によって違うものなのだなと実感する。
日本の国の花は桜で、卒業式に咲くのも、入学式に咲くのも桜だ。
桜は桜吹雪や花筏はないかだになるものだが、薔薇は舞い散るという雰囲気ではないわよね。
ダンスパーティーには、みんなここぞとばかりお洒落をするもので、令嬢のドレスで色鮮やかな花が咲く。
そのドレスの色に合わせて、薔薇の生花を髪に飾る分けだが、これはエスコートをする男性から送られるものだ。
悪役令嬢といえば、真っ赤などぎついドレスか、濃紺色の夜空のような大人の色と相場が決まっている。
女の子の定番色、ピンクとか白とかラベンダーとか淡くてふわふわした色は似合わないらしい。
顔の作りがキツいからかしらね?
私もその例に漏れず、やはり淡いパステルカラーが似合わない。
ええ。
卒業式に新調したドレスは赤ですけど何か?
仕立屋さんは、紫も大変お似合いですよ?
と一押ししていたが、十六の乙女が紫という色に袖を通すのもなかなか勇気のいるものだ。
しかし、これも日本を思えば最上級の色になるのだろうが……。
ある時代まで、紫という色は禁色だった。
庶民は使ってはいけない色。
殿上人の色だ。
ちなみにアッシュベリー王国が翳す色は真珠色。
光沢のある白っぽい色は王族しか身に付けてはいけないというルールだ。
王家のカラーというやつ?
まあ、ぶっちゃけ絹ということなのだろうが。
高価な物の象徴だからかしらね?
手触りも良いし。
海洋国フィラルは瑠璃色。
ラピスラズリにちなんでいる。
海っぽいしね。
だけど、瑠璃色って結構あるわよねー。
薔薇の温室は、小道のような可愛らしい作りになっていて、中央が開けている。
ここがサンルームになっているのだ。
正面に噴水があり、この噴水に光が振り注ぎ、虹を作っている。
もはや、温室というレべルじゃないよね。
そこに金属を流し込んで作る鋳造の椅子が置いてある。
二三人座れる横長の形だ。
促されるようにそこに座ると、第二王子様がこちらを見つめてくる。
ジー。ジーと。
随分長く見つめるわね?
ちょっと視線に耐え切れなくなりそうです。
さて、どうしようかな? と考えていると、王子様の手が首筋に掛かる。
そうしてそっとボタンを外して行くのだ。
今日はハイカラーのブラウスを着ていた。
喉元まできっちりと締まるタイプ。
白いレースになっていて、首筋はまったく見えない。
もちろん意図的にこの服を選んだのだ。
だって、そうでしょ?
レースはいつでも女の子の味方だもの。
汚いものを隠してくれる。
悍ましいものを包んでくれる。
ボタンが、一つ二つと開けられて行くと、私の体が小さく揺れる。
彼の手は何個のボタンを解いてしまうのだろうか?
今すぐに俯いて第二王子様の手を振り解きたい。
ーーでも
こんな所でも私ったら気が強く出来ているのね………。
エメラルド色の瞳を見つめたまま、目を逸らせずにいた。
彼もまた、私の露わになった首筋から瞳を逸らさずにいた。
そこには、見苦しくも赤黒く爛れた絞殺の痕があるのだから。
誰にも見せたくない。
誰も見ないで。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました
タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。
ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」
目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。
破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。
今度こそ、泣くのは私じゃない。
破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる