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【六十六話】キング降臨
しおりを挟む私はしみじみと納得していた。
なるほど。
私とルーファスの婚約が内々の事だった理由がハッキリ分かった。
海洋王国フィラルを慮っての事だったのね。
口約束なのか、正式な約束だったのか、そこは国と国の事だから分からないけれど。
現王妃様が嫁ぐに当たって、何らかの約束がなされたのよね。
精霊の加護を継いだものが出れば、婿もしくは養子に欲しい的な種類の。
まあ、双方その時点では、そんなに大事に考えていなかった。
何故なら、直系の姫と言えども姫である。
保険のようなものと考えていたはず。
なぜならば、水の精霊ウンディーネは女性の形を取る。
対というものの考え方からか、もしくは好み的なのかも知れないが、男性を好むのだ。
つまりは王女方面に宿る可能性など、万に一つくらいに考えていたはず。
怖いわね。
一万分の一。
好みの子に宿るのでしょうからルーファスが好みだったのねー。
とは言っても、この家系はみんな美形なのだろうが。
私はフィル様の顔をみながら、幾世代も前の建国期を思う。
初代国王に似ているのかしら? フィル様とルーファスって。
同じ王妃様の産んだ御子でも、第一王子様はアッシュベリー王国の血筋が色濃く出ている気がする。
金髪碧眼は国王陛下の色だ。
アッシュベリー王国はそういう色を輩出しやすい。
「申し訳ありません。ご事情を知らなかった事とはいえ、婚約してしまったのですが、一体どうすれば?」
どう返事をして良いか分からず、取り敢えずは相手の出方を聞いてみる。
もちろん一応聞くだけなのだが。
フィル様と私じゃ、どんな約束を交わしても、約束になんてならない。
彼もハッキリとお忍びと言っているではないか。
つまりは国王としてではなく、一人の人として会っているのだ。
身分を名乗らないってそういう事でしょ?
「予定通りに、一の姫の婿にと押すつもりだ。方法は色々あるが、断れない選択肢というのは、多分に存在する」
ちょっと暗雲。
断れない選択肢か。
あれだけ富を築いている海洋国だものね。
塩とか、かなり良い線いくのかしら?
そもそも何故現王妃様はアッシュベリー王国に嫁いだのだろう?
公爵なり侯爵なりに降嫁させておけば、こんなまどろっこしい話にはならなかったのに。
自分のとこの貴族ならば、婿に迎えようが、養子に迎えようが、何の問題もない。
二つ返事で了承だ。
理由があるんだろうな……。
血が濃すぎるとか。
国内では血の繋がってない公爵家とか探す方が難しいのかな。
まあ、どこの国でも似たり寄ったりだが。
私は、カールトン公爵が父ではなかった場合、王家との血縁は一滴もなくなる。
庶民よねー。
「まあ、我が娘は物分かりが良いからな。愛妾の一人や二人何の問題もない」
「………」
ん?
今、私の事言われた?
愛妾?
フィラル国、次期国王は他国から迎えるなんて事は、さすがに出来ない筈よ。
国民的にもありえない。
つまり、第一王女が女王になり、その婿にルーファスという事よね。
これなら、国民は納得だ。
なんせ、自国の姫が産んだ王子である。
婿なら何の問題もない。
その婿に一人くらい愛妾がいようが、構わんと。
そう言ったんだよね?
それが私か。
女王の婿というのは、もちろん後宮を持たない。
婿の御子を増やすことには価値はないのだ。
複数の婚姻が必要なのは女王様の方。
けど、それは。
きっと建前よね?
フィラル王国としては、ルーファスの子こそ、何人でも欲しいわよね?
可能性の話だ。
精霊の加護を受け継ぐ可能性。
どういう仕組みになっているか、分からないけど。
精霊の加護を受けた、本人か兄弟の子に出る?
その辺の事情はフィラル国の担当部署の方が詳しいだろうが。
基本的には先祖の前例を繋いで行くことだ。
だが、もちろん他国の人間は追うことは出来ない。
そもそも基本的に、誰に顕現しているか公にされないのだ。
ふむ。
なるほど。
愛妾か……。
私は考え込む。
かなり自由の効いたポジションじゃないか。
但し権力的なものは一切なそうだが。
しかし、自国で王子妃をするよりは百倍楽。
あの水の都で、ゴンドラにでも乗りながら読書。
良いわね。
なかなか良い条件よ。
国外追放?
とは形が違うが、国外には出られる。
そういう生き方っていうのも有りかしら?
片手間に商売なんかも……ね?
出来ちゃったりして……ね?
私はというと一国の王にすっかり丸め込まれそうになってます。
大丈夫?
よく考えれば、アッシュベリー王国に取って、利が全く無い選択じゃない?
どうなのかしら?
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