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【百二十九話】星降る夜の一晩中。
しおりを挟む私は第二王子様に抱きかかえられながら、ずっと泣いていた。
しくしくしくしく。
どんだけ泣くんだという感じだ。
涙って、出る時は出るわよね?
なんかスイッチみたいなものが入ってしまい。
止まんないんだ。
そんな私を抱きかかえながら、時折よしよしと励ましながら、何でか私達は元の処置部屋ではなく、東北の宮に来ていた。
ここって、第二王子様の王子宮。
私に施されている部屋も、この一角にある。
私達はそのまま、私に宛がわれている部屋に入る? のかと思いきや、第二王子様のプライベートルームに連れ込まれた。
アレ?
ここでオッケー?
王子宮の入り口にいた近衛も見て見ぬ振りをした?
でも今はーー
私、それどころじゃないんだわ。
嗚咽が止まんないというか。
お前は子供か? と突っ込みたくなる。
三歳児だって、こんなに泣かないんじゃない?
えっぐえっぐしちゃって。
兎にも角にも個室に入りたいというか。
公爵令嬢がこんなに泣いたらみっともないというか。
私はベッドに寝かされると、丸くなっておいおい泣いた。
悲しいわね?
妹に命乞いをされるって……。
悲しいのね?
自分を殺しに来た相手に命乞いをされるって……。
私に命乞いをするなんんて、本末転倒なのに。
その上で、命乞いをして来るなんて、反則よね?
人と人の正式なマーナーとかルールに則ってないわ。
ルール違反よ?
なのに、何でここまで苦しいの?
ルーファスの手がそっと私の肩を抱く。
「ミシェール」
「…………」
私は嗚咽で満足に返事すら出来ない。
「シンデレラの命乞いは無意味だ。君に彼女をどうこうする力はない。第三王子が刺された事は、既に王家に対する事案になる」
私は涙に暮れた瞳でルーファスを見た。
ホント?
それはホントのホントなの?
嘘じゃない?
裁判と言えば聞こえは良いが、中世の裁判と考えると途端に不安になる。
この世界は前世じゃない。
異世界だ。
異世界の裁判を厳密に知らないが、しかしながら。
童話の中の時代を考えると、王族の意見や意志がまったく介入出来ないとは考え難い。
それに事は王家の事案。
そう王家の事なのだ。
つまりーー
その王家の者が『許す』とすれば、許されないまでも減刑される可能性はないのだろうか?
威信に掛けてそんなことはしない?
でもーー
逆に考えれば、頼れるのは威信だけ?
目の前にいるのは、その王家の人間ではないか?
ルーファスが減刑を望み、そう動けば事は運ばれるのではないだろうか?
例えば。
『人違い』
実際問題人違いには違いないのだ。
第三王子様を狙った訳ではなく、カールトン公爵の次女を狙った事件だ。
所詮、三女が次女を刺すと考えれば、家の中の不祥事。
カールトン家は管理不行き届きで爵位の返上になるかも知れないが、元々今回の事件でなりそうなので大差ない。
切り口によっては、やはりルーファスには軽減の糸口を持っているのではないだろうか?
涙に暮れながら彼の顔を見た。
「……ミシェール」
彼が私の髪を梳く。
彼の指に私の髪が絡み付く。
「……前に言ったこと、憶えてる?」
前に言ったこと?
私は首を傾ける。
「……薔薇の温室で、君の首に絞殺未遂の痣を見た時」
あの傷跡を治してもらった時。
「……言ったよね? 犯人は殺すと」
「…………」
「君が許しても……。僕は許さない………」
ルーファスの瞳が、真っ直ぐに私を見る。
「ミシェール。君がどんなに減刑のお願いを、僕にして来ようとも………。僕は未来永劫許さないし、決して減刑はしない」
「…………」
「……これは、僕が持っている僕の意志」
彼の手が、私の前髪を梳く。
その手が止まると、彼の唇が私の額に触れた。
温かい唇。
彼の温度が私の中に広がって行く。
今は真夜中で。
ここは第二王子様の私室で。
彼はその宝石のような瞳で私を見つめる。
指で私の頬を添う。
そして、頬に口づけを落とす。
右の頬に。
左の頬に。
外は真っ暗で。
王子宮の庭には薔薇が植えられていて。
その薔薇に、降るような星空。
前世の私は。
そんな星空は、見たことがなかったけど。
この王子様と、手を繋いで。
見てみたいと思った。
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