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017 『瞼の感触』
しおりを挟む聖女はキョトンとした顔で王子を見上げていた。
「やっぱり欲求不満なのですか」
「まったくをもって欲求不満じゃ無い」
「では、何故?」
理由を聞くものなのか?
「なんとなくだ」
「なんとなくですか?」
「なんとなく、してみようかと思っただけだ」
「ルーイ様も金貨がお好きで?」
「そういう訳じゃない」
「金貨の光は人を魅了しますものね」
「お前は、人の話を聞いているのか?」
「では、恋人が欲しくなったなら言って下さい」
「欲しくはならないから言わない」
アリシアは頬を膨らませる。
「ルーイ様には英気を養って頂きたいのです」
「恋人がいなくとも英気は養える」
「どうやって?」
「家庭教師が口移しで食事を与えてくれる。それだけで栄養は足りている」
「二度としませんが」
「きっと食べられなくなったら、またしてくれる」
「まあ、それはそうですね」
「それで充分だ」
「お若いのにお労しや」
「随分な言われようだな」
「これでも心配しておりますもので」
「ほう」
失礼がデフォなのか?
それとも忌憚ない意見とでも言うのだろうか。
言われっぱなしなのもどうかと思うので、少し仕掛けてみる。
「年上が好みなんだ」
「何歳くらい年上の女性がお好みですか?」
「八歳上だ」
「二十五歳ですね。分かりました」
「本当に分かっているのか?」
「二十五歳の女性ですよね」
「そうだ」
「人妻っぽい年齢ですね」
「そうか。ここまで言っても分からないか」
「何がですか」
「アリシアが恋人になれ」
「御免被ります」
「盛大にフラれたのか?」
「教師ですので」
「口移しで食べさせようとしたくせに」
「人命は尊いですからね。生徒が死にそうになったら、いくらでもしますよ」
「では、夜の教育係になれ」
「寝言は寝て言って下さいね。ルーイ様」
「教師なのだろう」
「ええ教師です」
「夜も教育しろ」
「出来ません」
「何故?」
「未経験なので人に教えられません」
未経験か。
聖女だしな。
「では知識は?」
「あります」
「では、その知識を披露しろ」
「………」
アリシアは顎に手を当てて考えていた。
「そちらの方向から元気になりますか?」
「お前も大概失礼だな」
「え?」
「え?」
「とにかく今晩からだからな」
「今晩から?」
「俺の寝室に来るように」
「行かないと言ったら?」
「明日から食事を取らない」
「おやおや脅しですか? いけない生徒ですね」
「来ないのか」
「行きますよ。謹んで窺わせて頂きます」
アリシアは顔色一つ変えずに返事をした。
変わった女だな。
でも面白い女。
今まで見たことも聞いたこともないタイプだ。
王子は果樹水を一口飲み、眼鏡をかけ直すアリシアを見ていた。
キスをして、頬すら赤らめない女と初めて会った。
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