7 / 10
七話 第九王子との盟約
しおりを挟む第九王子の存在なんて誰も認識していなかった。
王が老いてからつくった、側妃の子供だ。
美しくて儚い歌い手だった。
余興の一つで呼んだ楽団の歌姫が、王の手付きになったのだ。
良くある話だ。
意外性の欠片も無い。
老いの楽しみとして囲った側妃に王子が生まれた。
可哀想に。
何の後ろ盾も無く、守ってくれる母も産褥の苦しみで死んでしまった。
そう彼は。
何も無い王子だった。
誰からの関心も。
誰も彼を愛していない。
存在していないのと同じこと。
息が詰まるような、権謀術数の王宮で、彼は辛うじて息をしていた。
リオが王子に会ったのは彼が七歳の頃だった。
いつも本を読んでいるような。
いつも小鳥と歌うような、そんな王子だったと思う。
ーーけれど
無色透明な王子は。
無色透明が故に。
第一王子の目に留まるようになる。
第一王子という人は、何故か真っ当に育たなかった。
どこで履き違えたか分からないが、他者に慈悲ある人格者とは程遠く、リオは契約の対象として端から外していた。
そう。
次期王太子の地位は、リオに決定権があるのだ。
何故ならそれは、リオが次期筆頭魔導師と決定されているからだ。
オルコット王国に、ルビウスの瞳を受け継いだ魔導師は二人しかいない。
一人は王の宰相であるリオの実父。
そしてもう一人はルビウス家の長男であるリオ。
ルヒウスの瞳を持って生まれし者は、王族より余程価値がある。
圧倒的な魔力と魔法展開を有するのだから。
王国の盾であり矛である。
そんなリオは、次期王太子となる王子の選定を望まれていた。
決定時期すらリオが持っている訳だが、自分の生涯を掛ける王子だからな、慎重に選ばないと。
そんな日常の中で。
第一王子の余興だったのだろう。
第九王子に毒を盛った杯を勧めたのだ。
建国祭の最中。
賑わう王宮で。
兄弟の杯を交わそうと。
第一王子が第九王子に杯を渡した。
第一王子は馬鹿なのか?
それとも逃げ道を用意してあるのか?
アレが毒杯だと。
リオは知っていた。
親の無い、孤児を引き取ってはそういう遊びに興じている。
そんな噂がある王子だった。
とうとう第九王子にも手が伸びたんだな。
アレが毒杯だと、周りの者も知っている筈だ。
何故なら第一王子の遊びは有名だからな。
第一王子を誰も諫める事が出来ない。
王族だから。
見ていて気分の良いものではない。
人が自分の目の前で死ぬのだから。
第九王子か。
母親が妖精姫といわれていただけあって、儚くて脆そうだ。
ちょっと見たことがないくらいの美少年な訳だが、それが第一王子の鼻に付いたんだう。
要は羨ましいのだ。
人間なんて、言葉の表皮を剥いてみれば意外にシンプルな感情が蠢いているものだ。
羨ましい。羨ましい。
美麗な容姿が羨ましい。
有能さが羨ましい。
運動能力が羨ましい。
羨ましい。
羨ましい。
寵愛が羨ましい。
第九王子の取り柄など、あの容姿くらいな訳だが。
醜い容姿で生まれ付いた者には、喉から手が出る程、欲しい物らしい。
別に第一王子には第一王子の長所があるだろうに。
周りが彼の長所を寄って集って潰したのだろう。
有りがちだ。
有りがち過ぎて虫唾が走る。
だがしかしーー
リオは見て見ぬ振りを決め込んでいた。
面倒くさい。
第一王子に睨まれるのも。
第九王子に恩を売るのも。
それが本音だった。
けれどーー
第九王子の薄紫色の瞳と目が合った瞬間ーー
体内の魔力が暴発した。
放とうと意識した訳ではない。
魔法陣を組んだ訳でもない。
負の怒りのような感情が、無詠唱で暴発したのだ。
つまりアレだな。
力があるのに使わないリオへの神からの怒り。
力を授けたのに、使わない憤り。
シャンデリアの光が一瞬で消え、硝子が次々に割れた破片となって、その場に降り注いだ。
魔力が暴発した瞬間、第一王子と第九王子はリオを見た。
そうだ。
こんな事を出来るのはリオしかいない。
リオは結界の魔術を行使し、第九王子を背に庇い第一王子の前に跪く。
第九王子が持っていたワイングラスを受け取り、毒を無効化する解毒魔法を展開した。
そしてワインを一気に煽ったのだ。
「これはこれは、南部スコット地方の名産マルコーですね。新しいものだが、華やかで飲みやすい」
九歳児が何を言ってるんだという感じだが、毒と一緒にアルコールも抜いてあるので大丈夫だろう。
その間に、復元魔法でシャンデリアを元の形状に戻す。
再度光を灯す瞬間に、余興のように光の雨を降らせた。
場がドッと盛り上がる。
良い仕事するだろ?
「これはこれはソルジャー家のリオ殿ではないか? 相変わらずの凄腕だな」
「ありがとうございます。建国祭への贈り物にございます」
リオは微笑みながら第一王子に答える。
「素晴らしい贈り物だ」
「恐れ入ります」
贈り物であるわけはないのだが、場を纏めるために、そういう事にしておく。
贈り物でシャンデリアを壊す馬鹿はいないだろ。
「ところでリオ殿」
「何でしょうか第一王子殿下」
「契約の王子を宣言してもらいたいのだが」
焦れた調子で王子が要望する。
別に今宣言する義務などないので、躱しても良いのだが、どうするかな?
リオは自分が飲み干した杯を第一王子殿下に差し出す。
そして真っ赤な液体を魔力で注いだ。
先程、抽出した神経毒だ。
飲めば廃人確定。
孤児を殺した罪がこれで賄えるとも思えないが、一応の弔いにはなるだろう。
「どうぞ。リオからの杯にございます」
身分的には臣下の杯を王子が取るなんてことはないのだが、まあリオは次期筆頭魔導師なのでありっちゃあありだ。
第一王子は口角を上げて、興奮している。
馬鹿な男。
古今東西、罪なき人間を殺した人間がルビウスの魔導師に認められる訳がない。
身分に胡坐を掻き、驕慢で心を満たした醜悪な人形。
お前を神が裁けとお命じになった。
恨んでくれるなよ?
一気に煽った王子はそのまま泡を吹いて倒れた。
「第一王子殿下は、自ら用意した杯によってお倒れになった。衛兵、医務室に運ぶように」
静まった広間に、リオの声だけが響いた。
この世で、リオに逆らう者はいないだろう。
誰もが恐れて近寄っては来ない。
「リオ・ソルジャー・ルビウスは第九王子と契約を取り交わす。儀式の用意を急げよ」
リオは高らかに宣言したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる