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十話 神のお気に入り
しおりを挟むリオは王宮の中庭でベンチに座り、一匹の猫を撫でていた。
猫は顎をリオの手に乗せ、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
リオは猫をとても可愛がっていた。
というのも、人はリオを恐れて気軽に近づいて来ないからだ。
母親ですら、リオには非常に気を使って接して来る。
母はルビウス家に嫁いで来ただけの人間だったから、魔術に関しては疎い。
けれど、母も使用人もいや全ての王国中の人間が、リオの機嫌を損ねれば国が滅ぶと本気で思っている。
故に、距離を空け接して来るのだ。
距離を空けずに接して来るのは一握りの人間だけだ。
王太子であるアシュリー。
宰相であり筆頭魔導師である父。
兄弟。
本当に一握りの人間だな。
目を細めて、猫の仕草を見つめる。
猫は人間の幼児くらいの知能を有すると言われている。
四歳か五歳か。
「お前は俺が男でも女でも態度が変わらないな?」
陽射しが眩しい。
中庭はいつもの中庭で、手入れの行き届いた季節の花が目を楽しませてくれる。
リオには『知恵の実』を食べた人間への、神の激怒が分かる気がした。
神は。
神は人間を猫のように愛していたのだろう。
可愛く無垢な者へ、愛情を注いでいたのだろう。
神は知恵の恐ろしさを知っているから。
きっと悪意ある人間の誕生を恐れていたに違いない。
リオは猫の全てが無垢なものだと知っている。
性格は色々だ。
人懐っこい奴もいれば、怖がりの小心者もいる。
だが。
悪意ある猫など存在しない。
皆等しく愛おしい存在だ。
しかしーー
悪意ある人間は存在する。
人を殺す。
憎む。
虐げる。
欺く。
馬鹿にする。
人は人から受ける苦しみに苦悩する。
そうしてーー
人は、人に救われる。
善意の振り幅も広い
高潔な人間も、また存在するものだから。
人は難しいな?
そう思いながら、猫を抱いた。
女になっても……。
孤独は変わらない。
リオに近づく人間なんていない。
機嫌を損ねたって、王国を滅ぼしたりなんかしない。
誰よりも、王国の平和を願って、自分の持てる時間を使っているんだ。
皆はリオが女になって欲しいと思っていたのか?
アシュリー王子が懐いているから?
リオが妃になって。
そうして国母となり。
子を育て、魔術で国を守り。
そういう未来を望んでいた?
ゴロリとベンチに横になる。
猫はお腹の上に乗ってくる。
日の光が眩しい。
男のリオはどこに行ってしまったんだろう?
誰も男のリオは必要としていないのか?
この世を創世した神ですら、男のリオはいらないという。
男のリオを好きだと言っていた女性はいたか?
みんな遠巻きに見ていただけだ。
本気で付き合いたいとは思っていないのかも知れない。
いつか、父の用意した女性と結婚するのだろう。
その女性はリオを怖がらないのか?
それは結婚してみなければ分からない。
母みたいに恐れるかも知れない。
顔色を窺って接して来るかもしれない。
あの。
第一王子から差し出された、ワイングラスを握った時。
砕け散った硝子の破片みたいに。
キラキラと。
陽が差している。
リオの上にも降り注ぐ。
体中に降り注いで。
体の隅々まで届いて。
体温を上げて行く。
リオは太陽に、自分の手を翳した。
女性らしい、ほっそりとした小さな手だ。
今までより一回り小さい。
自分の性別が変わるなんて、考えた事もなかった。
豚に変わってしまった王は、どんな事を考えて過ごしたんだろう?
足掻いたのか?
受け入れたのか?
女って、こんな感じなんだな?
体の動きが小さくなり。
柔らかくなった気がする。
一年も経てば慣れそうだ。
そうやって心も変わって行くのかも知れない。
そんな物思いに耽っていると、陽の光を遮るように、リオの顔を覗き込む影がいた。
珍しいな?
そんな風に思いながら、リオは顔を上げる。
そこには妹のブレンダがいるのだった。
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