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王太子の回答

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王妃選定の最終日は大雨だったが、予定を繰り下げることは出来なかった。

異種族の国との接触、それが全てを変えた。本来1年続くはずの選定が中断されることに不平を言うものは居ない。今も侵攻は続いており辺境伯令嬢と公爵令嬢はそれぞれの義務を果たすべく前日に出立した。これもまた今までにない事だが致し方のないことだ。

どこまで侵攻されたか分からないが国王夫妻もまた前線へと向かった。王都から指揮していては間に合わないという判断だ。

ここにいる者達も発表が終わればそれぞれの義務を果たすべく動き出すことだろう。

何人生き残ってくれるだろうか。




私は薔薇の皇女を王妃として選んだ。理由は戦争だ。皇国との攻守同盟のために私は彼女を選んだ。

恋に敗れることすら出来ず全てが終わるとは思っていなかった。

上手くやらなくてはならない。先触れを出し、彼女の応接間で私はあの美しい皇女を待った。

思えばあれは今までにない事だった。隣国の姫君が選定に参加するのは。国内ならともかく外国の姫君を一般庶民が負けさせるとメンツの問題になるため今までは決してそのようなことはしてこなかった。もしかしたら、あの神の代理人と呼ばれる皇家は本物かもしれない。

そんな考えは現れた皇女の顔を見て吹き飛んだ。

赤薔薇姫の噂通りのドレスを纏った彼女の笑みは並の男なら理性が吹き飛ぶだろう。特に大きく開かれた胸元。非公式とはいえ戦時中である時期にふさわしいかと言われれば微妙と言わざるを得ないが。

彼女はなぜこのような服装を選んだのだろうか。

彼女の顔をよく見てみると、澄ましてはいるものの、俺の目はごまかせない。
何年王子様やってると思っているんだ。

荷物が重すぎて持ちきれない。彼女はまさしく押しつぶされてしまっていた。

それがわかったのは自分もまた悲嘆にくれていたからかもしれない。

昨日一日、愛しい幼馴染が出ていってからずっと沈んでいたのだから人のことは言えない。
故国に恋人でもいたのかもしれない。

そんな彼女を抱きしめて、君を決して1人にはさせないと囁く。
こういうときは人の温もりがどうしようもなく恋しくなるから。

雨はさらに激しく降り注ぎ、雷鳴が空を切り裂いて人を焼く。それでも、二人ならきっと乗り越えられる。
乗り越えられる二人になってみせる。

そう、俺は決意した。
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