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「この女郎をつまみだせ!」
あの男のその声が耳にこびりついて離れない。
修道院で野菜を育て料理を楽しむシスター・ミッシェルはかつてクリームランド公爵令嬢ルカと呼ばれていた。修道院と言ってもそれぞれの状況は様々である。ミッシェルは幸運にも国王夫妻の計らいで真っ当な修道院に入ることが出来た。僅かな労働で1日3食の十分な食事と清潔な衣類、寝床が得られる生活は残してきた家族やそのほかの貴族により保たれている。余裕が出来て、周囲に気を配ることが出来るようになるとどうにもかつての自分に良くしてくれた人々のことが気にかかる。外のことを尋ねても他のシスターたちが答えてくれないのはもう知っているが諦められない。かつてルカと呼ばれた少女は決して諦めの良い人間ではなかった。
修道女の業務のひとつに孤児院の子供の世話がある。ミッシェルは今日が当番だ。あまり人気のある方ではなく、たんたんと一つ一つこなしていく。
「魔女なんてしんじゃえ!」
見上げるとリサという少女が去っていくところだった。
レオがいた頃はここまでではなかったのに、孤児たちとの中は悪くなっていくばかりだ。今更ではあるが傷つくのでやめて欲しい。レオがいた頃はわたしの話を聞いてくれる子もいたのに、なんだか悔しい。そういえば彼が出ていく日、私が親しくした人の話をしたが、それは彼の役に立っただろうか。
そんなこんなでじわじわと悪化していく状況に鬱々としていると修道院長から呼び出された。最近はシスターたちもあからさまになってきている。なにか悪いことかと緊張しつつ院長室の扉を開ける。予想外にも、その内容は還俗、つまり再び家に戻れというものだった。何度聞き返しても同じ内容で、頭を抱えつつ退出する。これからどうしようか。下手すれば平民として放り出されたり、死んだ方がマシな目に遭いかねない。いくら考えても答えが出ることは無かった。
3年間で俗世は大きく変化した。驚くべきことに、自分を糾弾した第一王子派は没落し第一王子は廃嫡された。国王も退いてその座を第三王子に譲ったという。両親も何らかの理由で政治から手を引くことになり、自分が爵位を継ぐのだという。ミッシェルは求めたものが求めるのをやめた途端に手に入ったことに少なからず辟易する。そして、還俗は確定らしい。
「我が姫、どうか私の愛を受けいれ、妻となってくれ」
仕方が無いので荷物をまとめたミッシェルをかつて面倒を見た孤児、レオが迎えに来る。正門に現れた彼の、昔と変わらぬ笑顔に、周囲の変化から疲弊した私は安堵し心からの笑みを浮かべた。そして彼にはじめてルカと名乗る。次は彼が挨拶する番と膝まずいた彼を見つめると、突然結婚を申し込まれた。答えは一つだろう。私に信頼出来る未婚の異性の知り合いは一人だけだ。
レオの婚約者になった私は急かされつつ彼の用意した馬車に乗り込む。浮かれすぎでは?それに続いて乗り込んだ侍女は顔見知りというよりもずっと深い仲であったリリアだ。わたしのかつての専属侍女の一人でもある。唯一の自分の味方と言える侍女は5年前に解雇されたにも関わらず変わらぬ忠誠を私に誓った。シスターで無くなった以上、これ以上修道服を纏う訳には行かない。かつての服は処分されており仕立てるのにも時間がかかるためひとまず既製品の店に入り、購入することにする。レオが選んだのは私の知らない店だった、最近できたらしい。オーナーと駆け寄る店長を見て、レオが想定以上に成り上がったことを私は理解した。
「あなたは彼でいいの?」
「彼がいいのでございます。」
そう答えたとき、彼がどんな顔をしていたかルカは知らないし、自分の顔がどうなっていたかも知らない、そして、自分の妹である王妃とその夫であり、レオの親友である国王の表情も知らない。彼らの心の内については、尚更。
王城の、王族のみのプライベートスペースで国王夫妻と謁見する。かつて私を置き去りにして両親と妹はこんな場所で歓談していたのかとしみじみとしていると妹と互いに名乗り合う。久しぶりに会う妹は見違えるほど美しくなっており、傍らには国王が微笑んでいる。ルカは素直に2人を祝福した。その後、結婚式への出席を打診する。当然と言わんばかりに、妹、いや、王妃殿下が了承して下さった。なぜ追放され、なぜ連れ戻されたのかは分からないがいずれ知る機会もあるだろう。
ルカとレオは晴れた日に王都中の人々から祝福されて結婚することになる。王妃の呼び掛けで祝福を受けた夫妻は生涯仲睦まじく暮らしたという。
「お姉様ってあんなに朗らかに笑う方だったのね。」
「前は環境が酷かったから笑うどころではなかったのだろう。もちろん、君のせいではないが。」
愛さない親のことなど忘れてどうかお幸せに
そう言ったのはだれ?
よろしくお願いします!
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「この女郎をつまみだせ!」
あの男のその声が耳にこびりついて離れない。
修道院で野菜を育て料理を楽しむシスター・ミッシェルはかつてクリームランド公爵令嬢ルカと呼ばれていた。修道院と言ってもそれぞれの状況は様々である。ミッシェルは幸運にも国王夫妻の計らいで真っ当な修道院に入ることが出来た。僅かな労働で1日3食の十分な食事と清潔な衣類、寝床が得られる生活は残してきた家族やそのほかの貴族により保たれている。余裕が出来て、周囲に気を配ることが出来るようになるとどうにもかつての自分に良くしてくれた人々のことが気にかかる。外のことを尋ねても他のシスターたちが答えてくれないのはもう知っているが諦められない。かつてルカと呼ばれた少女は決して諦めの良い人間ではなかった。
修道女の業務のひとつに孤児院の子供の世話がある。ミッシェルは今日が当番だ。あまり人気のある方ではなく、たんたんと一つ一つこなしていく。
「魔女なんてしんじゃえ!」
見上げるとリサという少女が去っていくところだった。
レオがいた頃はここまでではなかったのに、孤児たちとの中は悪くなっていくばかりだ。今更ではあるが傷つくのでやめて欲しい。レオがいた頃はわたしの話を聞いてくれる子もいたのに、なんだか悔しい。そういえば彼が出ていく日、私が親しくした人の話をしたが、それは彼の役に立っただろうか。
そんなこんなでじわじわと悪化していく状況に鬱々としていると修道院長から呼び出された。最近はシスターたちもあからさまになってきている。なにか悪いことかと緊張しつつ院長室の扉を開ける。予想外にも、その内容は還俗、つまり再び家に戻れというものだった。何度聞き返しても同じ内容で、頭を抱えつつ退出する。これからどうしようか。下手すれば平民として放り出されたり、死んだ方がマシな目に遭いかねない。いくら考えても答えが出ることは無かった。
3年間で俗世は大きく変化した。驚くべきことに、自分を糾弾した第一王子派は没落し第一王子は廃嫡された。国王も退いてその座を第三王子に譲ったという。両親も何らかの理由で政治から手を引くことになり、自分が爵位を継ぐのだという。ミッシェルは求めたものが求めるのをやめた途端に手に入ったことに少なからず辟易する。そして、還俗は確定らしい。
「我が姫、どうか私の愛を受けいれ、妻となってくれ」
仕方が無いので荷物をまとめたミッシェルをかつて面倒を見た孤児、レオが迎えに来る。正門に現れた彼の、昔と変わらぬ笑顔に、周囲の変化から疲弊した私は安堵し心からの笑みを浮かべた。そして彼にはじめてルカと名乗る。次は彼が挨拶する番と膝まずいた彼を見つめると、突然結婚を申し込まれた。答えは一つだろう。私に信頼出来る未婚の異性の知り合いは一人だけだ。
レオの婚約者になった私は急かされつつ彼の用意した馬車に乗り込む。浮かれすぎでは?それに続いて乗り込んだ侍女は顔見知りというよりもずっと深い仲であったリリアだ。わたしのかつての専属侍女の一人でもある。唯一の自分の味方と言える侍女は5年前に解雇されたにも関わらず変わらぬ忠誠を私に誓った。シスターで無くなった以上、これ以上修道服を纏う訳には行かない。かつての服は処分されており仕立てるのにも時間がかかるためひとまず既製品の店に入り、購入することにする。レオが選んだのは私の知らない店だった、最近できたらしい。オーナーと駆け寄る店長を見て、レオが想定以上に成り上がったことを私は理解した。
「あなたは彼でいいの?」
「彼がいいのでございます。」
そう答えたとき、彼がどんな顔をしていたかルカは知らないし、自分の顔がどうなっていたかも知らない、そして、自分の妹である王妃とその夫であり、レオの親友である国王の表情も知らない。彼らの心の内については、尚更。
王城の、王族のみのプライベートスペースで国王夫妻と謁見する。かつて私を置き去りにして両親と妹はこんな場所で歓談していたのかとしみじみとしていると妹と互いに名乗り合う。久しぶりに会う妹は見違えるほど美しくなっており、傍らには国王が微笑んでいる。ルカは素直に2人を祝福した。その後、結婚式への出席を打診する。当然と言わんばかりに、妹、いや、王妃殿下が了承して下さった。なぜ追放され、なぜ連れ戻されたのかは分からないがいずれ知る機会もあるだろう。
ルカとレオは晴れた日に王都中の人々から祝福されて結婚することになる。王妃の呼び掛けで祝福を受けた夫妻は生涯仲睦まじく暮らしたという。
「お姉様ってあんなに朗らかに笑う方だったのね。」
「前は環境が酷かったから笑うどころではなかったのだろう。もちろん、君のせいではないが。」
愛さない親のことなど忘れてどうかお幸せに
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