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本編

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これは主人公では無い私の物語

 満天の星空に浮かぶ星の一つ一つがそれぞれ異なる音を持ち連携して奏でるピアノに合わせて歌を歌えば奇跡が起こる。星の声に耳を傾ける聖女はその奇跡を起こす力を持つ。

 そんな聖女の奇跡によって人間は魔物の脅威から守られ平和を謳歌している。

 今宵は万星祭。地上の灯りは全て消え誰もが静かに空を見上げる中奇跡は起こる。街中を吹き抜けたオーロラのような波動の残滓を感じながら私はすっかりひねくれていた。

 私はミッシェル、サンローズ候爵家の長女であり嫡子であり現王の寵姫の子である第三王子ルークの婚約者だ。庶出の王子は高位貴族に婿入りして将来安泰。私は初恋を手に入れてハッピーエンドのはずが王子は不満があったらしく発見された聖女の世話役を買って出てそのまま婚約解消からの聖女と結婚。失意の果てに私が死に空いた我が家の後継に収まるというのがざっくりとした物語の流れだ。嫌がらせをしたわけでもなく惜しみなく与えて裏切られたミッシェルが哀れでならない。なんて思っていたら当の本人になってしまった。

もちろんそんなことになるつもりはさらさらない。

残念ながら記憶が戻ったのが捨てられた後だったが、かろうじてまだ王家との交渉が残っていた。だから私は一つ父におねだりをした。

 魔法の天才と呼ばれる正妃との子、第四王子カールとの婚約はどのような思惑かあっさりと通った。彼はスピンオフの主人公で聖女に淡い恋をいだき抱き最終的には聖女の忠実な騎士となるキャラだ。しかし今はまだ彼の物語は始まってもいない。甲斐甲斐しく世話をされ極上の生活を送る描写が羨ましかったので引き抜くことにした。

 カールは本当に優秀で私は何もしなくてもよかった。無事に3人の子供を産んでナニーに預けて贅沢三昧。最後の最後まで幸せに過ごすことに成功した。
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