悪役令嬢は桜色の初恋に手を伸ばす

夜摘

文字の大きさ
16 / 33

第16話 悪役令嬢、恋バナをする

しおりを挟む
 エリスレアが、アリシアとこれから先も一緒に居る為に必要なこと。
 まずひとつは、彼女と駆け落ちの可能性がある男を彼女から遠ざけるor仲良くさせ過ぎないよう注意を払うこと。
 もうひとつはどちらかが妃になった後、もう一方を輔佐役か何かとして傍に置くことを王子に許可をしてもらうこと。
 …こちらは今のところ問題が無いと思う。アリシア自体が私と同じ気持ちでいてくれることは大前提だけれど…。

 私は、アリシアが王子と結ばれること…、彼の妃になることを望むのなら、それを応援してもいいと思っている。
 むしろそれならその方が、彼女はずっとこの王都に居てくれるということになるし、私も何かしらの城の役職につくことができれば自然に傍にいることは出来るからだ。

「ねぇ、アリシア。貴女は王子の妃になりたいと思っていますの?」

「…え?」

「王子の婚約者候補…お妃候補に選ばれると言うのはとても光栄なことなのは、わたくしも重々承知していますし、わたくし自身もそう思ってはいますけれど、貴女にとっては突然のことだったでしょう?」

 アリシアは少しだけ驚いたように目をぱちくりとさせた。

「大きな声では言えないけれど、故郷に恋人や好きな人がいたら…離れ離れになってしまったことになるし…」

 ゲームではそんな設定もなかったから、多分そんなことはないと思いつつ、もしも"居たら"????と考えてしまったら、妙に胸がずきっとした。
 アリシアはそんな私の様子に、心底びっくりした様子でぶんぶんと首を横に振って、さらに身体の前に両手を広げたポーズをとった。

「そ、そんな人いないよぉ!もう、エリスったら唐突なんだから…!」

「…ご、ごめんなさいね?ほら、やっぱりそう言うのって気になってしまって」

「…もしかして、エリスの方こそ好きな人がいたり……」

「え?」

「…え?」

「………」

「………」

「い、いませんわよ?」

「ホントに?」

「本当ですわよ!」

「…じゃあ、本当はエリスの方こそ…お妃様になりたいとは思ってないの…?」

 私はなんて答えたら良いのか少し悩んでしまった。
 だってゲームでは女主人公ヒロインの口説き方は学べなかったんだもの…。
 そんな私の動揺や躊躇いにもお構いなしに、アリシアの言葉は続く。

「……エリスと王子様は幼馴染なのよね」

「え、ええ」

「私ね、エリスと王子様は相思相愛なんだと思ってたの」

「ええ!?」

「だって、仲も良いし。…あ、でもジェイドさんとも仲良しだよね」

「よ、良く見てますのねぇ」

 確かに彼女の目に見えるところでも彼らと接していることはあっただろうけれど、そこまで観察されているとは思いも寄らなくて、私もびっくりしてしまう。
 王子と幼馴染だという事は、誰かから聞いたのかもしれないけれど…。

「エリスと王子様が両思いなのに、私が婚約者候補として現れたなら、私は二人のお邪魔虫になってしまうってことじゃない?だから、二人とも優しくしてくれるけれど、本当は凄く苦しんでいるのかも…ってちょっと心配だったんだ…」

「アリシア、貴女…」

「…でも、そうじゃないなら良かった」

「気を遣わせてしまったのね。ごめんなさい…」

「ううん、良いの!私のせいで誰かが嫌な思いをしちゃうのが嫌だっただけで…」

「確かにわたくしと王子は幼馴染ですし、大事な友人であるのは確かですけれど…」

「そうなんだ…」

「…あ…ここだけの話にして下さいませね?」

「…うん。わかった。二人だけの秘密ね…」

 "二人だけの秘密"と言う甘美な響きの単語に少しだけときめきを覚えるが、顔には出さないように表情を引き締める。

「…それで、アリシアはこっちに来てから良いなって思うような男性は居ますの?」

 ちょっと流れ的に不自然だったかも知れない。けれど、このニアリー恋話の流れが次いつ訪れるかわからない。チャンスがあったなら逃すわけには行かない。

「え、えぇ!?良いなって…えっと…」

 明らかに動揺しているし、なんだかちょっとモジモジしてる気がする…。これは怪しい…。

「…どなたですの?わたくしの知ってる方ですの?」

「え、えーっと…えっと…王子様はカッコイイと思うし、ジェイドさんも優しくって素敵な人だよね!」

「………」

 誤魔化すようなアリシアの様子に、思わず私はじっと問い詰めるような視線を向けてしまう。

「…あ、あはぁ…」

 アリシアは笑って誤魔化そうとするのを諦めたようで、小さくため息を一つついた後、小声でもじもじと話出した。

「………んと、……男の人にそういうのは、いない…かな?」

「そうですの…」

「…うん。王子様やジェイドさんが素敵な人だなって思ったのは本当だけど…」

「そう…そうなんですのね」

 私は心からホッとしてしまった。アリシアはちょっと気まずそうなまま。

「…エリスは? エリスも本当に好きな人はいないの?」

 何処か一生懸命な様子に、私は少しドキっとしてしまう。
 これは"そういう"意味の質問だ。
 だから、ここでアリシアの名前を出すのは変なことになってしまう。それくらいはわかっている。
 だから私は口ごもってしまうのだけれど、アリシアの顔は真剣だ。

「わたくしは…」

「………………」

「………………」

「………………」


 私とアリシアが見詰め合っている静寂を不意に引き裂いたのは、メイドのマリエッタだった。

「お嬢様、アリシア様!もう良いお時間ですよ!そろそろお部屋に戻りましょう!」

 気がつけば空はほんのりオレンジ色に染まっていて、私達が随分と長い間お喋りに興じていたことを示していた。 予定よりも帰宅が遅かったことで心配したマリエッタが私を迎えに来たのだという。

「お喋りに夢中になるのは良いのですが、ちゃんと門限は守って頂かないと!旦那様に怒られてしまうのは私なんですからね」

 そんな風にブツブツと文句を言うマリエッタを横目に、私はアリシアに「ごめんね」と言う気持ちを込めた視線を向けた。
 アリシアは「大丈夫」とでも言う様にいつも通りの優しい微笑みを返してくれた……のだけれど、その後ハッと何かに気がついたような顔をしたかと思うと、突然拗ねたように唇を尖らせ、ふいっと横を向いてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 異世界の伯爵令嬢として生まれたフィオーレ・アメリア。美しい容姿と温かな家族に恵まれ、何不自由なく過ごしていた。しかし、十歳のある日——彼女は突然、前世の記憶を取り戻す。 「私……交通事故で亡くなったはず……。」 前世では地味な容姿と控えめな性格のため、人付き合いを苦手とし、恋愛を経験することなく人生を終えた。しかし、今世では違う。ここでは幸せな人生を歩むために、彼女は決意する。 幼い頃から勉学に励み、運動にも力を入れるフィオーレ。社交界デビューを目指し、誰からも称賛される女性へと成長していく。そして迎えた初めての舞踏会——。 煌めく広間の中、彼女は一人の男に視線を奪われる。 漆黒の短髪、深いネイビーの瞳。凛とした立ち姿と鋭い眼差し——騎士団長、レオナード・ヴェルシウス。 その瞬間、世界が静止したように思えた。 彼の瞳もまた、フィオーレを捉えて離さない。 まるで、お互いが何かに気付いたかのように——。 これは運命なのか、それとも偶然か。 孤独な前世とは違い、今度こそ本当の愛を掴むことができるのか。 騎士団長との恋、社交界での人間関係、そして自ら切り開く未来——フィオーレの物語が、今始まる。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲
恋愛
主人公ライナスを学生時代にいびる悪役令嬢、フェリシアに転生した。 原作通り、ライナスに嫌味を言っていたはずだけど。 「俺、貴族らしくなるから。お前が認めるくらい、立派な貴族になる。そして、勿論、この学園を卒業して実力のある騎士にもなる」 「だから、俺を見ていてほしい。……今は、それで十分だから」 こんなシーン、原作にあったっけ? 私は上手く、悪役令嬢をやれてるわよね?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...