悪役令嬢は桜色の初恋に手を伸ばす

夜摘

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第17話 悪役令嬢、攻略キャラの好感度調整に励む

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 アリシアがやって来てからと言うものの、すっかりペースを乱されてしまっていた私だけれど、さすがにいつまでもデレデレとしているばかりではいられない…と言う訳で、私は再び周囲の攻略キャラクターたちとの好感度調整や、後々の為の下準備を再開させることした。
 乙女ゲームである"悠チェリ"でメインの舞台となっている"王城"にはクルーゼ王子とジェイド以外にも複数の攻略対象キャラクターたちが存在している。
 絶対に登場することが決まっている王子やジェイドとは異なり、サブキャラクターとも言える彼らは、進め方によっては女主人公ヒロインであるアリシアと出会わないまま進む場合もあるが、それぞれのキャラクターに設定された特定の能力値が特定の数値を越えた場合や、特定に季節や時間に特定の場所へ訪れるなどでも彼らは登場する。
 つまりさすがにそのすべてのフラグを私が叩き折って回る…と言うのは現実的に難しいのである…。

(……本当はそれが出来たら一番良いんだけど、アリシアを四六時中見張って行動をコントロールすることなんて出来る訳がないし……)

 そもそもそんなことをする気も、権利もない。
 いくら自分が"悪役令嬢"だからって、アリシアの人としての尊厳まで奪って良いはずがない。
 …本音を言えば、単純にそんなことをして嫌われちゃうのは嫌だし…。

―――――――そんな訳で、ここはお城の中庭。
 私は、物陰に身を隠し、中庭で歓談に興じている様子の男女を盗み見ている。
 一人は私の愛しのアリシア。もう一人は、明るい茶色の短髪をした純朴そうな庭師の青年だ。
 青年の名前はピーター・ブラウン。
 そう。彼もまた"悠チェリ"の攻略対象キャラクターの一人なのである。
 彼はとにかく純粋で純情…!!!素直で優しい男の子であるピーターくんの最たる特徴は、とにかく好感度の上昇が早い…!!!と言うことだ。
 だからこそ、私はアリシアがこの城にやって来る前から、彼とアリシアが知り合うことにはかなりの警戒をしていた。
 そして実際アリシアはあんなに良い子なのだ。
 惚れっぽいピーターは、放っておいたらすぐにアリシアのことを好きになってしまうだろうし、好きになっててしまえばアッと言う間に好感度がMAXになって告白イベントまで突き進むはずだ。
 ではどうしてアリシアの到着前に、ジェイドに対してしたように彼との好感度を上げて置かなかったのか?…と言うのの答えもまた、彼の最大の特徴が理由なのである。
 彼はとにかく好感度が
 つまりうっかり私に惚れられてしまって告白まで行っちゃっても困るから…と言うことで、出逢いだけは済ませておいて、付かず離れずでイベントなどが起こらない…あくまで顔見知り程度の関係に調整してあった。
 そして、アリシアが彼と出会ってしまった場合には、彼とアリシアが親しくなったら、それに合わせて同じ程度私も好感度を上げることで何とかバランスを取ろうと考えていたのだ。
 場当たり的な対応になってしまうが、さすがに彼を城から追い出すわけにもいかない…。…いやいや、それでも私は必要になったらやるけどね…?
 …なんて、目的の為には手段を択ばない悪役令嬢を遂行しようとする"私"と、アリシアほどではないにしろ彼もまた大好きな乙女ゲームの愛すべきキャラクターの一人なのだから、想い出を傷つけるようなことをするな!と眉を顰める"波佐間悠子"の意識が少しばかり脳内で喧嘩して、私に複雑な想いが生まれたりもしていた訳である。

 そしてこの日、とうとうアリシアとピーターの二人は出会ってしまったのだ。

(……出来れば…この日は来ないで欲しかった……)

 さすがに近づき過ぎたらバレてしまうので、この距離からでは二人の話の内容までは聞こえてこない。
 しかし、二人の表情は明るく、ニコニコと楽しそうな笑顔であるし、アリシアを見つめるピーターの眼差しは優しく、ほんのり頬も赤らんでいる気がする…。
 さすがにどれだけ一度の会話で好感度が上がったとしてもいきなり恋愛感情を抱いた状態にはならないだろうけど…なんてゲームのシステム的な面に救いを求めてしまうけれど、それでも世の中には"一目惚れ"なんて言葉もあるし、実際アリシアは滅茶苦茶に可愛いのだ…。
 あんな可愛い子に惹かれない男なんているはずがないし、私はやはり心配にはなってしまう…。
 胸の中が不安でざわつき始めるのに、私はあえて気がつかないふりをして、二人の邂逅を見守って、アリシアが中庭を出て行って、ピーターは庭木の剪定の仕事に戻って行ったのを確認する。
 そして、ピーターが一人になったのを見計らってから今度は私が彼に声をかけに行く。

「御機嫌よう、ピーター。随分とご機嫌ですわね?」

「…っ、え、わっ!!?…わわっ、え、エリス様!?」

 声をかけた私の方へと振り返り、酷く驚いた声を上げるピーター。
 それはそうだ。基本的に私は必要以上に彼に接触しないように過ごしていた訳だから、こんな風に積極的に自分から挨拶をしに行ったことなんてほとんどない。
 そんな私が、わざわざ彼の仕事中に声をかけて来た…と言う状況は、彼にとってまさに"何が起こったんだ?"という状況なのは間違いない。
 自分が何かしでかしてしまったのか?とでもいうように、あからさまな戸惑いと不安の表情が、彼の顔に浮かぶ。
これこれ、そんなに怯えるでない……。何も取って食おうなんて言うわけでもないんだから。

「それでピーター?あのと何を話してましたの?」

「えっ…!?あのって…。」

「とぼけても駄目ですわよ。アリシアのことですの。親し気に話していましたでしょう?」

「見てたんですか!?」

「………たまたま通り掛かっただけですわよ」

「…うぅ、強引なんですから…。…彼女がここに咲いている花の名前を知りたいって言うから教えてあげたりしただけですよぅ」

 ピーターは、さすがに攻略キャラらしく整った顔のイケメンなのだけれど、クルーゼ王子やジェイドとは違って少しばかりまだ幼さを残している…と言うかあどけない雰囲気のある可愛いタイプの顔立ちだ。
 そんな愛嬌のあるお顔についた形の良い眉を困ったようにへにょっとハの字にして、情けない声を上げる姿はちょっとだけ可愛い。
 …こんな風に言うと彼への私の態度も理不尽に絡んでいるだけのように見えるかも知れないが、これだってしっかり考えた上だ。
 ピーターは、自分でも女性慣れしていないこと・鈍感であると言う自覚があるキャラクターであり、好みのタイプが、"ハッキリと意見を言える女の子"なのである。
 だから、私はもともとの悪役令嬢エリスレアに近いキャラクターのまま、強引で強気な態度でぐいぐい言っているのである。


 
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