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第18話 悪役令嬢、本音の嫉妬を隠して嫉妬する演技をする
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攻略対象キャラの一人であり、城の庭師であるピーターにアリシアとの会話について問い詰めている最中、私はふとゲームでのピーターとのイベントのことを思い出していた。
すっかり失念していたが、確かに城の中庭で彼に声をかけて知り合うと言うパターンの出会いがあった。そしてその時、確か――――――……。
「アリシアにこの花を差し上げたのですわよね」
直ぐ傍にある白く小さな可愛らしい花が咲いている木を見上げる。
その枝には現実世界で言うのなら梅や桃に似ている花が咲いているが、この世界のオリジナルの植物だったはずだ。名前は確か"ユキナゴリ"。
そう、折れてしまい処分しようとしていた花の蕾が付いたユキナゴリの小枝を、花瓶に刺しておけば花が咲くかも…と言う話を聞いたアリシアが譲って欲しいと頼み、ピーターはそれを了承して譲ってくれると言うイベント内容だった。
あのスチルはアリシアがユキナゴリの一枝を手に優しく微笑むスチルが美しくて良かったんだよね……。
私がつい思い出の世界にトリップしてしまっていたのを引き戻したのは、一人現実に取り残されたピーターの困惑した声だった。
「エリスさま…?」
「…と、こほん。失礼しましたわ…」
「…あ、は、はい…。ええと…確かに先ほど折れてしまっていたユキナゴリの小枝を一つ彼女に渡しましたがそれが何か…」
そう、トリップしている場合ではない。彼の一挙一動を見ながら、うまい事好感度を調整しなければならないのだから。
私は、ソワソワと不安そうにしているピーターの返事を聞きながら、慎重に言葉と態度を選んでいく。
「…そうですわね……別にそれは良いのですけれど、私は貴方に花なんて貰ったことなかったなぁって思っただけですわ」
「え?」
私はジトーっともの言いたげな顔でピーターを見つめる。
ピーターは、うぐっと困ったような表情をする。
「…ピーターは私にはお花、下さいませんの?」
やはりまだるっこしいことをやっててもダメだ。私はもうチラチラ察してちゃんの態度からストレートに言ってしまうのにさっさと切り替える。
「エリスさまに?!え、でも…ここに咲いてるものはお城のものだから勝手にそんなことは……」
意外と常識的なところで引っかかりを覚えるんだな、この男ったら…!!
恋愛的な好意には鈍感でも社会的倫理はしっかりしてるんだなぁ!?とか微妙に失礼なことで驚いたりもしちゃう。
でもまぁ、確かにお城のものは王家のものだし、私みたいな立場ならともかく平民である彼がそんなことをするのはリスキーか…と納得もする。
「…それもそうですわね…。……それに…ユキナゴリも無理に折ったりしたら可哀そうですものね…。…残念ですけど…」
とりあえず一旦引き下がりながら相手の様子を伺う。
ほら、ピーター!女の子がお前から花を貰いたいって言ってるんだぞ。
「でも、急にどうしたんですか?お部屋に飾る花が必要なら、後でマリエッタさんに渡しておきますよ?」
「そうじゃないの!もうっ!鈍感ですわね!」
「え、えぇっ!?」
「私は貴方からお花を貰いたかったんですわ。でも、もう結構ですわ!」
よし、そろそろ潮時だ。
私は、ピーターにそう少し怒ったように言うと、踵を返し、スカートを翻して撤収に掛かる。
「ふぇっ…!?そ、それって一体…えっ…えぇっ!!!?」
背を向けた後ろの方から、動揺するピーターの声が聞こえて来るが、呼び止める勇気はないのかそれだけだ。
引き留められてもいないし、私はそのままスタスタとその場を立ち去る。
あれだけ露骨に、"花を貰ったアリシアに嫉妬して、自分も花を欲しがった"と言うのをアピールしたのだ。
アリシアには敵わないとは言え、私だって間違いなく美少女なのだ。
今頃はピーターもきっとドキドキしてしまって、アリシアへのときめきも多少は薄まっているはずだ。
(…突然のモテ期…みたいに思わせてごめんね、ピーター……)
酷いことをしている自覚はあるけれど、勿論私だってピーターのことは嫌いじゃない。
花と平和を愛する純粋で純朴なピーターは、優しく穏やかだけれど二面性のあるジェイドとはまた違う、裏表のない柔らかな優しさを与えてくれる存在だ。
掛け値なしに真っ直ぐな好青年のキャラなんだよね…。だからこそ、ゲームとして遊んでいた頃も、傷つけるのは忍びなくて、彼の攻略を狙ったルート以外は出来るだけで会わないようにプレイしていた…。
だからこんな風に気持ちを弄ぶのはね…本当はやっぱり心苦しいんだよ…。(…やるけど)
私は、ジェイドの時にも感じていたほの暗い罪悪感を胸にチクリと感じながら、ほんの少しだけ懺悔したのだった。
(でもまぁ…実際に焼きもちを焼いてしまったのは本当なんですけれどね…)
中庭に咲くユキナゴリと言われている白く愛らしい花の色と香りを思い返しながら、私はアリシアの姿を思い浮かべる。
あの白い花をその胸に抱いて微笑むアリシアを、あの瞬間確かに彼は独り占めしていたのだから…!
すっかり失念していたが、確かに城の中庭で彼に声をかけて知り合うと言うパターンの出会いがあった。そしてその時、確か――――――……。
「アリシアにこの花を差し上げたのですわよね」
直ぐ傍にある白く小さな可愛らしい花が咲いている木を見上げる。
その枝には現実世界で言うのなら梅や桃に似ている花が咲いているが、この世界のオリジナルの植物だったはずだ。名前は確か"ユキナゴリ"。
そう、折れてしまい処分しようとしていた花の蕾が付いたユキナゴリの小枝を、花瓶に刺しておけば花が咲くかも…と言う話を聞いたアリシアが譲って欲しいと頼み、ピーターはそれを了承して譲ってくれると言うイベント内容だった。
あのスチルはアリシアがユキナゴリの一枝を手に優しく微笑むスチルが美しくて良かったんだよね……。
私がつい思い出の世界にトリップしてしまっていたのを引き戻したのは、一人現実に取り残されたピーターの困惑した声だった。
「エリスさま…?」
「…と、こほん。失礼しましたわ…」
「…あ、は、はい…。ええと…確かに先ほど折れてしまっていたユキナゴリの小枝を一つ彼女に渡しましたがそれが何か…」
そう、トリップしている場合ではない。彼の一挙一動を見ながら、うまい事好感度を調整しなければならないのだから。
私は、ソワソワと不安そうにしているピーターの返事を聞きながら、慎重に言葉と態度を選んでいく。
「…そうですわね……別にそれは良いのですけれど、私は貴方に花なんて貰ったことなかったなぁって思っただけですわ」
「え?」
私はジトーっともの言いたげな顔でピーターを見つめる。
ピーターは、うぐっと困ったような表情をする。
「…ピーターは私にはお花、下さいませんの?」
やはりまだるっこしいことをやっててもダメだ。私はもうチラチラ察してちゃんの態度からストレートに言ってしまうのにさっさと切り替える。
「エリスさまに?!え、でも…ここに咲いてるものはお城のものだから勝手にそんなことは……」
意外と常識的なところで引っかかりを覚えるんだな、この男ったら…!!
恋愛的な好意には鈍感でも社会的倫理はしっかりしてるんだなぁ!?とか微妙に失礼なことで驚いたりもしちゃう。
でもまぁ、確かにお城のものは王家のものだし、私みたいな立場ならともかく平民である彼がそんなことをするのはリスキーか…と納得もする。
「…それもそうですわね…。……それに…ユキナゴリも無理に折ったりしたら可哀そうですものね…。…残念ですけど…」
とりあえず一旦引き下がりながら相手の様子を伺う。
ほら、ピーター!女の子がお前から花を貰いたいって言ってるんだぞ。
「でも、急にどうしたんですか?お部屋に飾る花が必要なら、後でマリエッタさんに渡しておきますよ?」
「そうじゃないの!もうっ!鈍感ですわね!」
「え、えぇっ!?」
「私は貴方からお花を貰いたかったんですわ。でも、もう結構ですわ!」
よし、そろそろ潮時だ。
私は、ピーターにそう少し怒ったように言うと、踵を返し、スカートを翻して撤収に掛かる。
「ふぇっ…!?そ、それって一体…えっ…えぇっ!!!?」
背を向けた後ろの方から、動揺するピーターの声が聞こえて来るが、呼び止める勇気はないのかそれだけだ。
引き留められてもいないし、私はそのままスタスタとその場を立ち去る。
あれだけ露骨に、"花を貰ったアリシアに嫉妬して、自分も花を欲しがった"と言うのをアピールしたのだ。
アリシアには敵わないとは言え、私だって間違いなく美少女なのだ。
今頃はピーターもきっとドキドキしてしまって、アリシアへのときめきも多少は薄まっているはずだ。
(…突然のモテ期…みたいに思わせてごめんね、ピーター……)
酷いことをしている自覚はあるけれど、勿論私だってピーターのことは嫌いじゃない。
花と平和を愛する純粋で純朴なピーターは、優しく穏やかだけれど二面性のあるジェイドとはまた違う、裏表のない柔らかな優しさを与えてくれる存在だ。
掛け値なしに真っ直ぐな好青年のキャラなんだよね…。だからこそ、ゲームとして遊んでいた頃も、傷つけるのは忍びなくて、彼の攻略を狙ったルート以外は出来るだけで会わないようにプレイしていた…。
だからこんな風に気持ちを弄ぶのはね…本当はやっぱり心苦しいんだよ…。(…やるけど)
私は、ジェイドの時にも感じていたほの暗い罪悪感を胸にチクリと感じながら、ほんの少しだけ懺悔したのだった。
(でもまぁ…実際に焼きもちを焼いてしまったのは本当なんですけれどね…)
中庭に咲くユキナゴリと言われている白く愛らしい花の色と香りを思い返しながら、私はアリシアの姿を思い浮かべる。
あの白い花をその胸に抱いて微笑むアリシアを、あの瞬間確かに彼は独り占めしていたのだから…!
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