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イジメガエシ
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「ねぇねぇ、3組の八宮先生いるでしょ。あの人ね、子供が自殺したんだって」
「えぇ!? なんで????」
「イジメだって。遺書があったらしいよ」
「でも、八宮先生ってまだ若いよね。子供って何年生? 小学生とかじゃない?」
「うん、怖いよね…。小学生が自分で死んじゃおうとおもうくらいのこと、されてたってことでしょ?」
「先生も辛いだろうね……でも、自殺するまで全然気が付けなかったのかな……」
「あー…仕事が忙しくて構ってあげられなかった……とか……?」
「………そんなもんかな……母親にも相談できなかった子供さん……なんだか可哀そうだね……」
「ねー……」
八宮莉子は、幼い頃から明るく快活で、自然とクラスの中心人物になっているような人気者の少女だった。
小中高とたくさんの友達に囲まれ、楽しい学生生活を謳歌した彼女は、やがて自らも子供たちを育み、導く教職の道を目指すようになり、生徒からも慕われる立派な教師となる。
そして、その中で素敵な男性と巡り合い、結ばれ、可愛い子共にも恵まれ、他者からも羨まれるような幸せな家庭を築いた。
そんな風にそれまでずっと順風満帆だった彼女の日々が壊れたのは突然だった。
小学校に入学して間もない愛娘が、学校で首を吊って自殺したのだ。
幼い字で書かれた遺書には、苛烈なイジメに耐え切れなかったということが書かれていた。
莉子は突然のことに錯乱し、現実を受け入れられずに荒れ狂った。
娘がいじめられているなんて寝耳に水だった。
幼い娘が死を望むほどに追いつめられるまで全く気が付けず、何もできなかった無能な母親を、同情すると同時にそれ以上に苛烈に世間は容赦なく非難し罵倒した。
「どうして!!!? どうしてあの子が!!!!」
莉子は、学校へと乗り込み担任や校長を責め立てた。
娘を死にまで追いやった犯人は誰なのか、血眼になって探した。
けれど、学校側はまだいじめの事実は確認できていない……だとか、もしいじめがあったとして、加害者側にも未来があるのだから……とごちゃごちゃ言うばかりで要領を得ない。
そのうえ、連日連夜家まで押しかけくるマスコミたちに好き勝手騒ぎ立てられ、ろくに食事をとることも、寝ることもできなくなった。
それでも莉子は娘を失った悲しみと絶望に暮れる間もなく、強い憤怒と憎しみで体を動かし続けた。
そんなことをしているうちに、段々と莉子の夫は家に帰ってこなくなっていった。
この家にいると娘を思い出して辛いだとか、そんな風に言っていた気がするが、それを夫の裏切りに感じた莉子は激昂した。
娘の無念を晴らそうとしている自分を支えることも出来ない無能だと怒鳴りつけ、そのままになった。
莉子は、すっかりちらかり荒れ果ててしまった様子の自宅でひとり、娘の一番最近のアルバムを捲っていた。
クラスでのイジメだったのなら、入学式に撮った新入生の集合写真にも犯人は映っているはずではないか、そう気がついたのだ。
写真をアルバムにしまったときには、可愛い我が子以外の子供たちの姿などろくに見ていなかったが、こうなったらには、どいつが我が子の仇なのか確かめてやろうと思った。
遺書にはクラスメイトの誰かからいじめられたとしか書かれていなかったが、誰一人娘を助けてくれなかったのなら、クラスメイト全員が娘を殺したのというのと同じだ。
莉子は自分を燃え尽くさんばかりの憎悪に身を焦がしながら、入学式の写真を穴が開くほど見つめた。
「……え?」
その瞬間、莉子は固まった。
その写真には娘の他に一人、見知った顔が映っていたのだ。
見知った、けれどずっと忘れていた顔。
「どうして……」
そこには、自分が小学生の時の同級生である"加古川 より子"と言う少女とうり二つの顔があった。
母親である自分の同級生なのだから当然彼女はもう完全に大人であるはずだし、小学生であるはずがない。
普通に考えれば、この子供はより子の娘で、顔が母親にとても良く似ていたとかそんな話だろう。
しかし、その顔は完全により子本人にしか見えないし、彼女の娘である可能性は0だと言うことを何より莉子自身が知っていた。
「……だって、より子はもう死んでるのに……居るわけない……この世に、存在するわけがないのに……」
信じられないものを見た戸惑いと恐怖で莉子は体から血の気が引く感覚を覚える。
もう亡くなっているはずの同級生が、その当時の姿のまま、どうして娘の入学式の写真に写っているのか。
莉子は自分を納得させる理由を探すけれど、そんなものがあるわけもない。
それと同時に莉子は思い出す。
一生懸命声をかけながら自分の後を付いて来るより子を両手で突き飛ばし、膝をすりむいて泣くより子を見て笑ったこと。
どんくさい彼女が大嫌いで、他のクラスメイト達を扇動して、女子全員で無視したこと。
男子をけしかけてロッカーや下駄箱に虫やゴミを入れさせたこと。
体育用具の後片付けや掃除を押し付けた後、用具小屋に閉じ込めたこと。
それがとても楽しかったことを。
"別にイジメなんて大それたことをした訳ではない。からかっていただけ"
"より子が大げさなだけ"
"彼女が死んでしまったのだって、母親が片親だし、家庭に問題があったのが原因に違いないって、自分の親も言っていたし、自分たちのせいではない"
"いつも暗くて泣き虫だったあの子が消えて、クラスも明るくなるし、せいせいした"
そんなふうに莉子は、悪いことをしたと思ったことすらなかったし、それどころか彼女の死すら友人たちと笑いあった。
今ほどインターネットなど普及していなかった頃だから、学校自体も問題を隠蔽したがったこともあり、より子の件はほとんど騒ぎにもならず、その小さな町の中で……大人たちの中で握りつぶされたようだった。
莉子もクラスメイト達も、すぐに彼女の事など忘れてしまった。
初めからそんな子はいなかったとでもいうように、一人の少女の命と人生は踏みにじられたまま、人々の記憶から消えさっていった。
しかし、それが今、この瞬間に、唐突に莉子の記憶として蘇ったのだ。
その瞬間に頭を過るのは、復讐だとか呪いだとかそんな禍々しい言葉たち。
自殺したより子が今になって自分に復讐しに来たとでもいうのか?
冷静に考えればそんなことがあるわけがない。
たまたま、昔の知り合いと似た顔の子供が娘のクラスメイトに居ただけ、ただそれだけのことだ。
(……私はイジメなんてしていない。ちょっとからかっただけ。より子が大げさに受け止めてただけじゃない)
(それに…、あれから大人になって、私はたくさんの子供たちを正しく導くために教師になったんだし…)
幼い頃の小さな過ちなんて、誰にでもあることだろう。
たくさんの子供たちを自分は救っているのだから、過ちの償いだって果たせているだろう。
「私は悪くない……より子は関係ない……関係があるはずがない……」
そう自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟く自身の声が、静かな部屋にやけに響いて聞こえる。
気が付けば莉子は冷や汗で額がびっしょりになっていた。
誰かに見られているような、じっとりとした悪寒を感じる。
気分が悪くて、写真から目をそらしたいのに、より子の顔から視線が逸らせない。
写真の中のより子は、写真越しに莉子を見つめ返すかように薄く微笑んでいる。
「えぇ!? なんで????」
「イジメだって。遺書があったらしいよ」
「でも、八宮先生ってまだ若いよね。子供って何年生? 小学生とかじゃない?」
「うん、怖いよね…。小学生が自分で死んじゃおうとおもうくらいのこと、されてたってことでしょ?」
「先生も辛いだろうね……でも、自殺するまで全然気が付けなかったのかな……」
「あー…仕事が忙しくて構ってあげられなかった……とか……?」
「………そんなもんかな……母親にも相談できなかった子供さん……なんだか可哀そうだね……」
「ねー……」
八宮莉子は、幼い頃から明るく快活で、自然とクラスの中心人物になっているような人気者の少女だった。
小中高とたくさんの友達に囲まれ、楽しい学生生活を謳歌した彼女は、やがて自らも子供たちを育み、導く教職の道を目指すようになり、生徒からも慕われる立派な教師となる。
そして、その中で素敵な男性と巡り合い、結ばれ、可愛い子共にも恵まれ、他者からも羨まれるような幸せな家庭を築いた。
そんな風にそれまでずっと順風満帆だった彼女の日々が壊れたのは突然だった。
小学校に入学して間もない愛娘が、学校で首を吊って自殺したのだ。
幼い字で書かれた遺書には、苛烈なイジメに耐え切れなかったということが書かれていた。
莉子は突然のことに錯乱し、現実を受け入れられずに荒れ狂った。
娘がいじめられているなんて寝耳に水だった。
幼い娘が死を望むほどに追いつめられるまで全く気が付けず、何もできなかった無能な母親を、同情すると同時にそれ以上に苛烈に世間は容赦なく非難し罵倒した。
「どうして!!!? どうしてあの子が!!!!」
莉子は、学校へと乗り込み担任や校長を責め立てた。
娘を死にまで追いやった犯人は誰なのか、血眼になって探した。
けれど、学校側はまだいじめの事実は確認できていない……だとか、もしいじめがあったとして、加害者側にも未来があるのだから……とごちゃごちゃ言うばかりで要領を得ない。
そのうえ、連日連夜家まで押しかけくるマスコミたちに好き勝手騒ぎ立てられ、ろくに食事をとることも、寝ることもできなくなった。
それでも莉子は娘を失った悲しみと絶望に暮れる間もなく、強い憤怒と憎しみで体を動かし続けた。
そんなことをしているうちに、段々と莉子の夫は家に帰ってこなくなっていった。
この家にいると娘を思い出して辛いだとか、そんな風に言っていた気がするが、それを夫の裏切りに感じた莉子は激昂した。
娘の無念を晴らそうとしている自分を支えることも出来ない無能だと怒鳴りつけ、そのままになった。
莉子は、すっかりちらかり荒れ果ててしまった様子の自宅でひとり、娘の一番最近のアルバムを捲っていた。
クラスでのイジメだったのなら、入学式に撮った新入生の集合写真にも犯人は映っているはずではないか、そう気がついたのだ。
写真をアルバムにしまったときには、可愛い我が子以外の子供たちの姿などろくに見ていなかったが、こうなったらには、どいつが我が子の仇なのか確かめてやろうと思った。
遺書にはクラスメイトの誰かからいじめられたとしか書かれていなかったが、誰一人娘を助けてくれなかったのなら、クラスメイト全員が娘を殺したのというのと同じだ。
莉子は自分を燃え尽くさんばかりの憎悪に身を焦がしながら、入学式の写真を穴が開くほど見つめた。
「……え?」
その瞬間、莉子は固まった。
その写真には娘の他に一人、見知った顔が映っていたのだ。
見知った、けれどずっと忘れていた顔。
「どうして……」
そこには、自分が小学生の時の同級生である"加古川 より子"と言う少女とうり二つの顔があった。
母親である自分の同級生なのだから当然彼女はもう完全に大人であるはずだし、小学生であるはずがない。
普通に考えれば、この子供はより子の娘で、顔が母親にとても良く似ていたとかそんな話だろう。
しかし、その顔は完全により子本人にしか見えないし、彼女の娘である可能性は0だと言うことを何より莉子自身が知っていた。
「……だって、より子はもう死んでるのに……居るわけない……この世に、存在するわけがないのに……」
信じられないものを見た戸惑いと恐怖で莉子は体から血の気が引く感覚を覚える。
もう亡くなっているはずの同級生が、その当時の姿のまま、どうして娘の入学式の写真に写っているのか。
莉子は自分を納得させる理由を探すけれど、そんなものがあるわけもない。
それと同時に莉子は思い出す。
一生懸命声をかけながら自分の後を付いて来るより子を両手で突き飛ばし、膝をすりむいて泣くより子を見て笑ったこと。
どんくさい彼女が大嫌いで、他のクラスメイト達を扇動して、女子全員で無視したこと。
男子をけしかけてロッカーや下駄箱に虫やゴミを入れさせたこと。
体育用具の後片付けや掃除を押し付けた後、用具小屋に閉じ込めたこと。
それがとても楽しかったことを。
"別にイジメなんて大それたことをした訳ではない。からかっていただけ"
"より子が大げさなだけ"
"彼女が死んでしまったのだって、母親が片親だし、家庭に問題があったのが原因に違いないって、自分の親も言っていたし、自分たちのせいではない"
"いつも暗くて泣き虫だったあの子が消えて、クラスも明るくなるし、せいせいした"
そんなふうに莉子は、悪いことをしたと思ったことすらなかったし、それどころか彼女の死すら友人たちと笑いあった。
今ほどインターネットなど普及していなかった頃だから、学校自体も問題を隠蔽したがったこともあり、より子の件はほとんど騒ぎにもならず、その小さな町の中で……大人たちの中で握りつぶされたようだった。
莉子もクラスメイト達も、すぐに彼女の事など忘れてしまった。
初めからそんな子はいなかったとでもいうように、一人の少女の命と人生は踏みにじられたまま、人々の記憶から消えさっていった。
しかし、それが今、この瞬間に、唐突に莉子の記憶として蘇ったのだ。
その瞬間に頭を過るのは、復讐だとか呪いだとかそんな禍々しい言葉たち。
自殺したより子が今になって自分に復讐しに来たとでもいうのか?
冷静に考えればそんなことがあるわけがない。
たまたま、昔の知り合いと似た顔の子供が娘のクラスメイトに居ただけ、ただそれだけのことだ。
(……私はイジメなんてしていない。ちょっとからかっただけ。より子が大げさに受け止めてただけじゃない)
(それに…、あれから大人になって、私はたくさんの子供たちを正しく導くために教師になったんだし…)
幼い頃の小さな過ちなんて、誰にでもあることだろう。
たくさんの子供たちを自分は救っているのだから、過ちの償いだって果たせているだろう。
「私は悪くない……より子は関係ない……関係があるはずがない……」
そう自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟く自身の声が、静かな部屋にやけに響いて聞こえる。
気が付けば莉子は冷や汗で額がびっしょりになっていた。
誰かに見られているような、じっとりとした悪寒を感じる。
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