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大学生

第9話

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 「ほ、本当に平気なのか?」

 「いいから!隼人は正面だけを向いてて!前洗えないじゃん」

 俺は今、風呂に入っている。
 でも、ただの風呂ではない。
 三角巾で目を隠しているものの、六花と一緒に風呂に入るなんて思いにもよらないイベントだ。
 なぜ、こうなってしまったかというのは前回の話を読んでくれれば分かると思うが、それにしてもさっきから……

 「な、なぁ、さっきから当たってないか?」

 何かふわふわしたやわらかい二つの物体が俺の背中で潰れたりしている。
 もしかして……あれか?

 「ん?何が?」

 六花はなんのことか分かっておらず、前洗ってるんだから正面向いてっと言って、再び俺の体を洗い始めた。
 ちょっと正直、限界である。
 俺のヤンチャな部分が本当にヤンチャになって隠しきれるかどうか……。
 いや。
 今はそんなことを考えちゃダメだ。
 考えれば考えるほどヤンチャになってしまう。
 ここはひとまず……寝るか?

 「はい、下洗うから手を退いて」

 「え?!し、ししし下って…下?!」

 寝る暇もなかった。
 下って……つまり俺の下のことだよね?
 そこを六花が洗うだと?
 それはまずい……。
 非常にまずい……。
 だってヤンチャな部分が膨張してるんだよ?
 それを六花に見られたら……もう……お嫁にいけないッ!

 「早く手を退けてよ!」

 「や、やめろ!下は自分で洗うから……って、変なところ触るな!」

 俺は必死に抵抗した。
 六花は俺の手を払いのけようと必死だった。
 これって……アニメで見たことがある。
 この場合のオチって……もうあれだよね?

 「うわぁ!」

 「キャッ!」

 ああ。
 やっぱりこうなったか。
 俺は六花の上に覆いかぶさるような感じで倒れてしまった。
 一方、六花は俺の下敷きになる感じで倒れている。
 そして、何より……

 「あ……」

 揉み合いになっていたせいか、それとも倒れた衝撃なのか分からないが、目隠しの三角巾が解けてしまい、床に落ちた。
 目の前には全身濡れて倒れている六花がいる。
 ――これって……いわるゆラッキースケベってやつか?

 「あ、あああ…………キャァァァッ!」

 (バチンッ)

 六花の悲鳴とともに頬を平手打ちされる音が浴室に響いた。
 六花は涙目になりながら、俺を跳ねのけて自分の体を隠すように両手で抱いた。
 俺は俺であまりの平手打ちで目を白黒させながら、気がつけば気を失っていた。
 ああ。
 だから俺は嫌だって言ったのに。
 こういうことがあるかもしれないから拒否ったのに。
 なんともまぁ……。
 ――……この世界は理不尽すぎる!
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