上 下
104 / 120
大学生

第10話

しおりを挟む
 ある日の平日。
 俺は六花とともにキャンパス内を歩いていた。
 この大学は県内でも一番ではないかというほどバカ広いのでちょっとした散歩にちょうどいい。
 オープンカフェとかもあるので俺は六花に何が飲みたいか聞いたところ『何でもいいよ!』と、いうことだったのでとりあえず、一番人気のタピオカジュースを選んだ。
 お金を支払い、購入したタピオカジュースを六花に手渡し、一緒に同じものを飲みながら再びキャンパス内を歩く。
 どこからともなく、男たちの嫉妬の視線を感じながら、俺は六花に聞いた。

 「なぁ、そういえばサークルとか入らないのか?」

 入学して数ヶ月。
 俺はバイトが忙しいため、サークルに入りたくても入れない。
 でも、六花は違う。
 バイトもしてないし、基本講義も午前中だけ。午後からはサークル活動に参加できるはずだ。
 なのに、なぜか一向にサークルに入ろうともしない。
 別に強制というわけでもないし、ただ入りたいサークルがないだけかもしれない。
 仮に俺に何かしらの気を使っているのであれば……

 「うーん……入りたいサークルはあるんだけど……いい?」

 やっぱり俺に気を使っていた。
 そんなこと俺の許可なんて必要ないのに。

 「いいに決まってるだろ。で、何のサークルだ?」

 「魔術部っていうところ」

 「…………え?」

 一瞬俺の聞き間違いかと思ったが…違うらしい。
 まさか六花の口から出てきたサークル名が魔術部だとは……。
 正直、初めて聞いたんだけど。
 魔術部とかいう、いかにもというより名前的に絶対ヤバい部活が存在しているなんて……この大学どうなってんだ?

 「一応聞くけど……魔術って知ってるか?」

 「うーん……よく分かんないけど…あれでしょ?絵本とかで出てくる魔女が使うやつ!なんて言うか……もうパパパパーンってやるやつでしょ?」

 「あー………………うん」

 呆れた。
 本当に分かっていらっしゃらない六花ちゃん。
 最後の表現が何とも可愛らしい。
 ――精神年齢十歳いってるかな?

 「六花、これだけは言っとく。その魔術部とやらにだけは絶対に入るなよ?」

 すると、六花はキョトンと首を傾げる。

 「なんで?」

 「なんでもだ!とにかく入るなよ?それがお前のためにもなるんだから」

 六花は少し不満そうな表情を浮かべたものの、渋々頷いた。
 ――なんか俺……親みたいなこと言ってたなぁ。
 六花の将来がなんとなく不安になってきた。
 親の気持ちってこんな感じなんだなと、まだ子どももいないのに思ってしまう俺であった。
しおりを挟む

処理中です...