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異形の街
救われることはない
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「まったく……迷子探しはもうこりごりよ」
「ごめんね、クラリス。……でも、ちゃんと助けに来てくれて、ありがとう!」
二人はベンチに座り、笑顔を見せる。
とても、先ほどまで命懸けで逃げ続けていたとは思えないほどに、穏やかな時間だ。
「いきなり目の前からフッと消えた時は、流石に驚いたわ」
「私、そんな風に居なくなったの?」
「ええ。話してる途中で俯いたと思ったら、消えちゃった」
怪異らしき気配を感じ取ったと思った次の瞬間、陽炎のように揺らめく空間が出現し、ルナが飲み込まれた瞬間に消えてしまったとクラリスは説明する。
原因も分からず、街中を走り回ったが結局ルナは見つからず、オーギュストと様々な仮説をあげていたが、結局答えは出ないまま、オーギュストが再度捜索に向かった後、空間が再度出現。
一か八かで飛び込み、ルナを引きずり出したらしい。
「でも、なんで私は連れて行かれちゃったんだろう……」
「思い当たることは無いの?」
クラリスの問いかけに、ルナは記憶を頼りに答えようと考える。
そして、思い当たる一つのことを思い出した。
「あのモヤモヤ……ずっと何か喋ってたの。アラミネ、アウターミナ……アラ、ルーパ……だったかな」
それを聞いた瞬間、クラリスの表情が強張った。
そして何かを察したように、ため息をついた。
「Älä mene、Auta minua、Älä luopua……ね」
「な、何か分かったの?知ってるの?」
彼女の変わり様に、ルナは驚きながらも疑問を口にする。
「……なんとなく、だけど。でもこれは、あなたは知らない方がいいわ」
「え……どうして?」
「余計な痛みを負う必要はないってことよ。知らない方がいいことは世の中にはある。怪異になっても、それは変わらないから」
しばらくの沈黙が続き、突然声をあげてルナが立ち上がる。
「ヘラジカちゃん……あっちの世界に置いてきた……」
がっくりと肩を落とし、しょんぼりと座り直すルナの頭を、クラリスは優しく撫でる。
そこへオーギュストがふらりと現れ、微笑みと共に声をかけた。
「お帰りなさい、ルナ様。ご無事なようで何よりです。ところで、あなたの失せ物はこちらですか?」
声に気付き、はっと見上げたルナは悲鳴にも似た声をあげてまた立ち上がる。
オーギュストが手にしていたのは、紛れもなく先ほどまで抱いていたぬいぐるみだ。
「ど、ど、どこ、に……?いや、あの、その前に、助けようと走り回ってくれててあ、えと、嬉しくて……本当に、ありがとうございます……?」
「ルナ様は、動揺が言葉に現れやすいタイプですか。ちなみにこちら、街道脇に落ちていたのをどなたかが拾ってくださったようです。もう、落とされませんように」
ルナは大喜びして、受け取ったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
置いていってごめんね、などと声をかけながら。
複雑な表情を浮かべたクラリスは立ち上がり、囁くような声でオーギュストに声をかけた。
まるで、ルナには聞かれまいとするように。
「よくスラスラと嘘が言えるものね。あっちで落とした物がこっちで見つかるわけがないのに」
「この街の行方不明者の情報や、今回の一件と似通った怪異による事件からなんとか特定に……。実はちょうど、ルナ様とクラリス様が脱出するところも、あちらの世界で見ておりました。今の私は、行くも帰るも自由でございます」
クラリスは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「残酷なことをするわね、あなたも」
「……すでに彼らは、羨望ゆえに人々を引きずり込む、一個の現象になり果てました。我々にはもう、どうすることもできませんし、どうする必要もない。それこそ、憐れむ必要も、ね……」
三人は街を後にする。
平穏なようで、常に怪異の脅威にさらされていると言っても過言ではない、美しくも残酷な街を。
今後も、この街では行方不明者が現れるのだろう。
悪評によって街が寂れない程度に、世界的に見ても不自然ではない程度に。
物体は誰も居なくなった空間を前に、その動きを止める。
もう少しのところで逃げ出してしまった初めての生還者、だがその物体は悔しいなどという感情は持たない。
元の漆黒に染まり、耳を澄まさねば聞こえないであろう、か細い無数の声を発しながら、物体は街を彷徨い続ける。
誰かと繋がっている誰か、それを心から幸福と感じている誰かをこれからも無差別に引き込み、かつての自分達と同じ絶望と共に殺していくのだろう。
かつてはあった感情に思いを馳せることもなく、その残滓を口ずさみながら、永遠に。
「Älä mene……Auta minua……Älä……luopua……」
その声は、誰もいない町で、誰にも届かずそこにあり続ける。
「ごめんね、クラリス。……でも、ちゃんと助けに来てくれて、ありがとう!」
二人はベンチに座り、笑顔を見せる。
とても、先ほどまで命懸けで逃げ続けていたとは思えないほどに、穏やかな時間だ。
「いきなり目の前からフッと消えた時は、流石に驚いたわ」
「私、そんな風に居なくなったの?」
「ええ。話してる途中で俯いたと思ったら、消えちゃった」
怪異らしき気配を感じ取ったと思った次の瞬間、陽炎のように揺らめく空間が出現し、ルナが飲み込まれた瞬間に消えてしまったとクラリスは説明する。
原因も分からず、街中を走り回ったが結局ルナは見つからず、オーギュストと様々な仮説をあげていたが、結局答えは出ないまま、オーギュストが再度捜索に向かった後、空間が再度出現。
一か八かで飛び込み、ルナを引きずり出したらしい。
「でも、なんで私は連れて行かれちゃったんだろう……」
「思い当たることは無いの?」
クラリスの問いかけに、ルナは記憶を頼りに答えようと考える。
そして、思い当たる一つのことを思い出した。
「あのモヤモヤ……ずっと何か喋ってたの。アラミネ、アウターミナ……アラ、ルーパ……だったかな」
それを聞いた瞬間、クラリスの表情が強張った。
そして何かを察したように、ため息をついた。
「Älä mene、Auta minua、Älä luopua……ね」
「な、何か分かったの?知ってるの?」
彼女の変わり様に、ルナは驚きながらも疑問を口にする。
「……なんとなく、だけど。でもこれは、あなたは知らない方がいいわ」
「え……どうして?」
「余計な痛みを負う必要はないってことよ。知らない方がいいことは世の中にはある。怪異になっても、それは変わらないから」
しばらくの沈黙が続き、突然声をあげてルナが立ち上がる。
「ヘラジカちゃん……あっちの世界に置いてきた……」
がっくりと肩を落とし、しょんぼりと座り直すルナの頭を、クラリスは優しく撫でる。
そこへオーギュストがふらりと現れ、微笑みと共に声をかけた。
「お帰りなさい、ルナ様。ご無事なようで何よりです。ところで、あなたの失せ物はこちらですか?」
声に気付き、はっと見上げたルナは悲鳴にも似た声をあげてまた立ち上がる。
オーギュストが手にしていたのは、紛れもなく先ほどまで抱いていたぬいぐるみだ。
「ど、ど、どこ、に……?いや、あの、その前に、助けようと走り回ってくれててあ、えと、嬉しくて……本当に、ありがとうございます……?」
「ルナ様は、動揺が言葉に現れやすいタイプですか。ちなみにこちら、街道脇に落ちていたのをどなたかが拾ってくださったようです。もう、落とされませんように」
ルナは大喜びして、受け取ったぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
置いていってごめんね、などと声をかけながら。
複雑な表情を浮かべたクラリスは立ち上がり、囁くような声でオーギュストに声をかけた。
まるで、ルナには聞かれまいとするように。
「よくスラスラと嘘が言えるものね。あっちで落とした物がこっちで見つかるわけがないのに」
「この街の行方不明者の情報や、今回の一件と似通った怪異による事件からなんとか特定に……。実はちょうど、ルナ様とクラリス様が脱出するところも、あちらの世界で見ておりました。今の私は、行くも帰るも自由でございます」
クラリスは苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「残酷なことをするわね、あなたも」
「……すでに彼らは、羨望ゆえに人々を引きずり込む、一個の現象になり果てました。我々にはもう、どうすることもできませんし、どうする必要もない。それこそ、憐れむ必要も、ね……」
三人は街を後にする。
平穏なようで、常に怪異の脅威にさらされていると言っても過言ではない、美しくも残酷な街を。
今後も、この街では行方不明者が現れるのだろう。
悪評によって街が寂れない程度に、世界的に見ても不自然ではない程度に。
物体は誰も居なくなった空間を前に、その動きを止める。
もう少しのところで逃げ出してしまった初めての生還者、だがその物体は悔しいなどという感情は持たない。
元の漆黒に染まり、耳を澄まさねば聞こえないであろう、か細い無数の声を発しながら、物体は街を彷徨い続ける。
誰かと繋がっている誰か、それを心から幸福と感じている誰かをこれからも無差別に引き込み、かつての自分達と同じ絶望と共に殺していくのだろう。
かつてはあった感情に思いを馳せることもなく、その残滓を口ずさみながら、永遠に。
「Älä mene……Auta minua……Älä……luopua……」
その声は、誰もいない町で、誰にも届かずそこにあり続ける。
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