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遥か、遥か先の未来にて
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「彼女の様子はどうだ?」
「今日も祈りを捧げています、博士。食事や休養も普段通りです」
最新の科学技術を結集し、建設された研究施設。
そこには祈りを捧げ続ける、敬虔な聖女が一人居た。
「黒い方はどうだ?見失ったらしいが、また見付かったか?」
「えぇ、見付かりましたよ。……しかし、本当に世界を滅ぼしかねない存在なのですか?」
「あぁ、間違いない。いくらか、現代文明に染まってはいるがね」
研究員の手渡した写真には、祈りを捧げ続ける聖女と瓜二つの女が写っていた。
バーで酒を飲んでいたり、カジノでオケラにされていたり、チンピラと喧嘩をしていたり、公園で昼寝をしている姿。
スマホにイヤホンを繋いで何かを聞いている姿や、ビルを見上げながら缶コーヒーを飲んでいる姿もある。
染まっているというより、現代人そのものであった。
「……この警護に、意味はあるのでしょうか」
部屋の中で祈る彼女を見ながら、研究員は問う。
「さぁな。だが、いずれはどちらかが気付き、ここから出るか、来るかのどちらかになる。そしてその先は……」
「世界を滅ぼしかねない大闘争……ですか」
二人の男はインスタントコーヒーを口にしながら語らっている。
「あの二人は、少なくとも二度、世界の再構築を経験している。モンスターが山ほどいて、魔法使いがいて、魔王も倒したと……」
「まるでゲームの世界ですね」
「今の我々にはオカルトですらない、ただのファンタジー。だが彼女達は確かにその世界を生きていたのだ。これまでのインタビューや実験記録が、それを偽りなきものと証明している」
この世界は、あの時の世界とは何もかもが違っている。
魔法などという存在はなく、モンスターも精々野生の猛獣だろう。
世界の再構築、恐らく産まれ育ったあの世界は既に滅び、その次の世界にも彼女達がいたのだ。
そして、今もいる。
「神話や世界史で語られる大災害は、恐らくあの二人の遭遇が招いている。だから我々は、それを可能な限り先延ばしにしなければならない」
世界が変わろうと、二人の記憶は変わらない。
記憶力だけなら普通の人間と大差ないらしく、死と蘇生を繰り返した数千年分の記憶全てを保持しているわけではない。
それでも、唯一殺し損なった相手がまだ生きている、その感覚はあるらしい。
少なくとも、放浪中の黒き聖女には。
「……ところで、彼女達はどうしてこうなったのだと思う?」
「それは、少なくとも二つ前の世界で倒された魔王……とかいう存在の影響では?」
彼らは、彼女達を研究し続ける。
恐らく次の世界でも誰かが研究するのだろう。
「こうなったのは恐らくそうだ。世界の因果をねじ曲げられ、死のうが滅ぼうが他に人類がいれば甦る。……だが、二つに別たれたのはなぜだろう」
「それは、私にも分かりません。博士は、ヒントのようなものを持っているのですか?」
博士と呼ばれる男は、一呼吸おいて語り始めた。
「仮に白と黒としよう。白の言い分では、黒は大本の彼女の負の感情に吸い寄せられた悪魔がそれを取り込み、同じような姿に化け、悪逆の限りを尽くそうとしている。……そうだったね?」
「ええ、そのように記録されてます」
「だが、黒の方に人類への恨みなんて、もうほとんど残っていない。魔法とやらを使って大暴れなんていつでも出来るのに、この間はカラオケで喉を潰していたんだぞ?恨みの相手は、白い自分ただ一人だ」
若い研究員のメモを取るスピードに合わせながら、彼は語る。
「私がもし黒だったら、そりゃあ恨む。悪魔なんて関係ない、人類全てが憎く思えるだろう。……分かるだろ?世界を救ったと思ったらその世界に、残酷に殺されるんだから。……どちらかと言えば、白の方がよっぽど異常に思えるよ、私には」
黒き聖女を庇護下におこうとする試みは、世界を巻き込んだ大戦前に試みられ、多大な被害を出して失敗した。
だが、白き聖女は不自然に思えるほど協力的だった、そう彼は続けた。
「私は、時々思う。黒の方が本物で、白の方は聖女のフリをした別のなにかなんじゃないのか……とね」
「考えすぎですよ、博士」
「……フフ、この施設で、何かを考えすぎるということはないのだよ。考えても考えても、我々には足りないんだよ」
本当にその身に悪魔を宿すのはどちらなのか。
現代はまだ、それを解き明かすことが出来ずにいる。
「私は祈ります、遥かなる未来から。この世界をあの世界に戻し、その時こそ……」
白き聖女の浮かべた笑みに誰もが気付くことなく、世界は時を刻んでいく。
「今日も祈りを捧げています、博士。食事や休養も普段通りです」
最新の科学技術を結集し、建設された研究施設。
そこには祈りを捧げ続ける、敬虔な聖女が一人居た。
「黒い方はどうだ?見失ったらしいが、また見付かったか?」
「えぇ、見付かりましたよ。……しかし、本当に世界を滅ぼしかねない存在なのですか?」
「あぁ、間違いない。いくらか、現代文明に染まってはいるがね」
研究員の手渡した写真には、祈りを捧げ続ける聖女と瓜二つの女が写っていた。
バーで酒を飲んでいたり、カジノでオケラにされていたり、チンピラと喧嘩をしていたり、公園で昼寝をしている姿。
スマホにイヤホンを繋いで何かを聞いている姿や、ビルを見上げながら缶コーヒーを飲んでいる姿もある。
染まっているというより、現代人そのものであった。
「……この警護に、意味はあるのでしょうか」
部屋の中で祈る彼女を見ながら、研究員は問う。
「さぁな。だが、いずれはどちらかが気付き、ここから出るか、来るかのどちらかになる。そしてその先は……」
「世界を滅ぼしかねない大闘争……ですか」
二人の男はインスタントコーヒーを口にしながら語らっている。
「あの二人は、少なくとも二度、世界の再構築を経験している。モンスターが山ほどいて、魔法使いがいて、魔王も倒したと……」
「まるでゲームの世界ですね」
「今の我々にはオカルトですらない、ただのファンタジー。だが彼女達は確かにその世界を生きていたのだ。これまでのインタビューや実験記録が、それを偽りなきものと証明している」
この世界は、あの時の世界とは何もかもが違っている。
魔法などという存在はなく、モンスターも精々野生の猛獣だろう。
世界の再構築、恐らく産まれ育ったあの世界は既に滅び、その次の世界にも彼女達がいたのだ。
そして、今もいる。
「神話や世界史で語られる大災害は、恐らくあの二人の遭遇が招いている。だから我々は、それを可能な限り先延ばしにしなければならない」
世界が変わろうと、二人の記憶は変わらない。
記憶力だけなら普通の人間と大差ないらしく、死と蘇生を繰り返した数千年分の記憶全てを保持しているわけではない。
それでも、唯一殺し損なった相手がまだ生きている、その感覚はあるらしい。
少なくとも、放浪中の黒き聖女には。
「……ところで、彼女達はどうしてこうなったのだと思う?」
「それは、少なくとも二つ前の世界で倒された魔王……とかいう存在の影響では?」
彼らは、彼女達を研究し続ける。
恐らく次の世界でも誰かが研究するのだろう。
「こうなったのは恐らくそうだ。世界の因果をねじ曲げられ、死のうが滅ぼうが他に人類がいれば甦る。……だが、二つに別たれたのはなぜだろう」
「それは、私にも分かりません。博士は、ヒントのようなものを持っているのですか?」
博士と呼ばれる男は、一呼吸おいて語り始めた。
「仮に白と黒としよう。白の言い分では、黒は大本の彼女の負の感情に吸い寄せられた悪魔がそれを取り込み、同じような姿に化け、悪逆の限りを尽くそうとしている。……そうだったね?」
「ええ、そのように記録されてます」
「だが、黒の方に人類への恨みなんて、もうほとんど残っていない。魔法とやらを使って大暴れなんていつでも出来るのに、この間はカラオケで喉を潰していたんだぞ?恨みの相手は、白い自分ただ一人だ」
若い研究員のメモを取るスピードに合わせながら、彼は語る。
「私がもし黒だったら、そりゃあ恨む。悪魔なんて関係ない、人類全てが憎く思えるだろう。……分かるだろ?世界を救ったと思ったらその世界に、残酷に殺されるんだから。……どちらかと言えば、白の方がよっぽど異常に思えるよ、私には」
黒き聖女を庇護下におこうとする試みは、世界を巻き込んだ大戦前に試みられ、多大な被害を出して失敗した。
だが、白き聖女は不自然に思えるほど協力的だった、そう彼は続けた。
「私は、時々思う。黒の方が本物で、白の方は聖女のフリをした別のなにかなんじゃないのか……とね」
「考えすぎですよ、博士」
「……フフ、この施設で、何かを考えすぎるということはないのだよ。考えても考えても、我々には足りないんだよ」
本当にその身に悪魔を宿すのはどちらなのか。
現代はまだ、それを解き明かすことが出来ずにいる。
「私は祈ります、遥かなる未来から。この世界をあの世界に戻し、その時こそ……」
白き聖女の浮かべた笑みに誰もが気付くことなく、世界は時を刻んでいく。
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