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第六章 出張編
出張編24話 背中で感じるロケットおっぱい
しおりを挟むボルカーノ・ピザを出たオレとマリカさんは、店の前の駐車場に止めてあるバイクへ向かう。
シオンとゴタついたせいでろくにピザは食えなかった、店に残った二人が片付けるだろうけど。
マリカさんがバイクに跨がり、オレに後部座席に乗るよう促す。
「乗んな、海岸沿いをちょっと走ろう。」
お言葉に甘えて遠慮なく後ろに座り、マリカさんの腰に手を回す。
「いくよ!しっかりつかまってな!」
前輪が跳ね上がるような急発進、慌ててしっかり腰に回した手に力を込める。
高速走行する真紅のバイクは10分足らずで海岸沿いのハイウェイに到着する。
マリカさんはなにやらせても一流だ、リガーとしても然り。
海岸線に沈んでいく夕日が綺麗だな。マリカさんと一緒だから余計にそう思える。
しばらくハイウェイを疾走した後、マリカさんはサービスエリアにバイクを乗り入れて、おタバコ休憩を取った。
「マリカさん、展望台がありますよ。登ってみませんか?」
「よしなよ、ガキじゃないんだから。それともバカと煙はなんとやらってヤツかい?」
「いいでしょ、たまには。ガーデンに帰ったら海なんて拝めないんだし。」
「仕方ないねえ。」
マリカさんは煙草を携帯灰皿に捨てると、オレの手を取り展望台に向かう。
よしよし、ちょっとデートらしくなってきましたな。
展望台の天辺からはリグリットの湾内を一望出来た。
夕日に向かってバカでかいタンカーが出航していくのが見える。
潮風が頬にあたって気持ちいい。久しぶりだもんな、潮風って。
「カナタ、小隊長になる件だが、おまえはいいんだな?」
デートの最中にお仕事の話って野暮だと思いますよ。
「将校カリキュラムを受けろってコトは、そういうコトなんだってリリスが言ってました。そうなんでしょ?」
「そうだ。おまえは狡っ辛くて生き汚い。そういうヤツは部下を生かすのも上手いはずだ。」
褒められてんだか貶されてんだか。期待されてるっぽくはあるんだけど。
「期待されたのなら応えるまでです。退路がないなら前に出る。生き残る為に逃げるコトはあるでしょうが、もう人生からは逃げないって決めたんで。」
「おまえはちょっと変わったな。昨夜、ミコト姫と会ったらしいが、その影響か?」
「………かもしれません。」
あ、あれ? マリカさん、なんで不機嫌そうな顔してんの?
「いろいろプレゼントされたからって、いい気になってんじゃないよ。暖かいお言葉とやらで励まされもしたんだろうが、照京のお姫様は戦場で助けちゃくれない。………おまえの牙を研いでやるのは、あくまでアタイだ。忘れんなよ?」
「ウィ、マム。念を押されるまでもありません。」
「わかってるなら良し。もう潮風は満喫しただろ。ヒンクリー准将との会食がある。そろそろいくか。」
「准将と会食!? 聞いてませんよ!」
「だから今言った。問題あるか?」
「………ありません。」
展望台から降りて駐車してあるバイクの傍までくると、マリカさんはオレにキーを投げてよこした。
「なんでキーを?」
マリカさんは後部座席に座りながら、
「運転しろって事だよ。出来るんだろ?」
「出来ますけどいいんですか? マリカさんのバイクでしょ?」
「アタイんじゃない、おまえのだ。」
「はい? バイクを買った覚えはないんですけど?」
「イスカからのプレゼントだ。ヘッドハンティングの報酬だとさ。」
そういうコトか。司令って気前がよくて、気遣いが細やかだよなぁ。あんなオレ様な性格なのに。
「そういうコトなら有難く拝領しますか。フローラ号と命名しよう。」
「………やると思ったが、やっぱり女の名前をつけんだねえ。」
別にいいでしょ。オンロードバイクを手に入れたら、フローラって命名するって決めてたんですぅ。
しかし異世界に転移するって分かってりゃ、涙を飲んでどっちか選んでクリアしときゃ良かったな。
シナリオライターも俺みたいな優柔不断の為に、両手に花ルートを用意しといてくれよなぁ。
ロケットおっぱいの感触を背中で堪能しながら、ヒンクリー准将と待ち合わせのシーフードレストランまでバイクを走らせる。
ナビがあるんで道に迷うコトもない。眼球に直接、進路誘導が出るってホント便利だな。
ヒンクリー准将の選んだ店「パイレーツネスト」は実に准将らしい店だった。
中は軍人ばっかり、どうやらヒンクリー師団の貸切みたいだな。
ヒンクリー准将の部下達は、オレ達を口笛やクラッカーで出迎えてくれる。
「ヒュウ♪アスラ部隊のゴロツキさんがお出ましだぜ!」
「こないだはあんがとよ。おかげで命拾いしたぜ。」
「ヘイ、緋眼の姉さん。オレと一晩付き合わねえかい?」
は? マリカさんに一晩付き合えだとぅ? 狼眼で睨んでくれようか。
そんな感じで、あっという間にオレとマリカさんはヒンクリー准将の部下達に包囲されてしまった。
准将の部下達ってアスラ部隊に近いメンタリティだなぁ。
「静かにせんか!お客が席につけねえだろうが!とっとと散れ散れ。」
奥のテーブルで高級将校達とラムを飲んでいた准将が声を張り上げる。
包囲網が解かれたので、オレ達はヒンクリー准将のいるテーブルまで歩み寄る。
「お招きに甘えて参上したよ、准将。」
相手が准将だろうと通常運転、マリカさんはマリカさんだ。
ヒンクリー准将はラムを瓶のままグイッと飲み、テーブルの上の真新しい瓶をマリカさんに渡す。
マリカさんはオレに目配せしてから、受け取った瓶を宙に放り投げた。
やれやれ、抜刀術である四の太刀、咬龍はまだ練習中なんだぜ?
オレは神経を集中して空中で回る瓶に狙いを定め、宝刀斬舞を抜き放つ!
よし、うまくいった。飲み口をうまく切断出来たぜ。
マリカさんはラムの瓶をキャッチして切断面を一瞥し、満足そうに口をつけた。
「カナタ、抜刀術もまあまあ様になってきたな。」
「日々これ進歩してますので。」
「いい腕だ。マリカの部下の剣狼、だったな。」
クルミを片手で潰してツマミにしているヒンクリー准将からもお褒めの言葉を頂く。
「天掛カナタと申します。お見知りおきを。」
「おう、ここは俺が贔屓にしてる店だ。貸切にしてあるからゆっくりくつろいでくれって言いたいところなんだが、ちょっと内密な話があってな。奥の部屋で話そう。」
そう言ってヒンクリー准将が店の奥のドアへ向かったので後に続く。
海賊酒場な店内と違って、奥の部屋は落ち着いたしつらえだ。
壁には海の地図に舵輪、船長室を模してあるのかな?
こぢんまりとしたテーブルの上にはスモークサーモンにキャビアといった冷製のツマミと酒類各種、おもてなしの準備は万端なようだ。
「ま、座ってくれ。ワインの銘柄は趣味にあってるか?」
「及第点だね。ありがたく頂くが。」
マリカさんは辛口の採点をしてから、辛口(フルボディ)のワインを手早くワインオープナーで開け、澱が立たないようにデキャンタに移す。
「次は合格点を貰えるように努力しよう。剣狼、ウォッカを開けてくれ。キャビアにはウォッカがあう。」
同感です、キャビアにはウォッカですな。
オレはウォッカを准将のグラスに注ぎ、自分のグラスにもつぐ。
「では乾杯といこう。我らと同盟軍に栄光あれ。」
「栄光あれ。」 「栄光があるといいねえ。」
室内にグラスを合わせる音が響く。
「で、准将、話ってのは?」
「先に礼を言わせてくれ。負け戦をひっくり返せたのは貴官らのおかげだ。部下の仇は討てたし、面目も保てた。借りが出来たな。」
「礼はイスカに言っとくれ。アタイらは命令に従っただけさ。」
「話と言うのはその御堂司令の事だ。彼女は何をしようとしている?」
「権力を握ろうとしている。アタイらはその駒。」
「そして俺も駒に欲しがっている、か?」
「だと思うね。じゃなきゃゴロツキ総動員で肩入れしたりはしないだろ。」
ヒンクリー准将が煙草を取り出したので、火を点けて差し上げる。
周りに愛煙家が多いので純銀のオイルライターを買っておいたのだ。
「気がきくな、若いの。気にせず吸って構わんぞ。」
「オレは吸わないんです。これは提灯持ち用の小道具でして。」
呆れ顔のマリカさんが、
「カナタ、おまえは本当にせせこましいというか、小者臭が漂うというか………」
ほっといて下さい。点数稼ぎのチャンスは逃さないのがオレの処世術です。
「話を戻すが、御堂司令は権力を握ってどうするつもりなんだ?」
「世界を変えるんだとさ。」
「世界を変えるとは大きく出たな。御堂司令は世界をどう変えるつもりだ?」
「さぁ? アタイもそこまでは知らないねえ。けどイスカはアスラ元帥の娘だ。元帥の描いた理想が心の内にあるのは間違いないだろうさ。イスカの創る世界がどうなるにせよ、機構軍や統合作戦本部のクソッタレ共が牛耳る現状よりはマシになるだろうと思って協力してる。イスカとはガキの頃からの付き合いだしね。」
ガキの頃からの付き合いのマリカさんでも腹の底が読めないのが、司令の怖いトコだよなぁ。
アスラ元帥の目指した理想を実現させたいって想いは伝わってくるんだけど、司令の場合は手段を選びそうにない。
司令はあくどい手が大好きだしな。
「確かにな、どう変えても今以上に悪くはならんだろうよ。今まで一匹狼を気取ってきたが、俺も年貢の納め時、か。………御堂司令に乗ろう、そう伝えてくれ。」
紫煙と決意の言葉をヒンクリー准将は吐き出した。
よし、司令の絵図通りにコトが運んだ。ヒンクリー准将は叩き上げの武闘派、頼りに出来そうだ。
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