酒に呑まれた一夜のあとで 〜騎士たちの日常・桜の季節〜

出 万璃玲

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第1話

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 酒は飲んでも飲まれるな、とはよく言ったものだ。特に、好いた相手と飲むときは。
 ……いや、好いた相手だったからよかったと言うべきか。これがもし、どうとも思っていない相手とだったらと考えると、罪悪感とおのれの無節操さにゾッとするところである。

 朝目が覚めて状況を把握したとき、俺は自分自身を殴りたくなった。第二騎士団の宿舎、自分の部屋のベッド、ここまでは普段どおり。違っていたのは、隣で同僚のヴァイオラがすやすやと眠っていたこと。それも、あられもない姿で。
 昨夜、一緒に酒を飲んでいたのは覚えている。楽しい時間だったはずだ。騎士として規律正しい生活を送る中での、たまの休日。同僚との気兼ねない酒席。場が盛り上がって、それで、つまり――そういうことだろう。

 ずっと密かに想いを寄せてきたヴァイオラ。彼女が相手だったからと言って、「よかった」ということにはならない。物事には順序というものがある。大事な相手ならなおさら。しかも詳細は記憶にない。一体何をやっているんだ……と、重い頭を抱えて愕然としたあと、しかし俺は腹をくくった。
 言うんだ、「責任を取らせてください」と。順番をたがえてしまったことについては申し訳もない、だけど俺はずっと君のことが――

「ラルフ、すまない。昨夜のことは、なかったことにしてほしい」
「…………へ?」

 けれどもいつの間にか目を覚ましていたヴァイオラに、俺の決心はあっさりと打ち砕かれた。


   * * *


 事の発端ほったんは、王女殿下が急に言い出した「働き方改革」だ。

 突然だが、我が国の騎士たちは皆、勤勉である。長らく平和が続いている現代の世にあっても、王家に忠誠を尽くし、主君と国民の安全のために働き、日々の鍛練を惜しまない。

 そんな中、王女殿下が近衞騎士の一人と結婚することになった。大変喜ばしいことだが、ひとつ問題が発生する。王女殿下のお相手の騎士も御多分にれず勤勉で、新婚旅行のために長期間も職務を離れるのは考えられない、と言ったとかなんとか。
 それで二人は喧嘩した――といっても微笑ましいものだろうが――挙げ句、王女殿下が言い放った。
「そもそもあなたたちは皆働きすぎなのです。たまには仕事を忘れ、家族や友人、恋人と過ごす時間を大切にするべきですわ!」

 そのとばっちり(?)で、我々騎士団員も、交代で一週間の休暇を取ることになった。「休暇中は、家族・友人・恋人等、各々おのおのの大切な相手と一緒に、食事や酒を楽しむ機会を設けること」というお達し付きで。


「うーん……、誰かと食事か……」
 王女殿下の通達に関して上官から話があったあと、隣でヴァイオラが小さくうなっていた。

 惚れた相手についてこう言うのもなんだが、彼女には友人らしい友人がいない。真面目な騎士たちの中でもずば抜けて真面目で、暇さえあれば剣ばかり振っているから。そもそも女性騎士は少なく、近くに似た立場の者がいれば気が合っただろうが、第二騎士団所属の女性は現在彼女だけ。
 男性陣はというと、簡単に言えば少々引いている。そこらの男性より強い彼女を恐れる者も多い。見るからに屈強で筋骨隆々、とかではまったくないのだが。
 剣を握ったヴァイオラは、瞳がすっと据わり、静かな威圧感を放つ。腕前は相当なもので、細身の体のどこからそんなに力強い斬撃ざんげきが繰り出されるのかと目を見張るほど。

 つまり、ヴァイオラは「剣術馬鹿」だ。聞くところによると、幼少期は言葉を発するより早く、そのへんにあった木刀を振り回して遊んでいたとか。そのへんに木刀がある家ってなんなんだという話だが、彼女の父は第一騎士団の要職に携わる、さらなる脳筋なのだから仕方ない。

 というわけで、鍛練と節制生活に明け暮れる彼女には、気軽に食事をするような友人はいなかった。
 チャンスだ、と思った。普段は彼女の生活を邪魔しないよう気を遣っているが、王女殿下の通達が名目であれば、誘いに乗ってくれるだろうと。

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