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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
【愉楽天夢】
しおりを挟むリディシア城のあらゆる場所で死闘が繰り広げられていた。そして、その各々の死闘は次々と終幕へと向かっていく。
城内にあるとある廊下。いや、今の状態を廊下と言っていいのだろうか。床のほとんどに穴が開き、窓や壁は全壊し、夕陽が三人の男達を照らす。
「行くよ、アグラ」
『ちっ。命令するな、小僧』
賢者リンゲルと剣竜アグラスド・ヴェインは、とある大魔法を構築していく。ただし、戦いながら。本来であれば、大魔法を構築する際は、そちらへと全神経を集中させなければならない。しかし、リンゲルとアグラスド・ヴェインを人間の基準で測る行為は彼らに失礼だ。なぜなら、
片や、かつて人でありながらも人を超越した賢者。
片や、神に仕え、神の次に力を持つ神使徒。
その二人にとって、人など劣等種と同じだ。だが、今回、彼らが相手しているのは人間という種族をやめ、【禁忌十神】を信仰する【禁忌者】の一人、【禁忌四呪】四位【虚空創士】のアクト。
「お前らが、何を仕掛ける気でいるのか分かってるぜ。大魔法は俺の様に不死の肉体を持つ者に使用する対不死者殲滅大魔法【聖殺】だろ? 数千年以上前に開発されたっつう、試作魔法【聖撃】の完成系。確かにこれなら俺みたいな不死者には絶対的な力を誇る。ただし、発動できたらの問題だ」
アクトの言う事は正しい。リンゲルとアグラスド・ヴェインが構築している大魔法は【聖殺】と呼ばれている。その大魔法は、かつてリディシア国と敵対していた不死国【夕堕】の兵団だけでなく国諸共を破壊し尽くしたという程の威力を有した秘匿魔法の一つ。ただし、この魔法には大きな代償が伴う。
「それが、肉体の崩壊。 お前ら2人のどちらかの肉体を犠牲にすることでその魔法は完成する。まぁ、噂によれば【夕堕】との戦争の際は、なんの関係もない女子供を生贄にしたって聞いたが、今回も同じようにするか? 賢者様と神使徒さんよ」
煽るようにアクトは語る。その言葉に返せる者はいない。彼が言っているのは本当の事であり、嘘ではない。数千年前に使用した【聖殺】は女子供の生贄のおかげで発動した。ただその真実はかつての王により闇に葬られた。この事を知っている者は神使徒と賢者、そして数千年前の王様のみ。だから、アクトがその真実を知っていることにリンゲルは疑問を抱いた。
「さぁね。もし、その噂が本当だとして、君は誰から聞いたのかな?」
探りを入れるように尋ねる。
「はァ? 教えるわけないだろ。カマかけようたって無駄。それに--ここで死ぬあんたらに関係ないことだろ」
アクトはそれ以降、会話は無駄だと言わんばかりに、距離を置き、魔法を発動する。発動までの時間はわずか0.5秒。あまりにも手馴れすぎる魔法陣の展開からの発動。それは数千年を生きる賢者と神使徒にとっても簡単に脅威と化す。
「位置固定。【滅】」
瞬時に透明な壁がリンゲルとアグラスド・ヴェインの全体を囲うように出現し固定される。そして、【滅】の一言と共に透明な立方体が一瞬にして消滅した。それはこの世から対象物を消し去る魔法。
「はっ。呆気ない最期だったな」
アクトはそう吐き捨てる。彼の視界に広がるのは全壊した壁と穴だらけの廊下。そこに、リンゲルとアグラスド・ヴェインの姿はない。死んだ。誰もがそう思った。アクトもそう思っていた。いや、思い込まされていた。
しかし、現実は違った。アクトがその場を立ち去る瞬間、鏡が割れる様な音がした。そして次の瞬間、
「やぁ、【愉楽天夢】の中はどんな気分だったかな? 」
消滅した筈のリンゲルとアグラスド・ヴェインが何事も無かったかのようにアクトの前に立っていた。
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