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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

キュートな聖霊--その名は!

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肉体が焼かれる感覚。熱いという認識を一瞬にして塗り潰し、痛覚という大事な感覚を狂わせる。本来であれば皮膚が爛れるだけでなく全身が塵と化す威力を持つ炎。ただし、人間をやめ化け物へと変貌したファラを塵にすることは出来なかった。

【へぇ、なかなか頑丈な肉体をしているみたいだね。でも、それだけ燃えてしまえば生命活動も停止でしょう】

エイタの中に宿る青年は血に塗れたリュエルを抱き抱えて、炎により燃え続けるファラにそう声をかける。勿論、返事なんて帰ってくるわけがな--

「おいおい。なに勝った気でいんだよ? まだ前戯しかやってねえだろ? 本番はここからだってんのによおお!!」

【はぁ…。さっきも言ったけど時間が無いんだ。悪いけど、そのうるさい口を閉じてくれないかな?】

その一言ともに、背後から襲いかかるファラの顎を下から貫くように槍が射出され、物の見事に顎だけでなく脳までをも貫いた。その一撃をお見舞されたファラはダランと身体から力が抜け、目から生気が消えた。完全なる死。余りにも呆気のない死だった。

【さて、リュエルを治療してあげたい所だけど時間みたいだ】

エイタの中に宿る青年は悲しげな表情で呟き、リュエルを優しく地面に横たわらせる。そしてそれと共に、エイタの身体が淡い光に包まれ、無数の光の粒子が空へと飛んでいく。

【この身体を傷つけてごめんね、亜久津 瑛太君。僕は櫻木さくらぎ雪兎ゆきと。で、本当は君の肉体が僕らに適応してから借りるつもりだったけど、どうやら昔から仲間の事になると我を忘れることが多くてね。けど、安心してくれていい、彼によって受けた傷は僕が治しておくから。それじゃ、リュエルの事を、この世界の事を頼んだよ】

それを最後に、エイタの身体から溢れ出ていた無数の光の粒子が完全に消える。そして、ドサッと地面に倒れ伏した。が、直ぐにエイタの口から息が漏れる。

「・・・んぁ?んだよこれ。めちゃくちゃ身体が重い…」

ずっしりと重りが背中に乗ってるかのように重い身体の感覚にエイタはビックリする。だが、直ぐに身体が重い理由に気づく。

「あぁ、そういうことか。そう、えば…雪兎あいつからあの子を頼まれたんだったな」

エイタは一度深呼吸したあと、肉体を貸していた間に□□□から聞かされた事を実行に移す。

『えーと、あぁ、あれだ。い、癒しと代償を司る第一の聖霊よ。我が声に応じ、この世に救済の光を指し示せ!!生誕しろ、エイル・シュトヴィケーラ!!』

そう唱えると、

あんたの呼び声に応じて可愛い聖霊わたしがキュートに参上☆ パパっと全てを癒してあげるわ!!」

白髪のツインテールと赤と青のオッドアイ。小柄な体格ということもありゴスロリ服がとても似合っている少女が、ウインクした方の目にピースを添え、腰にもう片方の手を当てた決めポーズで現れた。
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