愛を知らないパトリオットへ

あず

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「525年!我らは新しい王を迎えるため、古き血を重んじるリーフレンド王家を断絶する!」

勇ましい号令とともに王都の中央広場に集まった民衆たちは雄叫びの声を上げる。
高く設置された台はさながら処刑台である。
現実味のないその光景を茫然と眺めていれば、勇ましく叫んだリーダー格の銀髪の男がこちらを見た。

憎しみのこもった目は光など宿していなかった。

隣に座る叔父、現リーフレンド国王も俺も、さらにいえば叔母も手足を鉄の枷で拘束され、膝をついて横に並べられている。



まずはリーフレンド王国の話をしよう。

リーフレンド王国建国史によれば、今から525年前、ここ人間界は魔界からの干渉により衰退の一途を辿っていた。そこで立ち上がったのは、1人の少女であった。少女は神界へと赴き、女神に力を分け与えられた。人間界へと戻ってきた少女の容姿は女神の影響を色濃く残し、金の髪、赤の瞳へと変わっていた。
少女は女神から与えられた力を使い、魔界と人間界の通ずる穴に自身の血を鍵とした硬い門を作った。
そのおかげにより人間界には平穏が訪れ、少女を女王として建てたリーフレンド王国が出来上がったのである。

その500年以上続いたリーフレンド王国が今、倒れようとしている。

僕がこの処刑台へと昇るきっかけとなったのは5日ほど前のことだ。
リーフレンド現国王の弟として生まれた父が公爵位を賜り、母と結婚してすぐ、六つ年上の兄が生まれた。そのあと、子に恵まれなかった父と母であるが、兄が生まれて6年後、僕ハロルドは産まれたのである。正真正銘、公爵家の次男である。
そして、少し遡り、その1年前、なかなか男児に恵まれなかった国王と第二王妃の間に男児が生まれていた。
初代こそは女王であったが、その女王の言い伝えにより、男児にが王を継ぐことになっている。

そして、驚くべきことに、僕と王太子殿下は瓜二つの顔を持っていた。
王太子の赤い瞳を除けば、僕たちの顔は瓜二つ。王太子殿下の方が背が高くて、ガタイが良かったのは認めるけれど。

立場上、王太子として国民の前へとたびたび出ていた王太子の顔は広く知られているが、僕の顔なんて家族くらいしか知らない。もちろん、僕たちの顔がそっくりなことも。

そこで白羽の矢が立ったのだ。
反乱軍を制圧しきれずに王城へと進軍を許してしまった時。
慌てて王太子と側近が僕たちの屋敷へと隠し通路を通ってやってきた。
せめて。せめて1人でも。

___王家の血を絶やさないために。


元は第二王子として育てられた父はもちろん、その、建国史の最後の一説を知っていた。
おそらく、公爵家である自分たち家族もこの屋敷にいれば、処刑だろう。しかし、まだ、12歳である僕は王太子殿下とは違い、公式なお披露目はされていない。
国民は僕の存在を知らないも同然なのだ。

そして僕たちは入れ替わった。

僕は王太子として。王太子は僕として、亡命した。
赤い瞳を持つ王の純血を絶やさないために。



中央広場は多くの民衆で溢れかえっていた。
空は、今まで見たことがないくらいに深い青だった。

僕の隣で悔しそうに顔を歪める王様と顔を覆って涙を流す第二王妃を何処か冷めた心で僕は見ていた。なお、第一王妃はだいぶ前に他界している。

何度も、何度も父は諫めていたのだ。
国費を使いすぎるな、国民を見ろ。どの村も、税のために立ち行かなくなり、自身の子供を売って糧にしている有様だ。と。
それでも叔父は贅沢をやめなかったし、税の払えない村には強く当たった。王妃も然り。王太子もわがままばかりの傲慢な悪餓鬼へと育ってしまった。

神の血を纏う一族の、哀れな最後。

同情なんてしない。
してやるものか。僕だって、外の世界を見てみたかった。

きっと父も母も明日には処刑される。
処刑という名の殲滅だ。
この、反乱軍、革命軍は王侯貴族を全て処刑するらしい。

リーダー格の男の合図でまずは王である叔父が処刑台へと誘われる。
後ろからではどんな表情をしているのか、わかりはしないけれど。処刑の時間は午前12時。
時計台では毎日時間を知らせる鐘が鳴る。


鐘の音とともに、王の首へ鋭い剣先が振り下ろされた。
ドッと湧き上がる民衆の声が地響きのように大地を震わせる。もう誰も、止めるものなどいない。
首謀者であるこの銀髪の男にも、もう制御などできてはいない。

僕の番が来たときに、まるで不本意であるかのように男の顔が歪められた。その顔が民衆の元へ向けられることなどこれから一度もないだろう。彼の弱音はこれから殺される僕にだけ向けられた。
僕はその足元の、真っ赤に濡れて、まるで無機物かのようにコロリと転がる叔父と叔母の生首を、むせ返るような血の匂いに耐えながら眺めていた。
次は僕だ。

「満足かい?おにいさん。血に濡れた玉座はさぞ、座り心地がいいだろう。これが、お前たちの望んだ未来だ。」

捕われてから五日間、地下牢に繋がれていた僕は誰に何を言われようが、一言も口を広がらなかった。
同じ檻に入れられた、泣いてすがる叔父や叔母を僕は檻の奥でボーッと眺めていた。
その僕が、口を開いたことが、よっぽど意外だったらしい。

「何を…。」

「僕は怒っているんだ。

愚かで哀れな国民に最後の愛を捧げよう。


“王家の血は、決して絶やしてはいけないのである”。」


民衆の中に、深くフードを被った男を見つける。そこから覗く、赤色の瞳が何を考えているのかわからない光を携えてじっとこちらを見つめていた。

「せめて、お前がこの国の救世主であることを、切に願うよ。」

僕は隠し持っていた短剣を取り出し、男が剣を振り下ろすよりも先に取り出した勢いをそのままに、かき切った。

ゆっくりと目を閉じる。
体から温度が失われていくのがわかる。
そのまま、争うことなく、僕は意識を手放した。

どうかこの国の行末が、悲惨なものでないことを願って。



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