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第1章 新王国
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しおりを挟む「ん、…アーシュ?」
目が覚めると、僕はアーシュの腕に頭を乗せて、アーシュの隣で寝ていた。
あの後、アーシュはマホウというやつで全部を綺麗にしてしまった。そして、僕を道連れに寝てしまった。よっぽど疲れていたのだろうか。
しかし、僕が起きると、アーシュはもう、すでに起きていた。
「おはよう、ハル。よく寝れた?」
窓も何もないこの檻の中で、朝も夜もないというのに、アーシュは朝のような爽やかな空気を漂わせて、朝の挨拶をする。
彼は絶望に暮れてはいないのだろうか。
くにの、もはや大罪人である僕の隣にいて、憎悪を抱かないのだろうか。
そんなことを考えて、考えてる自分が少し可笑しくて、笑った。
「あのね、ハル。話があるんだけど、いいかな?」
起き上がると、アーシュは寝ていたことでわしゃわしゃになってしまった布を整え、手櫛で僕の長い髪を梳いた。
僕は、アーシュがどうして見ず知らずの僕にこうも優しいのかわからないまま、されるがままになっている。何度も言うが、腐っても公爵家の息子である。身の回りの世話をしてもらうことには慣れているつもりだ。
アーシュの申し出に僕は小さく、縦に首を振った。
僕もまた、アーシュに聞きたいことがたくさんあるのだ。
「俺…いや、俺たちは君のことを探していたんだ。」
それをかわぎりに、アーシュから僕に伝えられた話は、こうだった。
身分は今は明かせないが、アーシュの上司という人が金色の髪を持つ人間を探していたらしい。そんな時にアーシュが、金髪のドレイを買った辺境伯がいる、と言う噂を耳にして秘密裏に自身もドレイとしてその辺境伯の城へと潜り込んだらしい。
そこで見つけたのが僕だと言う。
「あの、ちょっと待って。ここは、リーフレンド王国で間違いない?」
おかしい。
あんなに大々的に王家の断罪があったのだ。王も、王妃も処刑された。処刑なんて、格式張ったものなんかではなかった。あんなものは殺戮だ。
いや、それはいいとして。
そんな大きなニュースがあったにも関わらず、金髪つまり、王家につながるような人間を探してるって。王太子が逃げたことが誰かにバレていたのだろうか。
いや、それよりも先に、僕はもう囚われの身だったはずだ。今更、探すもクソも無い。僕の命は反乱軍に握られている。
「ん?そうだよ。新リーフレンド王国。珍しいね、そんな言い方するの。ほとんどの人はこの国を新王国と呼ぶよ。リーフレンド王国は1000年以上前に滅んだ大国の名前だからね。」
…え?
かろうじて、顔には出さなかったが、すぐに返事ができなかった。もしかしたら察しのいいアーシュは僕の変な反応に気づいたかもしれない。
1000年以上前に滅んだ、王国。
リーフレンド王国。
アーシュとの会話の所々に散らばる、僕とは馴染みのない言葉。
通じない言語。
パズルみたいにパーツが繋がっていく。
「アーシュ、変なことを聞くかもしれないけど、今って、何年?」
「今?新王国暦では23年。旧王国暦、リーフレンド王国建国時から数えられている暦では1583年。」
センゴヒャク、ハチジュウサンネン。
つまり、僕があの首をかき切った日、525年から1058年経っていると言うことだ。
どうして、僕は生きているのだろう。
この肉体は、本当に僕のものなのだろうか。
そもそも、僕は本当に存在しているのか?
耳の中に心臓が有るかのように鼓動の音が大きい。はちきれんばかりに心臓の音が鳴る。
目の前が真っ白になって、指先に力が入らない。布を握った指が僕の意思とは逆にカタカタと震える。
「ハル?…落ち着いて。息をちゃんと吐いて。」
知らないうちに過呼吸になっていたらしく、息が苦しい。
アーシュの少し冷たい手が頬に触れるもう片方の手は固く握られた僕の手に触れる。冷たいはずのアーシュの手が暖かく感じるほど僕の手は冷たくなっていた。
僕の呼吸が整い、固まっていた手が解けると、アーシュは安心したように緊張していた表情を和らげて、僕の背中をさする。
僕は、何にすがればいいのかわからないまま、自分の体に、右手を左肩に左手を右脇腹に置き、自分の体をギュッと抱きしめた。
「少し休もう。」
アーシュがそう言って、僕の額に触れると冷えていた体の芯が溶けるように暖かくなった。強張った体の力が抜けて、崩れ落ちるように倒れかけたをアーシュが支え、向かい合うようにアーシュの伸ばした足の上に座らされる。
頭はアーシュの肩に埋れさせるように倒されて、意識がぼんやりとする。
ポンポンと背中にアーシュの手の重みを感じながら僕は目を閉じた。
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