月に誓った、千年の恋 ―時を超えて、ただ君へ―

月華 澪

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🌙第二章「看護婦と特攻隊員」

第四話 「運命の匂い」

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昼下がりの病院には、静かな時間が流れていた。遠くで看護婦たちの話し声がかすかに響き、木造の廊下を風が抜ける。どこか懐かしい、石鹸と日なたの匂いが漂っていた。

美代は中庭のベンチで、膝の上に置いた包帯を丁寧に巻いていた。傷病兵の処置の合間、少しだけ時間ができた午後のひとときだった。

「器用ですね。軍人には到底真似できません」

ふいに背後から声がして、振り向くと隼人が立っていた。制服の袖を少しまくって、気だるげに笑っている。

「坂井さん……」

「もう“坂井さん”じゃなくてもいいでしょう。”隼人”でいいから」

そう言って隼人は、美代の隣に腰を下ろした。美代は驚きつつも、すぐに微笑んだ。

「……じゃあ、隼人さん」

「うん、それでいい」

二人の間に、穏やかな沈黙が流れる。やがて、隼人がポケットから小さな紙包みを取り出した。

「これ、貰い物なんだけど……甘いもの、好きですか?」

包みの中には、砂糖がまぶされた干し柿が一つ。貴重な甘味だった。

「いただきます。……甘いですね。優しい味」

美代が笑うと、隼人はどこか安心したように頷いた。

「そうだ。……この匂い、なんだか懐かしいと思って」

「え?」

「……あなたのそばにいると、不思議と落ち着くんです。初めて会ったのに、そうじゃないみたいで……まるで……」

「まるで、前にもこうして並んで座っていたような……そんな気がするんですね?」

驚いたように隼人が美代を見る。その瞬間、二人の視線が重なり合った。

風がそっと吹き抜ける。美代の頬を、銀色の髪がふわりと揺らす――いや、それはほんの一瞬の幻影だった。隼人の目にも、わずかに銀色の光が宿る。

「変なこと言いましたね。忘れてください」

「いいえ、私も……同じことを思っていました」

どちらからともなく視線を外し、少し照れたように微笑む二人。その様子を、少し離れた廊下の影から春子がそっと見つめていた。何かが始まりそうな、その空気を感じながら――



夜。ベッドに横たわった美代は、夢うつつの中で誰かの名を呼んでいた。

「レオン……」

その声に、遠く離れた場所で眠る隼人のまぶたが、同じように震えた。
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