月に誓った、千年の恋 ―時を超えて、ただ君へ―

🌙第二章「看護婦と特攻隊員」

第五話 「交錯する記憶」

夜の営倉。静寂の中、風の音だけが遠くから聞こえていた。隼人はうつ伏せに寝そべりながら、眠れないままぼんやりと天井を見つめていた。

「……また、あの夢だ」

ここ数日、同じ夢を見る。
夕暮れの草原、赤く染まった空の下で、少女が泣いている。
その少女を抱きしめ、何かを誓う自分――だが顔は見えない。名前も、言葉も、すべて霧の中だ。

（誰なんだ……あの人は）

そして夢の最後、必ず浮かび上がる銀色の髪、そして――エリスという名。
美代に会ってから、その夢は鮮明さを増していった。

⸻

翌日、隼人は兵舎の裏手で、こっそり煙草をふかしていた。煙が空へとまっすぐ上っていくのを見つめながら、無意識に呟いた。

「……エリス」

自分の口から出たその名に、自分でも驚いた。誰からも聞いたことのない名前――けれど、心のどこかで懐かしさが疼いた。

「……レオン、レオンって……」

その時、頭の奥に鋭い痛みが走った。視界がぐらりと揺れ、一瞬、景色が変わった。見知らぬ石畳の街、鎧を身につけた自分。隣には、銀色の髪を風になびかせた巫女の少女――

「っ……！」

気がつけば、隼人は地面に片膝をついていた。額から汗がにじむ。兵舎の壁に手をついて、呼吸を整える。

「これは……記憶なのか？」

それとも、ただの幻想か。だが、それがただの夢にしては、あまりにリアルで、あまりに――切なかった。

⸻

その頃、美代は病棟で記録を書いていた。ペンを握る手が、ふと止まる。

（レオン……）

夢で何度も呼びかけたその名前が、心のどこかでやさしく響いていた。隼人の声や瞳、仕草の端々に、なぜか重なって見えるその人の面影。まだ思い出せない記憶と、確かに感じる懐かしさ。

（私たち……どこかで……）

遠い過去と現在が、ゆっくりと交差し始めていた。
まだ輪郭はぼやけている。けれど確かに、二人の魂はまた出会ったのだ。時を超えて――