甘酸っぱい恋の味

月華 澪

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第三章 揺れる、夏の光の中で

すれ違いの気配

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終業式の前日。
憧子と航太は、もうほとんど話さなくなっていた。

以前のように、登校中に顔を合わせることもなくなった。
同じ教室にいても、なんとなく目を逸らしてしまう。
それはどちらからというより、自然に――でも確かに、遠ざかっていった距離だった。

憧子の隣には、いつも和真がいた。
楽しそうに笑って、時折、何か耳打ちされては、少し照れたようにうつむく。

(……楽しそうだな)

そう思いながら、航太は視線を外した。

(そりゃそうか。憧子には、もう和真がいるんだもんな)

明日からは、夏休み。
会わなくてもいい期間が始まる――それが、少しだけ救いだった。

* * *

昼休み、吹奏楽部の仮入部が終わった陽菜が、美術室にひょっこり顔を出した。

「入部届、出しに来ました~!」

「……え?マジで?美術部に?」

「うん。わたし、音楽はダメだって、今日気づいた。やっぱ絵が好き!」

にこにこと笑う陽菜は、制服のまま、くるりとその場で一回転して見せた。

「今日の朝、吹奏楽の先生に話したら、あっさり“向いてないかもね”って言われてさ~。ほら、わたし、正直だから」

「はは、陽菜らしいな」

笑いながら、航太は素直に思った。

(陽菜って、いいな)

まっすぐで、はっきりしてて、いつだって自分の気持ちに正直で。
落ち込むことはあっても、ちゃんと前を向いて歩ける。

「憧子ちゃんと和真くん、夏休み中にどこか行くのかな~」

陽菜がふと、ぽつりと口にした言葉に、航太は曖昧に肩をすくめた。

「さあ……知らない」

「……そっか」

その反応に、陽菜は何も言わなかった。
けれど目の奥は、何かを察したように静かに光っていた。

* * *

午後のHRが終わり、荷物をまとめながら、教室中がどこか浮き立った空気に包まれていた。

いよいよ明日から、夏休みが始まる。

「じゃあね、航太。また夏休み明けに!」

友達が手を振って教室を出ていく。
けれど、航太の足取りはどこか重かった。

(何して過ごそうか、今年の夏)

去年は、憧子と話した夏。
そして、陽菜と付き合っていた、短い夏――

今年の夏は、きっと、それとは違う夏になる。

窓の外、ぎらりと輝く太陽。
照りつけるような光のなかで、
それぞれの“揺れる想い”が、いよいよ本格的に動き始めようとしていた。
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