甘酸っぱい恋の味

月華 澪

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第六章 聖なる夜に、願いを込めて

叶った、冬の願い

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「イルミネーション、今日までだった!」

夕食のあと、憧子が突然思い出したように声を上げた。
ソファに座ってテレビを見ていた和真は、驚いて振り返る。

「え、なに? 急にどうした?」

「ずっと行きたいって言ってたでしょ?駅前の大通りのイルミネーション。ほら、今年は“光のトンネル”がすごいって話題だったやつ……!」

言葉を重ねながら、憧子はどんどんソワソワしてくる。
「今日が最終日なんだよ、和真……行きたかったのに、すっかり忘れてた……」

その顔は、ちょっとだけしょんぼりしていて、でも期待も滲んでいて。
普段は甘えたりせず、どこか気を張っている憧子が、珍しく素直に言った。

「ねえ、疲れてるのはわかってるけど……連れてって、お願い」

和真は一瞬だけ目を見開いたあと、ふっと笑った。

「……憧子が、そんなふうに甘えるの、珍しいな」

「だって、ほんとに行きたかったんだもん……」

少しだけ唇を尖らせて言うその顔が、どこか愛しくて、たまらなくて。

「じゃ、あったかくして行こっか」
和真は立ち上がって、上着を手に取った。

「ほんと? やった!」
憧子はパッと笑顔になって、玄関に駆けていく。

***

夜の駅前通りは、光で溢れていた。
街路樹が織りなす光のアーチ、足元を照らすランタンのような灯り。
そして、通りの真ん中に設けられた“光のトンネル”は、まるで別世界のようだった。

「わあ……すごい……」
憧子は足を止めて、息を呑む。

「夢みたい……」

子どもの頃から、冬のイルミネーションは憧れだった。
だけど、好きな人と一緒に来たのはこれが初めて。
いや、ずっと夢見てた“本物”のクリスマスデート。

「憧子、ほら」
和真がそっと手を差し出す。

憧子はその手を取って、ぎゅっと握った。

「叶ったな」
「うん。……ほんとに、叶ったよ」

和真と並んで歩く、キラキラと光に包まれたトンネルの中。
手をつなぐたび、隣にいるぬくもりを感じるたび、
「幸せ」って、こういうことなんだなと思った。

「この冬、一生忘れない気がする」
憧子がそうつぶやくと、和真は小さく笑って言った。

「俺も。来年も再来年も、一緒に来ような」

ふたりは光に照らされながら、そっとキスを交わした。
まるで世界にふたりきりになったような夜だった。

―――
ずっと願っていた時間。
ふたりの未来へと続く、静かで、やさしいイルミネーションの道だった。
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