甘酸っぱい恋の味

月華 澪

文字の大きさ
60 / 89
第六章 聖なる夜に、願いを込めて

はじめまして、和真の家

しおりを挟む
憧子と和真は、冬の帰省にあわせて、和真の実家を訪れた。

「ただいまー。……母さん、父さん、連れてきたよ」
「こんにちは、佐藤憧子です。よろしくお願いします」
憧子は少し緊張しながらも、丁寧に頭を下げた。

和真の母は、にこやかに迎えてくれた。
「まあまあ、憧子ちゃん! よく来てくれたわね~。寒かったでしょ。入って入って!」

「あ、ありがとうございます。お邪魔します……」

和真の父も優しく頷く。
「息子がいつもお世話になってます。落ち着いた雰囲気の、いい子だな」

手作りの家庭料理。憧子は緊張しつつも、会話を楽しんだ。

「和真くん、昔からよく食べるんですね」
「うん。たぶん今も、部活後の夕飯は3杯は食べてると思うよ?」
「えっ、そこ言う? いや、実際その通りだけどさ」
と、和真が少し照れくさそうに笑い、場が和んだ。

食事のあと、母がそっと台所で憧子に声をかけた。
「和真がね、あなたとまた出会えて、すごく嬉しそうなのよ。昔よりも、ずっといい顔してる」
「……ありがとうございます」
憧子の胸に、じんと温かさが広がった。

食事も終わり、ひとときの団らんを経て、憧子がそっと立ち上がった。

「今日は本当にありがとうございました。お料理も、とっても美味しかったです」

玄関まで見送りに来てくれた和真の父と母は、やわらかく微笑んだ。

「いえいえ、こちらこそ。遠いところ、来てくれてありがとうね」と母。

「また、いつでも遊びに来なさい。次はもっとゆっくりしていっていいから」と父もにこやかに言った。

憧子は、少しだけ頬を赤らめながら、深く頭を下げた。

「はい。またお邪魔させていただきます」

その横で和真も、家族に向かって一言。

「ありがとう。俺、ちょっと外まで送ってくる」

「気をつけてね」と母の声が、あたたかく響いた。

そして――
ふたりは並んで玄関の外へ出た。

冷たい風がそっと吹き込む中で、和真はドアの前に立ち、憧子の顔を見つめた。

「今日は、来てくれてありがとう。……このあと、実家に帰るんだよね? 気をつけて」

和真の言葉はあたたかくて、でもどこか名残惜しさがにじんでいた。

「うん。和真も、お父さんとお母さんと、ゆっくり過ごしてね」

憧子が微笑むと、和真も小さく笑い返した。そして、ふっと真剣な表情になり、まっすぐ目を見て言った。

「明日、憧子の実家に、ちゃんとご挨拶に行くよ」

その言葉に、憧子の胸がじんわりと熱くなる。

「……うん。ありがとう。待ってるね」

ふたりの間に、短い沈黙が流れる。

その時、冷たい風が吹いた瞬間――
和真がそっと憧子の腕を引き寄せて、抱きしめた。

「……寒くない?」と、ぽつりとつぶやくように。

驚いた憧子は、少し遅れてその胸に顔を埋めた。

「……ちょっとだけ、あったかくなった」

「よかった」

しばらく、そのまま静かに抱き合っていた。

言葉は少なくても、心が通じ合っている証のように、心地いい時間だった。

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

小さく手を振って、憧子は背を向ける。
けれど、ドアの向こうから感じる和真のまなざしが、ずっと背中にあたたかく寄り添っている気がした。


そして、憧子は和真の実家をあとにし、自分の実家へと向かった。

電車の中、ふとスマホを見ると、和真からLINEが届いていた。

「今日、すごく嬉しかった。ありがとう」

憧子は、小さく笑って返信した。

「こちらこそ、ありがとう。
とっても楽しかったよ。
和真の家族、すごくあったかかった。
じゃあ、また明日ね」

静かで、やさしい――そんな冬の日だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

処理中です...