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香菜の章 ―愛されたくて、生きてきた―
第15話 「答えが出た日」
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誰もいない部屋の中で、香菜は箱の中から細長いスティックを取り出した。
あの夜から、もうすぐ二週間が経つ。
ただの遅れかもしれない。でも、違うような気がした。
朝、目覚めても吐き気がする。
匂いにも敏感になった。
自分の体が、何かを始めているのを感じていた。
そっと検査薬に触れ、トイレに入る。
説明書の手順通りに済ませ、数分を待つ。
その間、心臓の音がやけに大きく響いていた。
結果は——陽性。
たった一本の線が、香菜の人生を大きく塗り替えた。
床に座り込んだ。
震える手でスティックを見つめながら、香菜は何度も何度も、息を吸って吐いた。
「そうか……わたし、母親になるんだ」
言葉に出すと、少し現実が迫ってきた。
でも、不思議と涙は出なかった。
泣いても、誰かが助けてくれるわけじゃない。
そう思うようになったのは、いつからだろう。
あの人には言わない。
彼には、家庭がある。
香菜を“本気”で愛したわけじゃないのは、香菜自身が一番よくわかっていた。
(この子は、わたしが産む。わたしの責任で)
そう思ったとき、胸の奥にぽっと小さな光が灯った。
怖い。でも、ほんの少しだけ温かい。
誰にも頼らず、ひとりで生きてきたつもりだった。
でも、この先は——もう一人じゃない。
ベランダに出ると、冷たい風が吹き抜けた。
空には、白んだ朝焼けがにじんでいた。
香菜は、初めて自分の下腹に手を当てた。
「はじめまして……あなたに、会える日まで」
ささやくように言ったその言葉が、香菜の決意を確かなものに変えた。
あの夜から、もうすぐ二週間が経つ。
ただの遅れかもしれない。でも、違うような気がした。
朝、目覚めても吐き気がする。
匂いにも敏感になった。
自分の体が、何かを始めているのを感じていた。
そっと検査薬に触れ、トイレに入る。
説明書の手順通りに済ませ、数分を待つ。
その間、心臓の音がやけに大きく響いていた。
結果は——陽性。
たった一本の線が、香菜の人生を大きく塗り替えた。
床に座り込んだ。
震える手でスティックを見つめながら、香菜は何度も何度も、息を吸って吐いた。
「そうか……わたし、母親になるんだ」
言葉に出すと、少し現実が迫ってきた。
でも、不思議と涙は出なかった。
泣いても、誰かが助けてくれるわけじゃない。
そう思うようになったのは、いつからだろう。
あの人には言わない。
彼には、家庭がある。
香菜を“本気”で愛したわけじゃないのは、香菜自身が一番よくわかっていた。
(この子は、わたしが産む。わたしの責任で)
そう思ったとき、胸の奥にぽっと小さな光が灯った。
怖い。でも、ほんの少しだけ温かい。
誰にも頼らず、ひとりで生きてきたつもりだった。
でも、この先は——もう一人じゃない。
ベランダに出ると、冷たい風が吹き抜けた。
空には、白んだ朝焼けがにじんでいた。
香菜は、初めて自分の下腹に手を当てた。
「はじめまして……あなたに、会える日まで」
ささやくように言ったその言葉が、香菜の決意を確かなものに変えた。
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