地雷カプブルー 

89桃(はくとう)

文字の大きさ
2 / 28
第1章 ブルーな初恋

1-1

しおりを挟む
 高校に来るだけで心が痛む日々に、どうやって終止符を打てばいいのかな。
 教室で幼なじみの笑い声を聞くだけで、嫉妬が溶けた悔し涙が製造されそうになる。

 僕、萌黄もえぎ輝星てらせが人前で悲哀を洩らさないようにと必死にマスターしたのは、悲しい時ほどエンジェルスマイルを顔に張りつけるというチープな技。

 放課後の今だってそうだ。
 黄色いエプロンをはおり、卵を菜箸でとく手が止まってはいるものの終始笑顔。
 僕の目じりは理想どうり垂れさがり、口角上向きのハピネス顔をキープできている。
 調理室の2階の窓からテニスコートを見下ろし、スマッシュを決めた幼なじみと恋敵がハイタッチをした地獄絵図が、僕の瞳に映っているにもかかわらずだ。

 あっぱれにもほどがある。
 僕は人を騙す才能でもあるのだろうか。

 テニスの試合はかすみくんたちが勝ったんだなと、嬉しさよりも悲しみが色濃く心を占める。

 遠くから見てもわかるよ、霞くんと恋敵くんが満面の笑みでグータッチを決めているもん。
 恋敵くんなんてワイルドフェイスに白い歯を輝かせながら、霞くんの肩に腕を回していて。

 はぁぁぁ、見てるのしんどい。
 癖のように視線を突き刺してしまう幼なじみの残像を闇に葬りたくて、窓に背中を強く押し当てた。

 悲しみが僕の表情筋を殺そうとする。
 でも必死に抵抗、作り笑いは消したくなくて。

 作り笑いは自分の心を偽る行為。
 そんなことをして心が無傷ではいられないことは100も承知。
 笑顔で悲しみに蓋をしているわけだから、そこそこの代償があるわけで。

 いま僕は作り笑いをしちゃっているんだ。
 むなしさを自覚した直後、心がトラックにひかれたような激痛にいつも襲われてしまう。

 まさに今も心臓が苦しい。
 悲しみを吐き出す術を身につけないと、精神が崩壊する日が来てしまうだろうな。近い将来、間違いなく。

 「やっぱりもう一個追加しよう」

 調理室の冷蔵庫に向かい、ボールに卵を割り入れる。
 手についた白身のベタベタが負の感情とリンクしているようで、闇を消したくて石けんで念入りにぬめりを落とした。

 報われない想い。
 幼稚園から抱き続けている恋心。

 さい銭箱に500円玉10枚を投げ入れて『霞くんの恋人にしてください』なんてお願いをしたら

 『無理難題を押しつけられても困る。目が合っても無視されているじゃないか。嫌われているんだ諦めろ』

 迷惑極まりないと言わんばかりのため息をこぼす神様に、おさい銭を投げ返されるだろう。

 辛い、悲しい、苦しい。
 恋心を捨てたい、この悲しみから逃れたい。
 霞くんを諦めるための最適解は――

 絶望にひたっている時のひらめきほど、とりつかれ注意なのかもしれない。
 数週間前の僕は本当にどうかしていた。
 でも、これしかないとすがってしまった。

 【霞くんと誰かを僕の脳内で恋人にして、推しカプだと思いこめばいいんだ】

 BL好きの腐女子ちゃんが親友だからだろうな。
 自分のものとは思えない湾曲ぎみのひらめきが、病んだ脳に降ってきたあの日。
 
 霞くんのお相手?
 間違いない、心を許している彼しかいない。

 俺様っぽいのに親しみやすくてコミュ力が高い。
 僕が勝手に恋敵と思い込んでいる、赤城あかぎ奏多そうたくん。
 テニス部に所属していて、霞くんとダブルスのペアを組み、先日の県大会で優勝を果たしたスポーツ万能イケメン。


 またか。
 傷つくとわかっていながら、ついテニスコートの霞くんを瞳に映してしまった。

 僕の瞳ってドM確定?
 ただのチラ見グセにしては諦めが悪すぎるよ。

 ほらやっぱり、霞くんを見なきゃよかったでしょ。
 僕の心の弱い部分が、後悔の悲鳴をあげている。

 奏多くんはラケットを担ぎ、霞くんの肩を抱いている最中で、ニヒヒと笑みをこぼしながら、霞くんのサラサラな髪を豪快にかき乱した。
 霞くんは奏多くんの腕を跳ねのけることなく、楽しそうに肩を揺らしている。

 仲が良すぎ。
 霞くんの幼なじみは、僕じゃなくて奏多くんだったんじゃないかな。
 二人はすでに付き合っていたりして。
 

 霞くんと奏多くんの【カスミソウ】コンビは、女子たちにも大人気だ。
 麗しすぎて目の保養になると、あえて3年の廊下までのぞきに来る集団が後を絶たない。

 おっとり微笑む優雅な王子様タイプの霞くん。
 それに対し、奏多くんは見た目も性格もオスっぽい俺様系。

 二人とも美形すぎで並ぶとさらに尊さが増す。
 手を合わせて拝みたくなるご神仏レベルの神々しさだから、キラキラ直視は目の疲労面で長時間要注意。
 なんの取り柄もない僕なんかが割って入るす隙間は、残念ながら一ミリもない。

 カスミソウカプを推している女子たちに睨まれるとメンタルが病みそうだし、近づかないのが一番。
 とわかってはいるものの、推しカプを作ったことが功を奏し霞くんをほぼほぼ諦めたからと言って、恋心が日に日に膨れ上がってしまっているのが現実で。

 やっぱり好きで、大好きで、でも手には入らなくて、無視されっぱなしで、結局しんどいまま。

 
 高校を卒業して霞くんを瞳に映さなくなったら、ちゃんと別の恋ができるのかな。
 違う人を好きになって、霞くんのことを忘れることができるのかな。

 早く高校を卒業したい。
 まだ半年以上もあるのがもどかしい。

 ただ別枠の感情もある。

 霞くんともう一度笑い合いたい。
 小学生の頃みたいに僕だけを友達認定して、僕だけを独占してほしい。

 嫌われているのにやっかいな願望が心底にくすぶっているから、ごみを捨てるように恋心を放り投げることはできないんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

愛と猛毒(仮)

万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。 和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。 「……本当、バカだよな。お前も、俺も」 七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。 その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...