地雷カプブルー 

89桃(はくとう)

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第3章 縮まる距離

3-1

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 ☆輝星side☆


 長時間雨を降らせる梅雨前線は、いったいどこに行ってしまったんでしょうか。
 お願い、今すぐ戻ってきて、このお昼休みだけでいいから。

 拝むように手を組み、空を見上げる。

 「うっ、太陽まぶしいっ」

 夏直前の太陽は直視注意だったなと、僕は反射的に目を細めた。
 湿気を含んだ雨雲たちは、ギラギラな太陽の熱で蒸発してしまったのかもしれない。

 湧き出る汗をぬぐうため、指先まで隠れるジャージの袖でおでこをおさえている時だった。

 「なーにオマエ、そんな暑っ苦しいもの着て。日焼け防止? ついでにこれでもかぶっとけ」

 人懐っこいを通り越して暑っ苦しい長身男子が、かぶっていたキャップを僕の頭に乗せたのは。

 長めの前髪をワイルドにかきあげたのは、テニス部の奏多そうたくん。
 僕と同じ高3だけどクラスは違うし、まともに話しかけられたのは今日が初めて。

 「つーかマジで暑いくね? 冷えたスポドリ一気飲みしてぇ」

 奏多くんがオスっぽいフェロモンを無意識に振りまくだけで、テニスコートの周りに群がる女子たちから黄色い悲鳴が沸く。
 異様な光景だけど、僕の高校の生徒は見慣れている。
 いまさら驚くことでもない。

 「キャー、奏多くんカッコいい」

 「腹筋見えた、割れてた」
 
 「シックスパッドだったね。直視ムリ」

 なんて女子たちがはしゃぎだしたのは、奏多君が体操服の裾をまくりあげ、腹チラ見せで顔の汗を拭いたから。

 「カスミの代わりに、俺がお前を鍛えてやるからありがたく思え」

 言葉だけとると乱暴だ。
 許可なく僕の肩を抱いて、許可なく僕の側頭部に額をぶつけてくるところがヤンキーっぽい。

 でも笑顔は幼くて八重歯を光らせながらヤンチャに笑っているから、不思議なほど憎めない。
 僕が冗談できつい言葉をぶつけても、笑い飛ばしてくれそうな安心感すらある。

 不思議な人だなと感心はしているものの、正直離れて欲しい。
 暑い、暑苦しい、そして霞くんから飛んでくる視線がものすごく痛い。

 僕はハッとなった。
 遅れてとんでもないことに気がついた。
 僕は今、霞くんに嫉妬され、恨まれているのではないかと。

 僕の肩を抱いたまま陽気にしゃべている奏多君の声なんて聞いているほど、能天気な脳みそを持ちあわせてはいない。

 霞くんは僕と奏多くんの真ん前に立ち、飛び切りの笑顔で僕たちを見つめてはいるものの、この笑顔はヤバい時のだ。
 小6までの霞くんをところどころ思い返し、僕の背中の広範囲から冷や汗が吹き出る。

 霞くんの目じりが垂れている。
 口角が上がっている。
 一見王子様スマイルなのだが、彼の瞳の奥が笑っていない。

 これは怒っている時の顔。
 小6まで霞くんの隣を独占してきた僕だからわかるんだ。

 そして霞くんが怒っている原因はこれしかない。
 僕に奏多くんをとられたと思い込んでいるに違いない。

 好きな人に嫌われたくないという思いは、ものすごい原動力になる。
 僕の肩を抱え、僕の体を揺らし、一人しゃべりまくっている奏多くんの手を払い、僕は逃げだすことに成功した。

 「なんだよ、テニスでうまくなるための秘策を伝授してやってんのに、話は最後まで聞けっつーの」

 奏多くんの眉間のしわも、吊り上がった眉も、気にしてなんかいられない。
 僕は目にかかるユルふわ髪の隙間から、目玉を上向きにして霞くんを確認する。

 はぁ~良かった、もう怒っていないっぽい。
 いつもの優しい王子様スマイルに戻ってる。

 今ので【霞くんの好きな人は奏多くん】という事実が立証されてしまったのだが、悲しむのはあとにしよう。
 このお昼休みを、僕はなんとか乗り切らなきゃいけないのだから。

 もう流瑠ちゃん、なにとんでもないことをしてくれちゃったわけ!
 今朝の出来事がフラッシュバックしてきて、胃がきしむ。

 登校後の教室でビックリしたんだから。
 心停止寸前、魂が天に召されるかと思ったんだから。
 奏多くんのキャップを深くかぶりなおし、僕は記憶を蒸し返さずにはいられない。

 今朝教室に入ったら、ニマニマ嬉しそうな流瑠ちゃんが黒板に大きな文字を書き連ねていた。
 僕だけじゃない、クラスのみんなも黒板に大注目。

 チョークを置いた流瑠ちゃんは、キラキラ顔で黒板を叩いて、
 「変更になったよ、みんなよろしくね」と、ポニーテール大振りでニコリ。

 ルンルン跳ねる琉留ちゃんの声同様、黒板の文字も浮かれていた。
 でも僕の肝は瞬間冷凍。
 北極に行って白熊とかき氷でも食べたんですか?というくらいの、冷え冷えのガチガチさ。

 【霞くんと輝星くんでテニスの試合に出ることになりました!】

 黒板に書いてある文章を見て、ドッキリだと思い込みたかった僕が失望したのは

 『はいみんな、ナイスタイミングで登校してきたテラっちに拍手~』と僕を手のひらで指した流瑠ちゃんに加え、拍手パチパチでクラスメイト達が僕を取り囲んできたから。

 『萌黄もえぎって、調理部だけど運動神経いいもんな』

 小6まで軟式テニスに打ち込んでいたおかげか、たいていのスポーツはそこそここなせるけど。

 『県大会優勝の霞と組むわけだし、絶対いい結果残せるって』

 待って、期待しないで、勝手に話を進めないで。
 僕はいま、テニスに出るって聞いたばかりなんだよ。

 『男テニの試合は球技大会の花形じゃん。校長も毎年楽しみにしているよね』

 体育大会は体育館でやる種目がほとんどだけど、唯一男子テニスの試合だけは外。
 雨なら高校の近くの室内テニス場を貸し切ってまでテニスの試合をするし、決勝戦は全生徒が見れるように会場までのバスも手配してくれるという熱のいれよう。

 球技大会に女子テニスの試合はない。
 昔はあったらしいが、男子テニスの試合を絶対に見逃したくない女子たちの強い要望でなくなったんだとか。
 
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