24 / 28
第4章 霞の想い
4-3
しおりを挟む小6の時、俺はアパート暮らしだった。
アパートと言っても期間限定で、家を建て替えている間だけの借り住まい。
学校帰りだった。
ランドセルを背負いながら、輝星と俺のアパート近くに来た時だった。
自分が住むアパートの方から黒煙が上がっているのを見つけたのは。
輝星とともに走った。
嫌な予感は的中。
燃えていたのは俺たち家族が住む3階建てのアパートで、家事の様子を眺めている人はいるものの、まだ消防車は到着していない。
顔面蒼白で携帯を耳に押し当てた大家さんが、俺を見つけて駆け寄ってきた。
『良かった、霞くんが無事で』
大家さんは俺の肩を両手でつかむと
『君の家族も仕事に行っていて無事だよ。他の住民の安否確認も取れてる。学校帰りの霞くんだけが、アパートの中に取り残されていないか心配だったんだ。でも良かった、無事で良かった』
心から俺の心配をしている大家さんは『もうすぐ消防車が来てくれる。危ないから絶対にアパートに近づかないで』と残し、また誰かに電話を掛けながら去っていって。
――俺の部屋が燃えてる。
現実が受け入れられずに放心状態だった俺は、つい悲しみをこぼしてしまったんだ。
『輝星が作ってくれた金メダルが燃えちゃう、俺の宝物なのに』って。
輝星が俺のそばにいないと気づいたのは、視界に黒いランドセルが映りこんだから。
――輝星のランドセルだ。
『危ないからアパートに入るな! 焼け死ぬぞ! オイ、戻ってこい!』と男性の怒鳴り声が鼓膜に突き刺さって、顔を上げたら、遠くに見えるアパートの階段を輝星が駆けあがっていて。
――俺が「金メダルが燃えちゃう」なんてつぶやいたからだ。
――輝星が炎に焼かれ、苦しみながらあの世に行ってしまったらどうしよう。
恐怖でいてもたってもいられなくなった俺は「火の中に飛び込んだらダメだ!」と止める大人たちの声を振り切り、燃えるアパートの中に駆けこんだ。
6年まえに体験した恐怖がよみがえり、二度とあんな地獄は味わいたくないと目をつぶった現在の俺は、部室棟前に置かれたベンチに浅く座りなおす。
唇を噛みしめ、声を鋭く尖らせた。
「いつだって輝星は俺を優先した、自分の命より俺の笑顔を大事にした。あの時だって、まさか火の中に飛び込んでいくなんて」
輝星はベンチに座りうつむいたままだ。
地面に転がった石を足の裏で転がしながら
「僕が作ってプレゼントした金メダルが燃えちゃうって絶望した顔で霞くんが立ち尽くしていたから、喜んでほしくて」と、ふてくされたように唇を尖らせている。
ねぇ、なんでわかってくれないの?
「輝星がくれた金メダルは、間違いなく俺の宝物だった」
テニスの試合で結果が残せない俺ののために、粘土と金色の折り紙で一生懸命作ってくれたもの。
死ぬまで大事にする自信すらあった。
「でも、輝星の命の方が俺にとって大事だったんだよ!」
また俺のわめき声で輝星を責めてしまった。
輝星は納得できないらしい。
勢いで腰を上げた俺の前に、物申したい顔の輝星が立ったかと思うと、ほっぺに空気を詰め込み
「僕だってあの時、信じられなかったよ。なんで僕を追いかけて火の中に飛び込んできたの? アパートの外の安全な場所で待ってて欲しかったんだよ!」
と、責めるように人差し指を俺に突き刺してきて。
もちろん俺も黙っていない、さらに声を荒らげる。
「輝星が煙を吸い込んで倒れたらどうしようとか、炎に包まれて焼かれたらどうしようとか、最悪なことを考えるに決まってるでしょ。俺に安全な場所で待っててほしかった? 無理だよ、いてもたってもいられなかったんだよ。 でも……」
高ぶる感情を輝星にぶつけた俺は、あの時の後悔にさいなまれ肩を落とした。
こわばっていた上半身の力が抜け、脱力しながら溜息を吐く。
確かに俺の行動は軽率だった。
輝星を助けなきゃと、必死に輝星を追いかけて火の中に飛び込んだのに。
「俺のせいで、輝星の腕に二度と消えないヤケドの跡を刻みつけてしまった」
どれだけ懺悔してもしきれない。
火事の前にタイムスリップできたらと、何度願ったことだろう。
俺は輝星を強く責めたてていい人間じゃなかった。
反省の念にかられ、背を丸めベンチに座りこむ。
苦しそうに瞳を陰らす俺を、見ていられないのだろう。
輝星は小さいころから俺の負の感情に敏感で、俺を笑顔にしようと必死になるタイプだから。
輝星は申し訳なさそうに眉を下げると
「僕の方こそムキになってごめんね。霞くんは何も悪くないよ。燃えた家具が倒れてきたせいだから」
と、隣に座り俺の顔を心配そうにのぞき込んできた。
「火事の時、輝星は俺をかばってくれた。倒れてきた家具を腕で受け止め、俺に覆いかぶさってくれた。おかげで俺は無傷だった。でも輝星は腕に酷いやけどを負って……」
俺が悔し目を突き刺したのは輝星の右腕。
ジャージの長い袖でやけど跡は見えないが、右腕の広範囲がただれているに違いない。
俺が輝星を傷つけてしまった。
やけどの激痛で悶えさせてしまった。
炎が燃え盛る部屋の中で、俺が転んでしまったから。
だから輝星が身をていして、俺を守らなければいけなくなったんだ。
小6の時の自分が許せない。
いや、そもそもの発端は幼稚園の時からだろう。
俺が輝星を好きにならなければ、独り占めしたいくらい大好きにならなければ。
過去も今も、悪いのは全て俺なんだ。
こんな俺が輝星のそばにいたらダメなんだ。
俺が隣にいたら、また輝星に不幸地獄に突き落とされてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる