悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

7話 馬車

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 しっかりと舗装された道じゃないため、多少だけど馬車は揺れる。
 私は商人たちが乗る馬車すら乗ったことは無い。

 だから、乗り心地が良いのか悪いのか分からないけど、思ったより馬車は強く揺れないようだ。
 こんな田舎道でも。

 昨晩、色んな事を考えていたら全然眠れなかった。
 というか、一睡もしていない気がする…。
 頭の中で貴族様との会話を延々とシミュレーションしていたら気付けば太陽が昇っていた。

 それもそのはずか…。
 貴族のパーティーに参加するのは生まれて初めてだ。
 礼儀や作法もわからなければ、知り合いも一人もいない。

 三日目マリアさんが家に訪れた時、正直まだ迷っていた。
 けれど、マリアさんの圧力に負けて参加することになったんだよな。

 心の底から行きなくないのなら、もちろん断っていたんだけどね…。

 今、座って見てる分にはとても可愛くて真面目な侍女に見えるんだけど。

 マリアさん、アレク様関連になるとなんか雰囲気が変わるんだよね。

 数回しか会ってないけれど、明らかに態度が豹変する時がある。
 たとえば、私とアレク様に関係する内容になる場合とか。

 マリアさんって、私に何か気になる事でもあるのかなあ…。

 ……。
 …。

 あー。
 ダメかもしれない…。
 眠くなってきた。
 わざわざこの寂れた村までお迎えに来てもらったのに……。
 
 馬車の揺れがとても心地いい…。
 赤ちゃんがゆりかごで寝ている感覚に近いかも…。

 私が必死に寝ないよう努力していると、マリアさんが話し掛けてきた。

「ここからキーシャまでは意外と距離があります。遠慮なさらずに、お休みになって下さいね」

 眠りたい……。
 あぁ~…。

「眠たいのでおやすみなさい!」 
 
 と言いたかったけれど、私は強がってマリアさんの申し出を断った。

「……い、いえ!……起きているので大丈夫です!」

「わかりました。もしも、眠くなったらいつでも寝ていいですからね」

 マリアさんは優しく笑って、甘い言葉を再びささやいた。

 確かにここで寝ると凄く気持ちがいいんだけど……。
 目が覚めたとき、非常に申し訳ない気持ちになってしまうんだろうな。

 が……。
 瞼が重たい……。
 
 ウトウトしながら再度、マリアさんの様子を伺う。
 あれ?
 マリアさんの瞼が閉じてる…。 
 背筋がピシッとなっているから、寝ているわけではないんだろうな。

 私は体勢を変えて、窓のサッシに右ひじを掛ける。
 見栄えが悪いかもしれないけど、寝るよりマシだよね……。

 眠気覚ましのアレを出そうかな。

 右肘を着いたま、右手首を自分の方へ捻る。
 前傾姿勢の私は自分のおでこに右手のてのひらを押し当てた。
 そのまま右手首を下にスライドして、右手の親指と人差し指で両瞼をグッと押す。

 ぐにゅにゅ。
 両目の瞼に、私の指先が食い込む。
 強引に瞼を開いた顔は不細工極まりないだろう。

 だけど、さっきより大分、眠気が消えた気がする!

 手首で顔を覆っているため多分……。
 正面にいるマリアさんからは、不細工になった私の顔は見えないはずだ。

 それにマリアさんは目を閉じているため、この奇行は目に入らないよね。

 あぁ……。
 これでもダメか…。

 眠気を飛ばす為に工夫した策は呆気なく散る。
 私はあっさり眠りに落ちた。



 マリアは薄く開いていた瞼をゆっくり開け、静かにルリの横に腰を下ろした。

(よほど昨日は寝付けなかったのですね…)

 指で瞼を押し込んでいるため、ルリは白目になっていた。
 マリアは悲惨な寝顔を晒しているルリを眺めると、彼女の右手を優しく掴む。
 
 マリアはクスッと笑いそうになったけど我慢した。
 
(私が強引にお誘いしたからでしょうね…。
 眠気を我慢するために、このようなお顔になっていますし…)

 マリアは掴んでいるルリの右手をそっと彼女の膝枕に置く。
 ついでに、崩れそうになるルリの姿勢を整えてあげた。

 ルリの小さな寝息がマリアの耳にかかる。
 目が覚めなかったことに安心したマリアは立ち上がって、ルリに一礼した。

「アレク様の事、これから末長くよろしくお願いします」


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


「……んん」

「よく眠れましたか?」

「おはようごさいます…」

 寝てしまったようだ。
 …。

 罪悪感はあるけど、仮眠のおかげで少し疲れがとれたような気がする。

「間もなくキーシャに到着します。城門で検査があるので、その時は馬車の中でそのままお待ち下さいね!」

「…わかりました」


 目を擦りながら、馬車の窓から外を眺める。
 窓枠の片隅に、灰色と黒色が入り混じった立派な城壁が見える。
 
 私の住んでいる門の外壁とは比較にならないほど大きい。
 それはそうか。
 ポッチ村を引き合いに出すのが間違っている。


 あそこに見える街がキーシャか。
 どんなところだろう。

 馬車の揺れが収まると、外から複数の話し声が聞こえてくる。

「ここから先は検問があるので、少しだけお待ち下さい!」

 マリアさんは一言告げて馬車から降りた。

 窓越しから外の様子を伺う。
 城壁を潜るためには二箇所入口があるんだ。
 どっちか片方の門を潜る必要があるみたいで、マリアさんは右側の入口に真っ直ぐ向っていく。

 左側に見える入口は人が大勢並んでいた。
 冒険者のような格好をした人達が大半を占めているが、商人達も混じっているようだ。
 少し汚れが目立つが、商品が沢山積まれている馬車が数台見える。

 両方の入口に数人憲兵がいるけれど、マリアさんが向かった先にいる憲兵は豪華な鎧を身に纏っていた。

 憲兵の元まで辿り着いたマリアさんは茶色の小袋から、薄くて四角い板のようなものを取り出し見せている。
 さらにもう1枚カードみたいなものを差し出して、検査が行われた。

 憲兵から通行許可が下りたのか、マリアさんが馬車に戻ってきた。
 そのまま馬車は門をすんなりと潜り、町の中に入っていく。

 ちなみに私は何もチェックされていない。
 確認されないまま通過しちゃったけど、いいのかな。

 後から憲兵たちに、

「あいつはこの町に不法侵入している。取り抑えろ!」
 
 などと言われたら最悪だ。
 まあ、マリアさんがそんな初歩的なミスを犯すとも思えないけど…。
 とはいえ、不安要素はない方がいいのでマリアさんに訊いてみる。

「さっき憲兵の方に確認してもらった物って、特別な許可証か何かですか?」

 マリアさんはゆっくり頷いて、説明を始めた。

「原則、門を通過する時はさっき反対側に並んでいた人達のように順番に案内されます。そして、許可が下りると町に入れます。」

 言われてみれば、反対側は二十人ほど並んでいた気がする。

 マリアさんは茶色い小袋から四角い金属製の板を取り出す。

「ただし、この許可証が手元にあれば優先的に右側の入口から入門することが出来ます。さらに、その付き添いの人も一緒に入ることが出来ます」

 なるほど。
 この許可証があれば優先的に案内される仕組みなのね。
 よほど、これは信用性が高いものだろうな。
 付き添い人の検査を一切しなくていいのだから。
 
 その板をじっくり観察すると、両面に見覚えのある家紋が記されていた。

 ただ、このような安易な仕組みだと悪人が複製して使用するのではないだろうか?

 んーどうなんだろう…。
 そういえば、許可書とは別にもう一つ憲兵に見せていたはずだけど……。
 それでも些か規制が緩い気がする。

 マリアさんは私が気にかけた点を教えてくれた。

「この許可証を複製して悪用される可能性もゼロではないです。なので許可証とは別にもう1枚、自分のギルドカードと一緒に提出します」

 んー。
 ギルドカードと一緒に見せることで何かそんなに変わるのかなあ。

「補足ですが、この許可証を確認する憲兵たちは全員、許可証を持ち運びする貴族とその配下の顔と名前を全て把握しております」

 それはすごい!!
 憲兵の人恐るべし。

 だったら、気軽に複製しようとする人が現れないのも頷けるかもしれない。
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