10 / 57
第一章 力の覚醒
10話 会場
しおりを挟むパーティ会場は圧巻の一言である。
入り口から度肝を抜かれてしまう。
前回この屋敷にお邪魔した時は正式な形での招待では無かったから、裏口の方から入っていた。
当然、今回は屋敷の正面から入場することになる。
入り口の扉は五メートルくらいはあるだろうか。
一人で開閉するのは大変そうな重厚な扉だった。
入り口扉のすぐ両脇。
門番のようにも見える、立派な白黒の騎士の彫像が両端にそれぞれ設置されていた。
右手側が黒、反対側が白い彫像だ。
全長は優に四メートルは超えているだろう。
「マリアさん。これって全部彫刻ですか?」
「ええ、そうですね。職人のドワーフが全て彫ったらしいです」
細長い剣も塗料でくまなく塗られており、本物の剣と大差ない光沢がある。
「そ、そうなんですね」
迫力だけではなく、一つ一つ細部にまでこだわり抜かれた彫像は一目を置かざるを得ない。
右手側に見える巨大な黒騎士の下で、木製の椅子に座っている執事がいた。
名簿のようなものを手に持ち、何か記入しているので、恐らくあそこで受付するのだろう。
「ルリさんはあそこの名簿には記載されていないので、そのままお通り下さいね」
私の視線の先に気付いたのか、マリアさんが教えてくれる。
名簿リストからわざと外したのかな?
性を持たない村人が受付していたら、目立つだろうし、意地の悪い貴族が咎めるかもしれないから。
受付の手間が減るし、私としてはありがたいからいいけどね。
「わかりました!ちなみにこの後、私は何かすることはありますか?」
「ルリさんは特に何もしなくて大丈夫ですよ。アレク様たちがご挨拶するまでゆっくりしていて下さい。後ほど、ルリさんとお話を出来る場を設けますので。空いている時間はご自由に散策してもらって構いません」
「りょーかいです!」
「マリアさん、私はアレク様の髪のセットに伺いますので、これにて失礼致します。ルリ様もどうぞゆっくりとおくつろぎ下さい」
私に一言告げたモローネはこの場から去り、マリアさんと二人きりになる。
「先ほどのお部屋であったモローネの態度は失礼しました。後で叱っておきますので」
「いえ、マリアさんが謝る必要はないです。元々私が無闇に触ってしまったのが原因ですから」
少々大袈裟な反応だった気もするけれど、マリアさん直々に謝ってもらう必要はない。
私にも責任があるからね。
「そう言って頂けると私も助かりますが、さっきの態度は私も少し引っ掛かっております。モローネは若干口が悪いとはいえ、初対面であのような立ち振る舞いは珍しいので…」
マリアさんもモローネの態度に違和感が拭えないらしい。
普段の様子を知らないから何ともいえないけど、モローネは私に敵意があるのは確かだろう。
「ルリさんが良いのでしたらこのままお話を終わりますが、またこのようなことがあればいつでも教えて下さいね」
「はい。何かあればご相談しますね」
まあ、さっきのことくらいであれば水に流せるからひとまず様子見かな。
マーベルと多分、年齢は変わらないのだから。
そう比べるとあの年で素晴らしい技術を持つ彼女は評価するべきかもしれない。
「私も一度アレク様に用事があるのでこれにて失礼します。予定では十一時から挨拶が始まるので、その時はこの一階のフロアにいてくれると有難いです」
「わかりました!」
中央にある煌びやかな時計を見る。
後一時間くらいあるのか…。
何しようかな。
ん。
そうだ!
この間チラッとしか見れなかった庭園に行こう。
今日は晴れていい天気だし!
スキップしたい気持ちを抑え、庭園に移動を始める。
慣れないヒールを履いたままそんなことをしたら間違いなく転けちゃうからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
侍女のモローネはささくれた気持ちを抑えるのに必死だった。
マリアとルリと別れた後も、モローネは苛立ちが一向に治る気配がなかった。
(なぜ私が、何処の馬の骨かもわからない村人の為に、このようなことをしなければならないのか?
髪くらい自分でセットしろ!
そもそも、アレク様の生誕祭に参加する資格はないだろが)
モローネは元々、ルリを別邸で寝込ませる予定だった。いや、理想を言えばその流れで村に送り返そうとまで考えていた。
表情や態度に出やすいモローネは、この後ろめたい行動がバレないように最善を尽くした。
内心に秘めた思いが露見しないように彼女は心掛けたが、それは厳しかった。
(ムカつく。ムカつく。ムカつく)
嫌な事は思い出しても全く意味がないと、わかっていても今朝の出来事が頭を支配する。
マリアと部屋の中に踏み入れたモローネは呆然としてしまった。
窓際に平然と立ち、外を眺める村人がいたからだ。
しかも、モローネが仕込んだ毒入りドリンクを片手に持ってニコニコ飲んでいたのが不味かった。
(はあ!?
コイツは私が知っているような普通の村人なのか?)
モローネの直感が告げていた。
(いや、断じて違う!!そんな訳がないと。
あれだけ苦労して手に入れた毒入りドリンクを全部飲み干しているだと!!)
馬鹿げたような話だが、空になった瓶が雄弁に物語っている。
(いやありえないだろ。ていうか、同じ飲み物をたった半日で全部飲みきるとか、どんな神経してんだよ…)
毎日、モローネはこの別邸の掃除担当だ。
村人のルリが泊まる前日に、ドリンクに毒を混ぜることはモローネにとって容易だった。
誤算があったのは十本も同じ飲み物が用意されていたことだが。
マリアから前日にあの瓶を渡されたモローネは、
「これはしっかりとキンキンに、確実に冷やしておいてね」
と念入りに頼まれていた。
モローネは一瞬固まったが、すぐに怒りがこみあげてきた。
(はあ?全部おんなじジュースだし、十本も必要ないだろ!)
そのせいでモローネは不足分の根っこ汁をなけなしのお給金を叩いてまで、調達する羽目になる。
(クソったれめ)
売人から、
『微量のカラマイタケの汁で大抵のやつは体調が崩れるらしい』
とモローネは聞いていた。
ただ、カラマイタケの葉を食べたら症状は緩和されるし、そんな命に瀕する状態には基本的にはならないとも教えてもらってはいたようだが。
どんな良薬や身体にいい食べ物でも、大量に取れば毒になるのはモローネでも理解していた。
(そもそもあの根っこ自体、元々毒らしいが。第一、魔法耐性のない村人があれだけの毒に耐えれるのか?)
疑心暗鬼になっていたモローネだが、自己紹介を終えたので仕事に取り掛かる。
「ルリ様、あちらの椅子に腰をお掛け下さい」
モローネはすぐに仕事に意識を向けようとしたが、ふと疑問に思った。
(ん?
ひょっとしてだが、あの胡散臭い商人がぼったくりやがったのか?
だとしたら村人のこいつがピンピンしてる理由は納得できるが…)
モローネが瓶に仕込んだのはカラマイタケの根っこじゃなくて、そこら辺に生えている草の根っことかならば。
モローネは草の種類とか全く分からないし、知りたい気持ちも全く無かった。
それが良くなかったのかと、彼女は自問自答する。
平常心を保つために、モローネは黙々と作業に集中して髪をセットした。
昔、カラマイタケは毒にもなるって聞いたことがあったし、売人自身も毒があるって言っていたのに。
モローネの前にいる彼女はニコニコしながら、鏡を覗き込んでいた。
(売人に聞いた情報を鵜呑みにして、犯行に及んだのが失敗だったのか?
ああ、こいつがピンピンしている理由が全然分からねえ!
このクソ村人も。インチキ売人野郎も。
ムカつく!ムカつく!ムカつく!)
その時点で、モローネの心は煮えたぎる溶岩のように熱くなっていた。
いつもより手際もよく、完成度の高い仕上がりになる。
いくらルリのことが嫌いだとしても一応、モローネも与えたら使命は全うするタイプだ。
(格好良く、聡明で、優しいアレク様直々に頼まれた事は絶対だからな!)
モローネはイラつく気持ちを押し殺して、仕上がった髪を村人に伝えた。
振り向いたルリは満面の笑みを浮かべながら、とっても嬉しそうに喜んでいた。
その後、ルリがモローネの手をキュッと握りしめたことで沸騰したお湯が溢れるように、怒りの一端を顕にしてしまったが。
(態度が悪かったのは後で叱られるとしてだな。毒を盛った事実にマリアさんは勘付いたただろうか)
マリアが気付いたかは分からないけど、あの村人も薄々勘付いていると思う。
ただ、毒を盛られたことをあの場では一切公言しなかった。
(やっぱり、私はぼったくられたのか?慣れないことするもんじゃねえな)
モローネはアレク様のところに向かって心を鎮めようとしたのであった。
36
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画
及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。
【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】
姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。
双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。
だが、この公爵家、何かおかしい?
異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。
一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。
ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳
バーディナ伯爵家令嬢
✖️
ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳
キングスフォード公爵
ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。
とても励みになります。
感想もいただけたら嬉しいです。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】
私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に——
※他サイトでも投稿中
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる