悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

10話 会場

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 パーティ会場は圧巻の一言である。
 入り口から度肝を抜かれてしまう。

 前回この屋敷にお邪魔した時は正式な形での招待では無かったから、裏口の方から入っていた。
 当然、今回は屋敷の正面から入場することになる。

 入り口の扉は五メートルくらいはあるだろうか。
 一人で開閉するのは大変そうな重厚な扉だった。

 入り口扉のすぐ両脇。
 門番のようにも見える、立派な白黒の騎士の彫像が両端にそれぞれ設置されていた。
 右手側が黒、反対側が白い彫像だ。

 全長は優に四メートルは超えているだろう。

「マリアさん。これって全部彫刻ですか?」

「ええ、そうですね。職人のドワーフが全て彫ったらしいです」

 細長い剣も塗料でくまなく塗られており、本物の剣と大差ない光沢がある。

「そ、そうなんですね」

 迫力だけではなく、一つ一つ細部にまでこだわり抜かれた彫像は一目を置かざるを得ない。
 右手側に見える巨大な黒騎士の下で、木製の椅子に座っている執事がいた。
 名簿のようなものを手に持ち、何か記入しているので、恐らくあそこで受付するのだろう。

「ルリさんはあそこの名簿には記載されていないので、そのままお通り下さいね」

 私の視線の先に気付いたのか、マリアさんが教えてくれる。

 名簿リストからわざと外したのかな?
 性を持たない村人が受付していたら、目立つだろうし、意地の悪い貴族がとがめるかもしれないから。
 受付の手間が減るし、私としてはありがたいからいいけどね。
 
「わかりました!ちなみにこの後、私は何かすることはありますか?」

「ルリさんは特に何もしなくて大丈夫ですよ。アレク様たちがご挨拶するまでゆっくりしていて下さい。後ほど、ルリさんとお話を出来る場を設けますので。空いている時間はご自由に散策してもらって構いません」

「りょーかいです!」

「マリアさん、私はアレク様の髪のセットに伺いますので、これにて失礼致します。ルリ様もどうぞゆっくりとおくつろぎ下さい」

 私に一言告げたモローネはこの場から去り、マリアさんと二人きりになる。

「先ほどのお部屋であったモローネの態度は失礼しました。後で叱っておきますので」

「いえ、マリアさんが謝る必要はないです。元々私が無闇に触ってしまったのが原因ですから」

 少々大袈裟な反応だった気もするけれど、マリアさん直々に謝ってもらう必要はない。
 私にも責任があるからね。

「そう言って頂けると私も助かりますが、さっきの態度は私も少し引っ掛かっております。モローネは若干口が悪いとはいえ、初対面であのような立ち振る舞いは珍しいので…」

 マリアさんもモローネの態度に違和感が拭えないらしい。
 普段の様子を知らないから何ともいえないけど、モローネは私に敵意があるのは確かだろう。

「ルリさんが良いのでしたらこのままお話を終わりますが、またこのようなことがあればいつでも教えて下さいね」

「はい。何かあればご相談しますね」

 まあ、さっきのことくらいであれば水に流せるからひとまず様子見かな。
 マーベルと多分、年齢は変わらないのだから。
 そう比べるとあの年で素晴らしい技術を持つ彼女は評価するべきかもしれない。

「私も一度アレク様に用事があるのでこれにて失礼します。予定では十一時から挨拶が始まるので、その時はこの一階のフロアにいてくれると有難いです」

「わかりました!」

 中央にある煌びやかな時計を見る。
 後一時間くらいあるのか…。
 何しようかな。

 ん。
 そうだ!
 この間チラッとしか見れなかった庭園に行こう。
 今日は晴れていい天気だし!

 スキップしたい気持ちを抑え、庭園に移動を始める。
 慣れないヒールを履いたままそんなことをしたら間違いなく転けちゃうからね。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


 侍女のモローネはささくれた気持ちを抑えるのに必死だった。
 マリアとルリと別れた後も、モローネは苛立ちが一向に治る気配がなかった。

(なぜ私が、何処の馬の骨かもわからない村人の為に、このようなことをしなければならないのか?
髪くらい自分でセットしろ!
そもそも、アレク様の生誕祭に参加する資格はないだろが)

 モローネは元々、ルリを別邸で寝込ませる予定だった。いや、理想を言えばその流れで村に送り返そうとまで考えていた。

 表情や態度に出やすいモローネは、この後ろめたい行動がバレないように最善を尽くした。
 内心に秘めた思いが露見しないように彼女は心掛けたが、それは厳しかった。

(ムカつく。ムカつく。ムカつく)

 嫌な事は思い出しても全く意味がないと、わかっていても今朝の出来事が頭を支配する。




 マリアと部屋の中に踏み入れたモローネは呆然としてしまった。
 窓際に平然と立ち、外を眺める村人がいたからだ。

 しかも、モローネが仕込んだ毒入りドリンクを片手に持ってニコニコ飲んでいたのが不味かった。

(はあ!?
コイツは私が知っているような普通の村人なのか?)

 モローネの直感が告げていた。
 
(いや、断じて違う!!そんな訳がないと。

 あれだけ毒入りドリンクを全部飲み干しているだと!!)

 馬鹿げたような話だが、空になった瓶が雄弁に物語っている。

(いやありえないだろ。ていうか、同じ飲み物をたった半日で全部飲みきるとか、どんな神経してんだよ…)
 

 毎日、モローネはこの別邸の掃除担当だ。

 村人のルリが泊まる前日に、ドリンクに毒を混ぜることはモローネにとって容易だった。
 誤算があったのは十本も同じ飲み物が用意されていたことだが。

 マリアから前日にあの瓶を渡されたモローネは、

「これはしっかりとキンキンに、確実に冷やしておいてね」
 
 と念入りに頼まれていた。

 モローネは一瞬固まったが、すぐに怒りがこみあげてきた。
 
(はあ?全部おんなじジュースだし、十本も必要ないだろ!)

 そのせいでモローネは不足分の根っこ汁をなけなしのお給金を叩いてまで、調達する羽目になる。

(クソったれめ)

 売人から、

『微量のカラマイタケの汁で大抵のやつは体調が崩れるらしい』

 とモローネは聞いていた。

 ただ、カラマイタケの葉を食べたら症状は緩和されるし、そんな命に瀕する状態には基本的にはならないとも教えてもらってはいたようだが。

 どんな良薬や身体にいい食べ物でも、大量に取れば毒になるのはモローネでも理解していた。

(そもそもあの根っこ自体、元々毒らしいが。第一、魔法耐性のない村人があれだけの毒に耐えれるのか?)
 
  疑心暗鬼になっていたモローネだが、自己紹介を終えたので仕事に取り掛かる。

「ルリ様、あちらの椅子に腰をお掛け下さい」

 モローネはすぐに仕事に意識を向けようとしたが、ふと疑問に思った。

(ん?
ひょっとしてだが、あの胡散臭い商人がやがったのか?
だとしたら村人のこいつがピンピンしてる理由は納得できるが…)

 モローネが瓶に仕込んだのはカラマイタケの根っこじゃなくて、そこら辺に生えている草の根っことかならば。

 モローネは草の種類とか全く分からないし、知りたい気持ちも全く無かった。
 それが良くなかったのかと、彼女は自問自答する。


 平常心を保つために、モローネは黙々と作業に集中して髪をセットした。


 昔、カラマイタケは毒にもなるって聞いたことがあったし、売人自身も毒があるって言っていたのに。

 モローネの前にいる彼女はニコニコしながら、鏡を覗き込んでいた。

(売人に聞いた情報を鵜呑みにして、犯行に及んだのが失敗だったのか?

ああ、こいつがピンピンしている理由が全然分からねえ!

このクソ村人も。インチキ売人野郎も。
 
ムカつく!ムカつく!ムカつく!)

 その時点で、モローネの心は煮えたぎる溶岩のように熱くなっていた。

 
 いつもより手際もよく、完成度の高い仕上がりになる。

 いくらルリのことが嫌いだとしても一応、モローネも与えたら使命は全うするタイプだ。

(格好良く、聡明で、優しいアレク様直々に頼まれた事は絶対だからな!)

 モローネはイラつく気持ちを押し殺して、仕上がった髪を村人に伝えた。
 振り向いたルリは満面の笑みを浮かべながら、とっても嬉しそうに喜んでいた。

 その後、ルリがモローネの手をキュッと握りしめたことで沸騰したお湯が溢れるように、怒りの一端をあらわにしてしまったが。

(態度が悪かったのは後で叱られるとしてだな。毒を盛った事実にマリアさんは勘付いたただろうか)

 マリアが気付いたかは分からないけど、あの村人も薄々勘付いていると思う。
 ただ、毒を盛られたことをあの場では一切公言しなかった。

(やっぱり、私はぼったくられたのか?慣れないことするもんじゃねえな)

 モローネはアレク様のところに向かって心を鎮めようとしたのであった。

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