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第一章 力の覚醒
30話 過去の記憶
しおりを挟む「いてえな。おい」
ゾイは立ち上がりざまに、赤く染まった唾を吐いた。
「伊達に大きな身体じゃないか」
アレク様が眉間に皺を寄せて呟く。
「別に貴族のお前には用はないから失せろ。アニキと違ってな」
「アニキが誰を指しているのかは知らないけど、ここで引いてくれると助かるんだけどな」
アニキ…。
屋敷に襲撃してきた時の片割れか。
あの華奢な男は、私に興味があると思ったけど…。
アレク様も標的だったのだろう。
どちらにせよ、ゾイの片割れはこの場にいないから確かめる術はないか。
「俺様はそのガキと村人に用があるんだ。邪魔するならお前も殺すぜ?」
「仕方ないか。手合わせするしかなさそうだね」
アレク様はゾイを見据えると、魔法を行使した。
「炎矢」
本のおかけで一応知ってはいるけど、この中級魔法は初めて見た。
学園の訓練所で生徒が魔法の練習を行うが大体初級魔法しか扱えないからだ。
ちなみに火の矢が初級で、炎矢が中級魔法だったはず。
炎の矢が形成されると真っ赤に燃え盛る三本の矢が、鋭い速さでゾイに向かった。
ゾイは炎矢を躱わせなかったのか、片腕に一本突き刺さる。
アレク様の魔法は並の魔法士より優れているのだろう。
あの強靭な身体をあっさり貫くのだから。
「おいおい、この威力は反則だろうが。オレの身体強化を貫通するとは…」
「だったらこのまま引き下がってくれると嬉しいんだけど」
「それは出来ねえなあ。俺様は命令を無視してここにいるんだぜ。戦果を挙げず、おめおめ帰ることはしねえ」
「誰の命令を無視しているんだい?」
「素直に話す訳にはいかないなあ……。あー、こいつら二人の身柄を差し出すなら教えてやってもいいぜ」
どうやら、ゾイは規律を守ることにあまり執着しないタイプみたいだ。
この三ヶ月何も手を出すことが出来なかったから、待ちくたびれて我慢の限界を迎えたんだろうか。
ゾイは規則を守るより、私やマーベルのように非力な存在を弄ぶ方がよほど重要らしい。
「その提案は断るしかないね。残念だけど、キミはここで拘束させてもらおう」
「交渉決裂だな」
ゾイはアレク様に向かって正直から突っ込む。
アレク様は逆に後退して、一定の間合いを保とうとする。きっと、中距離以上の攻撃に特化しているからだろう。
「旋風」
アレク様はゾイに向かってさらに魔法を浴びせる。
人の大きさほど竜巻が発生して、ゾイを襲う。
炎矢同様、中級魔法を行使していた。
学園の魔術本によると、複数の系統魔法を扱うのは努力ではどうにもならないことが多いらしい。
生まれ持った資質でほとんど決まると書かれていた。
ゾイの衣服はボロボロになって切り傷が顕になる。
今のうちにマーベルをここから連れ出した方がいいよね。
私は倒れているマーベルを抱き抱える。
「アレク様が来てくれたから安心して」
「そっか。じゃオレたちはここを離れようぜ…」
マーベルは肩から出血が酷いため、私はポーチから包帯を取り出して止血する。
応急処置を終えた私は左脇からマーベルを支えて立ち上がる。
交戦している二人に視線を向けると、ゾイは上半身から大量の血液が流れていた。
「んー。拘束できそうだったのにな。自分の身体を犠牲にしてでも捕まりたくないのかい?」
「ああ、捕虜になるくらいなら死んだ方がマシだ」
「そうかい。残念だけど、キミをここで始末するしかなさそうだね」
アレク様は圧倒的に強かった。
衣服にも血は一滴も付着していないし、身体に怪我を負った様子もない。そもそも一方的に攻撃しているだけで、反撃の余地すら与えていなかった。
安堵した私はマーベルに微笑みかける。
「もうちょっとの辛抱だから。屋敷に行ったら傷の手当てをしっかりするからね」
「おう…」
私はここがまだ戦場だということを忘れていた。
アレク様の力に安心して油断したのが良くなかったのだ。
「ルリ姉、危ねえ!!」
後方から勢いよく迫ってくる投擲された剣に気付かなかったのだ。
我に返った時には遅かった。
マーベルが私を庇ったことで、彼の腹部にがっつり剣が刺さっていた。
「がはっ…」
あぁ。
どうして気を緩めてしまったのだろう。
敵から視線を外すした自分に腹が立つ。
「ルリ姉、怪我してねえか?」
マーベルが優しく微笑み、心配してくる。
私なんか心配しなくてもいい。
大した怪我なんてしていないのだから。
「マーベル動かないで!今すぐ助けるから!」
私は悲痛の声で、顔面蒼白になったマーベルに向かって叫んだ。
仰向けにしたマーベルの腹部からは大量に血が流れており、魔法で治療しないと助からないくらい深い傷を負っていた。
「ルリ姉、大丈夫だぜ。泣くんじゃー」
マーベルは掠れ切った弱々しい声で話し掛けてくる途中、口からも吐血する。
「ダメ、しゃべらないで!」
私の手のひらに鮮明な血液が付着した。
「彼は始末したよ」
ゾイを葬ったアレク様がこちらに駆けつける。
「アレク様、マーベルを治療することは出来ないでしょうか?」
涙を浮かべた私は震えた声で尋ねる。
「私は攻撃魔法に特化していて、神聖魔法は使えないんだ。本当に申し訳ない…」
「はい…」
「ルリ姉、これっくらいの怪我で大袈裟すぎるぜ…」
マーベルは虚勢を張り、平然を装っている。
顔色は真っ青で息も絶え絶えだ。
このまま魔法による治療ができないと、死に至ってしまうのは明白だろう。
嫌だ!
死んでほしくない!
神様でも。
ううん、悪魔でもいいから!
どうかマーベルを救って!!
ビリっ。っ。
頭の中が切り裂かれて、焼けるような激痛が走る。
刹那、頭の中に幼い頃の記憶が鮮明に流れてきた。
「ルリ、貴女は選ばれた力を持っているわ…。だけど、この力を使って悪用する大人が沢山いるの…」
「そうなの?」
「だからね、この力はルリが大きくなるまで封印しておくわ」
ママが穏やかな口調で話してくる。
「大きくなるっていつまでなの?」
いつもよりママの耳が赤い。
人の耳より大きくて、細長く尖っている。
ママはエルフだから私も大きくなったらこれくらいになるのかなぁ。
ちなみにパパは人間だ。
教会の偉い人でいつもお仕事をしている。
だからパパとはあまり一緒に遊んだことはない…。
「十五歳になったらこの封印が溶けて、これまでの記憶が戻ると思う。だからね、これだけは絶対に忘れてないで…」
「なぁに?」
「私もパパもルリのこと、心から愛しているからね」
ママは大粒の涙を流しながら、私をぎゅっと強く抱きしめてくれる。
急にどうしたんだろう。
なんか辛いことあったのかな?
「パパはお仕事でここにはいないけど、またお家に帰ってくるんだよね?」
「…。ええ、大変なお仕事をしてるから中々戻ってこれないかもしれない。だけど、パパもルリを遠くから必ず見守っているからね」
「うん!わかった!ママも心配しないでね。私、強くなるから!」
ママはさっきまで涙を浮かべていたけど、急に力強い目つきで私の両肩に手を置いた。
「あのね、ルリ。貴女に宿っているこの力は人を癒すこともできれば、簡単に殺めることも出来ちゃうの。だからね、絶対に人殺しの為に使わないってママとお約束できる?」
「うん!しない!
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「いいわよ」
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「貴女のそばにずっといるからね。ルリのこと、世界一愛しているわ」
おでこにママの柔らかい唇が触れた。
ママは脱力したかのように目の前で崩れ落ちた。
瞳孔が開いた虚になった目が合う。
やだよ!
私を一人にしないで!!
わたしは泣きじゃくる前に、意識を失った。
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