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1. コンタクト
アリストの日常から物語は始まる(物語前史)
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『クゥーン...クゥーン...』アリストは愛竜ボルクの鳴き声で目を覚ました. ボルクは2年前のシティ図書館主催の白亜紀遠征の時にキャンプに迷い込んできたプロトケラトプス科の赤ん坊恐竜である. アリストに妙に懐いている.
やれやれ,論文を読んでいたのにいつのまにか眠りこけてしまったようだ.
寝ぼけまなこで窓の外を見やると大海原を背景に巨大な飛行船が発着所に停留している. それに無数の人々が乗り込んでいるのが見える.
おそらくウェイラのセンター方面に向かう第七通勤船だろう.
ここニュー・アレクサンドリア・シティでは見慣れた光景だ.
ウォッチを見やると15時を五分過ぎていた. 師であるミニマム博士との待ち合わせ時間までまだ少しある.
タイム・キューブの使用許可証がウォッチに入っていることを確認すると,ミニマム博士から渡されていたシティ図書館の参考書籍を書棚から引っ張り出し,丁寧にリュックに詰め込んだ.
『クゥーン..クゥーン..』
ボルクが鳴きながらからだをなすりつけてくる.
『ボルク,お腹が空いているのかい? よしよし,今おやつを用意するからね』
アリストはボルクのおやつを用意すると,支度を始め, シティ図書館に向かった.
ニュー・アレクサンドリア・シティ図書館はタイム・トラベルが開発された21世紀末に世界中の名だたる博物館や図書館や美術館が共同で運営するかたちで市民に開かれた学術拠点として花開いた. ニュー・アレクサンドリア・シティは太平洋のど真ん中にさまざまな施設群や住居群がネットワーク状にひしめく巨大水上都市ウェイラの一区画に位置する. ウェイラは,地球に300ほど点在する水上都市のなかで最大規模だ.持続可能文明を公に自認していることと地球最強の軍を有していることで有名だ.
シティ図書館はタイム・トラベルを公的に管理していてトラベルに際しての一切の権限を行使できる. 教育機関であるニュー・アレクサンドリア・シティ大学が併設されている.
アリストは水上タクシーを降りると,速足でシティ図書館のゲートに向かった.
頭上を見やると,たくさんのスカイ・バイクが飛び交っている. しばらくすると,そのうちの1台が駐車場に着地したのが見えた. バイクの腹に図書館員のマークが付いている. ミニマム博士だ.
『こんにちは,博士』
『おぅーう,アリスト君,今日は天気が......『グゥオー,ピカッ』
大きな音と一瞬のまばゆい光りの後に巨大な飛行船が空中に空いた漆黒の穴からぬらりと現れた. と同時に図書館の格納庫が音もなく開いた. 格納庫の中に重そうな巨体が沈んでゆく. 先史調査艇が帰還したのだ.
『 ありゃ時空調査艇先史隊の21f号だ. 戦闘装備があるわい. わしゃ丁度待っていたところじゃわ』
2人は図書館の中に入ると受付カウンターへ着いた.
『 シティ大学高校部博士課程のアリスト・ラボックです. ルネサンス期のB型キューブを予約しているのですが』
『お待ちしておりました. 研修生夕食会のご予約は承っております. 最長滞在期間は6日間となっております. 延長手続きはウォッチで行ってください. では研究区画Bへご案内いたします. 』
『なお,獣脚類研究区画及び専用テラリウムは閉鎖中ですので予めご了承ください. 』
タイム・トラベル研究は大々的に到来したのではなかった. まず光子一粒を1億分の1秒以下のループとして時間上を循環して操作させる試みから始まった. 始めの数十年間は誰も成功しなかった. 神のなせる業であるかに思われたのだ. だが,量子重力理論の進展とkey-Lの初動が絡み合い,端緒を開いたのだ.
タイム・トラベルは栄光の始まりだが,21世紀から続けられていたレオナルド・プロジェクトの成功は文明の分岐の始まりだった. とある国同士の争いが発端となって勃発した世界大戦でレオナルドの遺伝子が使用されたのだ. クリスパー技術がダヴィンチの強化遺伝子を持つ世代の誕生を可能にした. 超人たちの能力は予想を遥かに超えていた. 常軌を逸した知能に加えて何人かは遠隔透視能力に始まる時空連続体への意識アクセスが可能であったのだ.
超人は概ね善良か穏やかに見えた. 大戦後は人権も保障されたし移住や亡命する者もいた. だが,何より大きく受け止められたのはルネサンス現象や古典期ギリシアへの概念的革新であった.
事態は急速に展開した. 地球外文明ゴルドゥの存在だ. ケプラー186f星系近傍にテクノシグネチャーが検知されたのが始まりだった. だが,すぐに1000光年以内の千箇所以上の位置で検知された. その後も続々と検知され,衝撃的な事実が判明した. テクノシグネチャーに星系由来の主点がなく,蠢きながら太陽系を球体状に取り囲んでいたのだ.
そして数日もしないうちに攻撃が始まった. 赤色のレーザー光が地球上をくまなく射たのだ. 人類には反撃する術がない. だがなぜか2時間で攻撃は止み,球体状のシグネチャーは依然として残ったままだ. しかもその後は音沙汰がない.
攻撃の被害報告は一切なく,多くの憶測を呼んだ. ゴルドゥの正体も赤色のレーザー光が何だったのかも未だに謎のままだ.
そして数十年後,超人たちの研究が結実し,タイム・トラベルの黄金期が花開いた. 地政学上の要衝であるウェイラにニュー・アレクサンドリア・シティとシティ図書館が建設されたのだ.
やれやれ,論文を読んでいたのにいつのまにか眠りこけてしまったようだ.
寝ぼけまなこで窓の外を見やると大海原を背景に巨大な飛行船が発着所に停留している. それに無数の人々が乗り込んでいるのが見える.
おそらくウェイラのセンター方面に向かう第七通勤船だろう.
ここニュー・アレクサンドリア・シティでは見慣れた光景だ.
ウォッチを見やると15時を五分過ぎていた. 師であるミニマム博士との待ち合わせ時間までまだ少しある.
タイム・キューブの使用許可証がウォッチに入っていることを確認すると,ミニマム博士から渡されていたシティ図書館の参考書籍を書棚から引っ張り出し,丁寧にリュックに詰め込んだ.
『クゥーン..クゥーン..』
ボルクが鳴きながらからだをなすりつけてくる.
『ボルク,お腹が空いているのかい? よしよし,今おやつを用意するからね』
アリストはボルクのおやつを用意すると,支度を始め, シティ図書館に向かった.
ニュー・アレクサンドリア・シティ図書館はタイム・トラベルが開発された21世紀末に世界中の名だたる博物館や図書館や美術館が共同で運営するかたちで市民に開かれた学術拠点として花開いた. ニュー・アレクサンドリア・シティは太平洋のど真ん中にさまざまな施設群や住居群がネットワーク状にひしめく巨大水上都市ウェイラの一区画に位置する. ウェイラは,地球に300ほど点在する水上都市のなかで最大規模だ.持続可能文明を公に自認していることと地球最強の軍を有していることで有名だ.
シティ図書館はタイム・トラベルを公的に管理していてトラベルに際しての一切の権限を行使できる. 教育機関であるニュー・アレクサンドリア・シティ大学が併設されている.
アリストは水上タクシーを降りると,速足でシティ図書館のゲートに向かった.
頭上を見やると,たくさんのスカイ・バイクが飛び交っている. しばらくすると,そのうちの1台が駐車場に着地したのが見えた. バイクの腹に図書館員のマークが付いている. ミニマム博士だ.
『こんにちは,博士』
『おぅーう,アリスト君,今日は天気が......『グゥオー,ピカッ』
大きな音と一瞬のまばゆい光りの後に巨大な飛行船が空中に空いた漆黒の穴からぬらりと現れた. と同時に図書館の格納庫が音もなく開いた. 格納庫の中に重そうな巨体が沈んでゆく. 先史調査艇が帰還したのだ.
『 ありゃ時空調査艇先史隊の21f号だ. 戦闘装備があるわい. わしゃ丁度待っていたところじゃわ』
2人は図書館の中に入ると受付カウンターへ着いた.
『 シティ大学高校部博士課程のアリスト・ラボックです. ルネサンス期のB型キューブを予約しているのですが』
『お待ちしておりました. 研修生夕食会のご予約は承っております. 最長滞在期間は6日間となっております. 延長手続きはウォッチで行ってください. では研究区画Bへご案内いたします. 』
『なお,獣脚類研究区画及び専用テラリウムは閉鎖中ですので予めご了承ください. 』
タイム・トラベル研究は大々的に到来したのではなかった. まず光子一粒を1億分の1秒以下のループとして時間上を循環して操作させる試みから始まった. 始めの数十年間は誰も成功しなかった. 神のなせる業であるかに思われたのだ. だが,量子重力理論の進展とkey-Lの初動が絡み合い,端緒を開いたのだ.
タイム・トラベルは栄光の始まりだが,21世紀から続けられていたレオナルド・プロジェクトの成功は文明の分岐の始まりだった. とある国同士の争いが発端となって勃発した世界大戦でレオナルドの遺伝子が使用されたのだ. クリスパー技術がダヴィンチの強化遺伝子を持つ世代の誕生を可能にした. 超人たちの能力は予想を遥かに超えていた. 常軌を逸した知能に加えて何人かは遠隔透視能力に始まる時空連続体への意識アクセスが可能であったのだ.
超人は概ね善良か穏やかに見えた. 大戦後は人権も保障されたし移住や亡命する者もいた. だが,何より大きく受け止められたのはルネサンス現象や古典期ギリシアへの概念的革新であった.
事態は急速に展開した. 地球外文明ゴルドゥの存在だ. ケプラー186f星系近傍にテクノシグネチャーが検知されたのが始まりだった. だが,すぐに1000光年以内の千箇所以上の位置で検知された. その後も続々と検知され,衝撃的な事実が判明した. テクノシグネチャーに星系由来の主点がなく,蠢きながら太陽系を球体状に取り囲んでいたのだ.
そして数日もしないうちに攻撃が始まった. 赤色のレーザー光が地球上をくまなく射たのだ. 人類には反撃する術がない. だがなぜか2時間で攻撃は止み,球体状のシグネチャーは依然として残ったままだ. しかもその後は音沙汰がない.
攻撃の被害報告は一切なく,多くの憶測を呼んだ. ゴルドゥの正体も赤色のレーザー光が何だったのかも未だに謎のままだ.
そして数十年後,超人たちの研究が結実し,タイム・トラベルの黄金期が花開いた. 地政学上の要衝であるウェイラにニュー・アレクサンドリア・シティとシティ図書館が建設されたのだ.
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