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第4-1話 王城に行くよっ!

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 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  

「『悪夢祓いの聖女』様、お迎えに上がりました。どうぞ、こちらの護送車へ」
「ほ、ほげぇぇぇ!?」

 翌日、約束の刻限。
 仕方なく言われた通り宿屋で待っていた私の目の前に現れたのは、やばい規模の騎士の一団だった……。
 ロビーで待ってたら、遠くの方から一糸乱れぬ足音が聞こえてきたんだ。
 もしかして、いやまさかそんな、なんて思ってたら、そのまさか。
 私のことを迎えにきた騎士団の一群だった。
 その数、ざっと見ても50人以上。

「え、あぅ、そ、その、ああああり、ありがとうごじゃます…………」
「びびってんじゃねぇよ、ピルタ」

 私たちのためだけに、こんな人数の大人が駆り出されたという事実にビビる私。
 そんな私の首元で、耳たぶにぺしっとツッコミを入れるネムちゃんは、昨日に引き続きリラックスしている様子だ。
 来てくれたのは昨日と同じ隊長さん……だったと思うんだけど、相変わらず顔全体を覆う兜をしてるから顔なんか解らない。
 ロビーに現れたと思ったら、すぐさま馬車に案内されてしまった。
 で、この『馬車』っていうのが、また凄くて。
 お馬さんに似た異世界の動物が4頭立てで引いてるような、巨大な輿のついた馬車だったのよ……。
 この異世界に来てからかれこれ1年くらい経っちゃったけど、こんないかつい馬車見たコトない。
 ネムちゃんも訝しげなカンジで馬車を見上げてた。
 仕方なくエスコートされるままに乗り込んでみると、中はいたってシンプル。
 大きさの割には中が狭くて、居心地はあまり良くない。
 乗り降り用の扉も金属でできいているせいで、まるで…………独房とか、犯罪者を入れておくような、そんな。
 ま、待って! これ大丈夫だよね!? 牢屋じゃないよね!!?
 私とネムちゃんが乗り込んだ途端に、金属の扉が音を立てて閉められたせいで、めちゃくちゃ不安になってきた!

 こんな規模の集団と馬車で私ひとりを迎えに来なきゃならないような王様の依頼って、一体何なんだろう……。
 というかホントに何で昏睡魔法を使える人を探してるんですか?
 この馬車ぜんぜんくつろげないんですけど、もうちょっと何とかなりません!?
 目的地に向かう途中で、同席してくれるであろう隊長さんに色々ぶつけてみようと思ってた私だったけど、そんなチャンスは無し。
 馬車の客車に乗せられたのは、私とネムちゃんだけ。
 カギをかけられてるワケじゃないから監禁じゃないけどさ、馬車の周囲には山ほど騎士さん達が居るし、なんかもう逮捕されました感がハンパないわ……。

「ねぇ、ネムちゃん。これって大丈夫だよね? 私、怒られに行くんじゃないよねっ??」
「別に心当たりは無ぇんだろ? もし最近、やらかしたな~っていうコトがあったら言ってみろよ」
「城下町の露天でステーキを買ったらケチな店主に小さい肉片を渡されたので、昏睡魔法をかけてアツアツの鉄板にキスさせました」
「うーん、有罪ギルティだわ」

 こんな冗談を言う余裕はまだあるから、平気だけどねっ。


  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇ 


 移動式牢屋みたいな馬車で揺られるコト、十数分。
 私たちはいよいよレアリーダ王国の中央にそびえ立つ王城へとやって来た。
 この王城はとにかくデッカいので、王国のほとんどどこにいても見えるシンボル的な存在だ。
 そんな、いつも遠目から見ていた王城に今まさに入ったなんて、何だか不思議な感じ。
 異世界に来ても、王城なんて用事のない一般人がそう易々と入れる場所じゃないしね。
 巨大な門がこれでもかってくらいうるさい音を立てて開いたかと思うと、馬車はゆっくりと中へ入っていった。
 お城の敷地内はとにかく広く、前庭はには良く手入れされた木々がずらりと立ち並んでいる。
 その奥に見える建物の入り口では、私の到着を待ち構えていた執事のような男の人が数名、深々とお辞儀をしているのが見える。

「ピルタ様とネムちゃん様ですね。早速ですが王がお待ちです。係の者がご案内致しますので、どうぞこちらへ」
「あ、は~いっ」

 停車した馬車から降りた私は、前庭のあたりで50名からなる騎士団に見送られながら王城の中へと入った。
 大理石のようなツヤッツヤに磨かれた石でできた床に、見たことないくらい大きな絨毯が敷かれている。
 私の姿を見るなり、メイドさんのような格好をした人数名が「どうぞ、こちらへ」と促してくれたので、素直について行くコトにする。
 ぴんと背筋を伸ばしたまま歩くメイドさんたちの後ろを歩きながら、私は猫背になりながらきょろきょろとお城の内装を眺めながら歩いた。
 私の隣で大人しくふわふわと浮いていたネムちゃんが、ぼそりと零す。

「(うへぇ……なんつーか、『豪華絢爛』って言うよりは『質実剛健』、ってカンジのお城だなぁ~)」
「(そうだね、想像してたよりも何だか落ち着いてる。と言うより、なんだろね……ちょっと寂しいカンジもするんだけど……)」

 ヒソヒソ声でネムちゃんと話してみるが、まわりが石造りのため声がめちゃくちゃ反響しちゃう。
 こっそり話してるつもりだけど、案内してくれてるメイドさんたちには丸聞こえだろうね!
 だけどネムちゃんが言ったように、お城っていうとどこか華々しい雰囲気を想像していたんだけど、ここは何だか違う。
 もちろんこれだけ大きなお城だから、存在そのものが豪華なんだろうけど……うーん、何て言ったらいいのかなぁ。
 お城の中すべてが、色褪せているように見えると言うか。
 お花も飾ってないし、松明もほとんど設置されていない。
 そして沢山のひとがここで働いているはずだろうに、今歩いている廊下にも、視界の端に見えるお部屋にも、ほとんど人影が無いんだ。
 すごく広いはずなのに、なんだか寂しい場所だなぁ。
 なんて勝手に感想を思い抱いてると、目の前に大広間が見えてきた。

「ピルタ様、ネムちゃん様。正面に見えます『謁見の間』にて、国王様がお待ちになっております」
「あ、ありがとうございますっ。あの…………」

 案内をしてくれたメイドさんたちが一礼してくれたところに、声をかける。

「はい、なんでしょうか?」
「あの……わ、私って今回、何の御用事で王様に呼ばれたんでしょうか? その辺のところ、まだ何も聞いてなくてですね……」

 王様に会う前に、できれば聞いておきたいっ。
 でも私に問いかけられたメイドさんたちは、困ったような表情を浮かべながら互いを見合うだけだった。

「も、申し訳ございません。実は今回、わたくし共も御二方おふたかたへのご用件をお伺いしておらず……」
「あ、あらら、そうなんですか?」
「えぇ、誠に申し訳ございません」

 そう言いながら深々と頭を下げ、スススーっと下がっていくメイドさんたち。
 貰えた返答は、昨日の夜に騎士団長さんに言われたものと全く同じでしかなかった。
 私たちは、石造りの中でひときわ目立つウォルナット色の大きな扉の前に取り残されてしまった。
 広い廊下の奥、ぽつんと立つ私とネムちゃん。

「……ねぇ、ネムちゃん。騎士団長さんもそうだったけどさ、誰も王様が私たちを呼んだ理由を知らないなんて、あり得ると思う?」

 私は思っていたコトをそのまま言葉にしてみた。
 誰かに聞かれているかも知れないが、構わない。
 私は今、ネムちゃんに相談したくてたまらないんだ。
 だって、それ程までに怪しいんだもん、この依頼。
 やっぱりフツーはさ、王様が部下に命令を出すなら『これこれこういう理由で聖女を探してこい』とかって言うモンじゃない?

「うぅ~ん……考えられるとしたら、誰にも知られたくない理由なんじゃねえのか?」
「ふぇ? どゆこと?」
「だからよ、王様は自分の身を守ってくれる騎士団のトップにも話せないような理由で、ピルタを呼びつけたんじゃねえのかってコトだ。このセキュリティ万全な王城の中でさえも、ピルタを呼んだ理由を知られちゃマズい事情があるんじゃねえの?」

 ネムちゃんはメイドさんが下がっていった方向の廊下をちらりと見ながら話す。

「それってさ、つまり……」
「ああ、ロクな依頼内容じゃねえだろうな。内容にもよるだろうが、少なくとも依頼の中身を聞いちまったら後に引けないようになるのは間違いねえ」
「だ、だよねー!? うぅぅ……どうしよう、どうするべき……?」
「さぁなー……この目の前にあるでっかい扉を開けちまったら、もう引き下がれない気がするぜ」

 そう言われて、私は眼前にある巨大な扉を見上げた。
 異世界の生物を象ったと思われるレリーフが刻まれた大きな鉄扉は、冷たく輝きを放っている。
 その見た目が、どことなく不安を煽る。
 黙ったまま立っていると、さすがに脅かしすぎたと思ったのか、ネムちゃんが軽い口調で切り出した。

「まっ、最悪の内容だったとしてもだ、俺とお前だったらここにいる騎士の連中から逃げる事自体は簡単にできるだろ。だからそうビビるなよ、ピルタ」

 宙に浮きながら、ぽんぽんと私の後頭部を撫でてくれた。
 ふんっ。
 散々私を不安にさせたくせにっ。
 もーホントに、ネムちゃんがイケメンの年上男性だったら良かったなぁぁ。
 ……なんて場違いなコトを考えながら、私は唇をかたく結んでから扉に手をかけた。
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